第16話 ドラゴンの卵


「――領主様。こちら居住区で大工をしていた者です」


 畑の件を任せた男たちに会いに行くと、ハチマキを巻いたオッサンが一緒にいた。


「領主様! 俺に用があるって聞いたぜ。何か造るのかい?」


 大工のオッサンは自慢に筋肉を見せ、なんでも造ってやると言わんばかりのやる気を見せる。


「ああ。ちょっとこっちに来てくれるか」


 これから居住区の人たちの家を建てる上で、相談したいことがあった俺は、スライムを天日干ししている方向に、大工のオッサンを連れていった。




◇ ◇ ◇




「――この干してあるスライムのことなんだが……」


 天日干しにより、少し青くなってきているスライムを大工のオッサンに見せた。


「これがスライムか。ブヨブヨしていて気持ちわりぃが、コレがどうかしたかい」


 大工のオッサンはツンツンとスライムをつついた。


「実はこのスライムの性質がな、物理攻撃に強く、体温が一定らしいんだ」


「ほぉ……」


「さらに調べて気づいたんだが、水も弾くんだよコイツ」


「物理攻撃に強く、体温が一定。さらに水も弾く……」


「そこで思ったんだが、このスライム。家の屋根に使えないか?」


 そう。

 この大量のスライムを、建築分野で使うのだ。

 もっと分かりやすく言うと、スライムを『瓦』として使うのはどうかという話だ。


「どうだろうか?」


「……試して見ねぇと分からねぇな」


 スライムをジーッと見ながらそう言った。


「だが面白い発想だ! 俺は乗ったぜ」


 大工のオッサンはガっと拳を合わせて、俺の意見を尊重してくれた。


「本当か!」


「ああ。何か製図するようなもんはねぇか。早く設計してみてぇんだ」


「それなら屋敷に製図の道具があるはずだ。ザカンに聞いて、勝手に使ってくれていいぞ」


「よっしゃあ! そうと決まれば!」


 大工のオッサンは全力ダッシュで屋敷の入口に向かっていった。


「よし。次にやることは――」


 俺は振り向くと、見覚えのある流星が見えた。


「もう終わったのか!?」


 帰ってきた姉を迎える為、俺も全力ダッシュで落下予想地点に向かっていった。




◇ ◇ ◇




「ハァッ、ハァッ、姉上ッ、もう倒されたのですか?」


「そこまで慌てて迎えに来る必要はない。着地も静かにしたからな。あと私のことはお姉ちゃんと呼べ」


 伐採を進めたことが功を奏し、何も無い場所に姉は着地してくれた。

 もちろん爆音で。


 とりあえず被害がなくて良かった……。


「それで、もう倒したかと聞いてきたな? もちろん倒したぞ。アレは雑魚だ」


「さ、流石姉上。感謝します」


 この人が味方で良かった〜!


「リンを苦しめる邪魔者もいなくなったし、茶でも飲みながら話そうか」


 まあとりあえず俺もやることなくなったし、用意した手土産を渡して話をするか。

 俺がいなくなってどうなったか聞きたいし。


「でしたら応接間で。ついてきてください」


 俺は姉を部屋まで案内した。

 周りの人たちには気にせず働いてくれと伝えておいた。




◇ ◇ ◇




「どっ、どうぞっ」


 応接間で、机を挟んだ向かい合わせのソファに座った俺と姉は、ノアが淹れてくれた紅茶を受け取った。


「ありがとうノア。下がっていいぞ」


 ノアが緊張しているのを察した俺は、すぐに下がらせた。


「――さて、それで話というのは?」


 俺は姉が何か話したいと思い、話題を振った。


「まぁこれといって話すことはないんだが……。むっ。そういえば、何の罪を問われたんだ?」


 姉が俺の冤罪について触れてきた。

 

 知らなかったのか?

