序 3

(えっ?何これ?)


「ねえ、ちょっと芽衣、花音」


「えっ、ふざけてるだけでしょ、亜希、横沢さん、茜!」


「ねえってば」


 普段から仲の良い芽衣、花音、亜希、茜も、そこに優希が居ないかのように振舞う。クラス委員で、真面目だけが取り柄のような横沢にすら優希の声は届いていない。


「おっはよーー」


 元気な声と共に教室に入ってきたのは陽菜だった。


「……陽菜」


 陽菜はすれ違い様に肩を強くぶつけた。


「あれ~陽菜、今何かにぶつかったみたい?」


 しらを切りながら振り向いた。その目は真っ直ぐ優希をとらえている。


「あれあれ~何にもないのに変だな~」


 あたかもそこに誰も存在しないかのようワザとらしく両手を振り回し、優希の両頬を平手で軽く打った。パチンッと軽い音が響く。


「いたっ……」


「ん~やっぱり、何にもないや」


 陽菜は口の端を持ち上げ嫌な笑いをしながら、上目遣いで優希を見上げた。その意図に気付いた優希は体を強張らせた。


 同時にクラスのあちこちからクスクスと笑い声が聞こえ、優希の顔はたちまち赤くなる。


(私無視されてる……?)


(なんで?)


 足先から体が冷えていくのを感じながら、両腕を胸の前で抱えた。優希はこの感覚を知っている、小学校6年の時、遊び半分でクラスの友人達に無視された経験が刹那に蘇る。その時は直ぐに標的が違う子に移ったので、無視されたのは2~3日の出来事だったのだが、一度味わった孤独感と恐怖は時々夢に見るほどの根深い傷を優希に心に刻んでいた。


(また、あの時みたいに……やだ)


「押~忍、おはよ」


 みのりが一際大きい声で優希に挨拶をしながら、教室に入ってきた。


「いや~朝練で指やっちゃってさ~、保健室行ってたからギリギリだっだよ」


 真っ白なテーピングで厳重に覆われた右手の中指を見せびらかせながら、みのりは笑う。


「おはよ……みのり」


 優希は小さな声で呟きながら涙をこぼした。


「ちょっ優希どうしたの?」


 いきなりの涙にみのりが戸惑ってると始業のチャイムが鳴った。

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