第17話 見学


 姉が光魔法を飛んでいったのを確認した俺は、安心したのか、ドッと眠気が襲ってきた。


「――寝るか。俺がやることはもうないだろ。夕方起きたら、多分ジャッカルが帰ってきて……。いや、起きてから考えよ」


 俺は自室に戻ってすぐに寝た。




◇ ◇ ◇




「――ん? 今……何時だ?」


 随分長い時間寝てた気がする。


 俺はベッドから起きると、外を見てみる。


「……げっ。もう夜じゃん……」


 辺りはすっかり暗くなっていた。

 林は暗くてよく見えない。


「あっ……」


 枕元に小さな紙があった。

 手紙のようだったので、文字を見てみる。


『お腹が空いているようなら、厨房に行ってください。ジャッカルさんたちが狩ってきたお肉で軽めの夕食を用意してあります。追伸。今晩はしっかりお休みください。ノアより』


 ノアの奴……。


「心配させすぎてるのかな……」


 立ち上がった俺は紙を置き、部屋を出る。

 そこは仕事用の部屋になっている。

 自分の机の上に書類が置いてあるのが目に入った。


「……マジか」


 寝てたからって仕事が減る訳じゃないしな。


 書類をペラペラと軽く見る。


 これはルシアに頼んでいた居住区の人たちの家族構成。

 これは大工のオッサンに頼んでた家の設計図の案。

 これはバーンやスーによる林の調査報告。


「林の伐採が終わったのか?」


 だとしたら色々試したいことがあるんだよな。


「あーっ! どんどんアイデアが浮かんでくる!」


 もう一回寝るべきか?

 いや、飯食って風呂に入ろう。

 汚れを落とさないと。




◇ ◇ ◇




 あれから飯を食って風呂に入った。

 すれ違う人全員に心配されたが、大丈夫と伝えた。

 ジャッカルだけバカにしてきたが……。

 アイツはいつ俺を慕ってくれるんだろうなぁ。


「フゥ。ちょっと冷えるな……」


 夜風に当たろうと屋敷を出たが、少し肌寒い。

 林の状況も見たいので、1人で歩いていく。


「――あとちょっとだな」


 見てみると、林は5分の4程度なくなっていた。

 明日には確実になくなるだろう。


「畑を作りたいが、その前に商品開発でなぁ……」


 畑を作る際、岩を退けたり抜根をしないといけないんだが。

 まあ姉の登場で少しは片付いているが……。

 その前に商品開発を進めたいのだ。


「ランタン……」


 一度整理をすると、俺やバーンが考えている商品は、『ランタン』だ。

 他にも応用は聞くと思うが、『ホーラビット』の角を使ったランタンだ。


「等間隔に置くとして、両側合わせて20本か」


 まずは林の中心にあった一本道の両側に、ホーラビットの角を使った街灯を設置しようと考えている。

 岩や木の根は残しておく。

 俺の魔力を角に込めるとして、20本それぞれに込める魔力の量を変える。

 その状態で、朝昼晩の3回程、岩をひっくり返したりして、スライムなどの魔物がいるかいないかを調べる。

 それでちょうどいい魔力量、どのくらい光と効果が保つかなどを調べる。


「あとはどう商売をするかだけど……」


 考えているのは、夜道を出歩く際に片手に持つランタン。

 馬車に提げておくタイプのランタン。

 これからやる実験のような街灯。


「……馬車の御者を対象にすれば交易のきっかけになるのではないか?」


 いける。

 いけるぞこれなら……!

 確認の為に、明日隣の領に出かけるとしよう。


「そうと決まれば……」


 寝る。


 俺は屋敷に戻って、もう一度寝ることにした。




◇ ◇ ◇




「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


「行ってらっしゃいませっ」


 そう言って、俺を見送ってくれたのはザカンとノアだった。


「ああ。屋敷のことは頼んだ」


 俺は今から、ザカンが用意してくれた馬車に乗り、サイハテ領の西にある『バイハル領』に行く。

 バイハル領は、サイハテ領より大きな土地ではないが、交易が盛んな領地として有名である。

 様々な領地と隣接していることも盛っている理由の1つだ。


「では行きましょう。リンドラ様」


 今回はルシアと御者をやってくれるスーの3人で行く。


「分かった。頼んだぞスー」


「ん……」


 すでに運転席に座っているスーは頷く。


 皆には、俺がいない数日間の動きは予め指示してある。

 ヨボルドを中心とした家の位置決め。

 大工のオッサンの家の設計図。

 残りの林の伐採。

 ジャッカルによる食料調達と畑で育てられそうな植物の調査。

 林の伐採が終わったらバーンによるランタンの開発。

 スライムの天日干し。

 相変わらず嫌そうだったけど……。


 これだけ指示すれば、数日は大丈夫だろう。


 安心した俺は、荷物を持って馬車に乗り込んだ。




◇ ◇ ◇




「――様。リンドラ様」


 誰かに体を揺らされて目が覚めた。

 どうやら馬車の中で寝てしまったらしい。


「ん? どうしたルシア……」


「着きましたよ。バイハル領ですよ」


「……着いたのか!」


 俺はバッと起き上がった。


「はい。と言っても、まだ関所ですけどね」


 関所か……。

 確か荷物とか調べるところだよな。

 関所って言い方日本史でしか聞いたことないけど。

 世界観大丈夫か?


「次の馬車。前へ進んでください」


 関所の職員と思われる声が聞こえると、止まっていた自分の馬車が前へと進んだ。

 ルシアは窓を開け、職員に顔が見えるようにする。


「今日はどこから?」


「サイハテ領からです」


「サイハテ領……。移住ですか?」


 初手でその質問されるとか、どんだけ廃れてんだって話ですよ。


「いえ、ただの観光です」


「観光ですか……。もし移住する場合は、町で特別な審査を受けてもらいますから、気をつけてください」


「分かりました」


「滞在期間は?」


「2日間です」


「……それでは、荷物を調べさせてもらいます」


「どうぞ」


 数人の職員が荷物を調べ始める。


「――異常なし。通ってよし」


「ありがとうございます」


 対応はルシアに任せて、バイハル領の関所を通ることができた。


「流石ルシア。慣れているな」


「関所を通ることは多々ありましたので」


「これからも頼む。それで、ここから中心の町に向かうのか?」


「……そうですね。私も最近はどうなっているのか分かっていないのですが、大きな町が3つ程あったと思います」


 そんなにあるのか。

 さっきの関所と言い、色々学べることが多そうだな。


「1つずつ行きたいところだが、その中で最も交易が盛んにおこなわれている所にしよう」


 あくまで俺の狙いは御者だからな。


 ヤバい。

 ちょっとワクワクしてきたな。


 この時考えていた『ランタン』が、とんでもないブームを巻き起こすことを、まだリンドラは知る由もなかった――。

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