 あの言い方だと、てっきり知っている上で擁護してくれると思ってたけど。


「父上から聞いていないのですか?」


「あ、ああっ。聞いてないなっ」


 姉はそっぽを向いてそう言った。


 ――アキが城に戻ってきた時のこと。


「父上! リンドラはどこにおられるのですか?」


「おおアキか。今回もよく無事に帰って――」


「リンドラはどこに!」


「えっ。ええっと、リンドラはある罪を犯してな。今はサイハテ領の領主に――」


「なっ……。迎えに行ってきます!」


「いや、これが重い罪で……ってアキ!?」


 アキは父上の話を無視して城を飛び出したのだった。


「――だったら伝えておきますか。冤罪ですけどね」


「ああ。聞かせてくれ」


「実は――」


 俺はドラゴンの卵を盗もうとした罪で、サイハテ領の領主に位が下がったことを伝えた。


「ふむ。ドラゴンの卵が絡んでくると、確かに大罪だな」


 そこまでのものなのか?


「やはり価値があるものなのでしょうか」


「ああ。方法は分からないが、あの卵から孵ったドラゴンは、国を滅ぼす力があると言われている」


 あっ、そんなにヤバいものだったのねぇ。


「その卵は我が国で管理しているが、その卵を狙って隣国が戦争を仕掛けてきているのだ」


「なぜですか? やはり兵器となるからですか?」


 少し話が難しくなってきたな。


「それもあるが、あの卵がある土地は、大地に活気が溢れ、生態系が安定する効果があるのだ」


 生態系のバランスが崩れないということは、極端な話、食糧にも困らないし、農業も発展するのか……。

 そりゃ欲しがるわな。

 置いとくだけで国が豊かになるんだがら。


「ということは、姉上も今……」


「もちろん戦っている。と言っても、戦に勝ったから戻ってきたのだがな」


 ほんの少し、誇らしげにそう言った。


「まあ姉上がいるなら大丈夫ですよねっ」


「そうとも限らん」


「え?」


「今現在、このガイザー王国の西に隣接する『アスタール』との戦いが続いている。つまり、戦争続きで兵はみるみる疲弊していっているのだ」


「……他の国も狙ってくる?」


「そういうことだ。あと1年もしたら、新たな侵攻してくる国が現れるだろう。そうしたら兵力も分散しなければならない」


「もしかして……」


「そうだ。お前も民を率いて戦うんだ」


 俺が大将として戦争するのかよ!


「し、しかしこのサイハテ領が呼ばれることなどないと思いますが」


 そう言うと、姉は机を指でトントンと叩いた。


「ここ、サイハテ領は、ガイザー王国の最も東に位置する。つまり隣国の『モスクラム』と隣接……。いや細かく言うと、何個か小さな領を挟んでいるが、この膨大な土地は真っ先に狙われるだろうな」


 ホワッ!?


「じゃ、じゃあどうすればぁ……?」


「ある程度復興し、周囲の領地とも関係を持つことだな。軍事力も上げなければならない」


 問題と仕事が増えたッピ!!


「も、もし良ければ姉上のお力を借りれたら……」


「ふむ。そうだな。今何かしても足枷にしかならないだろうからな。まずは、民の衣食住を安定させ、交易などを発展することだな。そうしたら考えてやろう。あとお姉ちゃんと呼ぶこ――」


「ありがとうございます!」


 俺はソファから立ち上がり、深く礼をした。


「……しかし、復興・・したらの話だ。しっかり領主として頑張れ」


 少し姉の表情が曇った姉は立ち上がった。


「はいっ!」


「……」


「ではまた機会があれば是非来てください。今度は事前にご連絡してください」


 抜き打ちで来たら、この話はなかったことにってなるかもしれないし……。


「……むぅ。分かった。今日は帰るとする」


 姉が唇をとがらせながら、部屋を出る準備をした。


「あの子にも、美味しい茶をありがとうと伝えておいてくれ」


「分かりました」


 姉はそう言うと部屋を出ていった。

 見送る際、凄いチラチラと見てきたけど、たぶん引き止めたら面倒くさいので、俺は引き止めなかった。


 できればしばらく来ないで。






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