第31話 夢


 無事屋敷に着いた俺たちは、あまりにも早い帰宅に驚かれながらも、起きている中で手が空いている人たちに、干し肉を調達してもらった。

 そこで、ホクロウ組合と提携したことを上手く使い、干し肉の補充も頼むことにした。

 

「はい。銀貨50枚、確かに確認したよ」


 俺は誰にも見られない場所で、カズキに銀貨50枚が入った袋を渡した。


「地図をくれたことは感謝する」


「まあ次からは金貨1枚だからね。場合によっては2、3枚増えるけど」


「……高いな。定期的に来るのか?」


「まあね。月に1回行くよ」


「ちゃんと有益な情報用意するんだろうな?」


「舐めてもらっちゃ困るよ。こちとらこの商売で飯食ってんだ」


 でも俺より金持ちの貴族にはもっと高値で商売してるんだろうな。


「じゃあ資金を貯めて待ってるとするか」


 いつの間にか渡した袋はなくなっていた。

 多分魔法か手品でどこかにしまったんだろう。


「あっ、1つ聞き忘れたんだが……。君は何か夢や野望はあるのかい?」


「夢……?」


「そう深く考えないでくれ。聞いておけば、より有益な情報を調達できるかもしれないからね」


 考えたことは何回かある。

 忙しくて忘れてたから、今思い出したけど……。


「――さあな」


 俺は黙秘した。


「それは、言いたくないということかい?」


「くだらないことだ。お前と酒を飲むぐらい仲良くなったら言ってやるよ」


「酒って……。16歳の子供が何言ってるんだか」


「子供だと? 俺は酒には強いぞ」


「酒が強いから子供じゃないと断言する時点で、十分子供だよ」


「考え方じゃない。事実だ」


「君はいい感じに酔っているだけだよ。何でもできる。俺は主人公だってね」


「……誘導しているのか?」


「さあ? まあ我ながらくだらない会話だった。1人で勝手に反省しとくよ」


 手をひらひらさせ、俺に背を向けた。


「――おーい! 積み終わったぞー!」


 ホクロウのおじいさんの声が聞こえてきた。


「分かった! 今向かう!」


 声がした方を向き、大きな声で返事をした。


「……あっ。お前はこの後――」


 振り返ると、そこにはカズキの姿はなかった。


「何なんだアイツ……」


 もしかして、俺が元々この世界の住人ではないことに気づいているのか?

 だが何を根拠に?

 

「……警戒しておこう」


 俺は消えたカズキを深追いせずに、馬車に向かって歩き出した。




◇ ◇ ◇




「――領主様」


 馬車に乗り込もうとする俺に、バーンが木箱を持って寄ってきた。


「バーンか。あっ、ホクロウのおじいさん。こちら、ランタンの開発をしているバーンだ」


 すぐさま、ホクロウのおじいさんを呼び、バーンを紹介した。


「アンタがランタンを? 俺は御者組合ホクロウの代表のホクロウだ」


 ホクロウが自己紹介をした。


 名前そのまんま組合の名前に使ってたのか。

 

「バーンだ。よろしく」


 軽く挨拶を済ませたバーンは、木箱を開けた。


「ちょうど良かった。試作品ができたんだ。これを付けて帰ってほしい」


 箱の中には、10個のランタンが規則正しく並んであった。


「おお。このつまみは何だ?」


 ホクロウは、ランタンの蓋に付いている、ガス栓のつまみのようなものが気になったようだ。


「このランタンの中にある球体はな。空気と触れると、溜め込んだ魔力を消費して光るんだ。だから使用する時はこのつまみを回し、中に空気が入るようにする。そして使わない時はつまみを戻せば、空気が入らなくなり、次第に光は消える」


「ほお。火を使わないランタンか。しかも魔物が寄り付かないと言っていたな」


「その通り。と言いたい所だが、まだ試作品だからな。どのぐらの効果があるかは分からない。実験で、あそこまでの距離には寄ってこないはずだ。スライムだが」


 指をさした場所は……。

 大体20メートルぐらいか?


「まあ実験が成功しているならいいか。スライムだけど」


「何回も試行して作ったんだろ? なら大丈夫だ。スライムだけど」


 バーンはランタンを手に持って、全体を見せた。


「3日は持つはずだ。次第に明るさが足りなくなってくるだろうから、その時が替え時だな」


「なるほど。まあすぐ干し肉の補充で戻ってくるだろうし、細かく調整できると思う」


 1ヶ月も続ければ、完成品を発売できるはずだ。


「ちなみに魔力はどうしたんだ?」


「ああ。例の温泉を有効活用させてもらった。領主様に手伝ってもらった10段階やつの中で、温泉を使った球体の光り方を比べてより近いものを見つけたんだ」


「なるほどなぁ」


 温泉も含めて、住宅地も順調に発展してきてるし、本当に1ヶ月後が楽しみだ。


「よし。着けてみるか!」


 ホクロウはランタンが入った木箱を受け取り、取り付け作業を始めた。


「そうだ。この封筒をルシアに渡しておいてくれないか?」


 俺はサイハテ領の詳しい地図が入った封筒をバーンに渡した。


「これは……?」


「渡せば伝わると思う。入手手段は今度話すと言っておいてくれ」


「分かった。そう伝えておく」


「頼んだ」


 いずれは話さなきゃいけないことだし、まずはルシアとザカンに話しておくべきかな。


「――付け終わったぞ。いつでも行ける」


 ホクロウが付け終わった合図をした。

 ランタンはすでにつまみを回して、明かりが点いている状態だった。


「じゃあ行くか!」


 俺たちは出迎え、調達してくれた皆に礼と挨拶を済ませ、馬車に乗り込んだ。

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