序 2
相変わらず切り替えが早い。優希は中学時代そんなみのりの性格に救われた過去がある。
中学生の頃は相当にヤバかった……と自分でも思う。飾り気のないメガネ、手入れされないボサボサの髪、無口でいつもクラスの端で一人本の世界に入り込んでいる陰気な女の子。
そんな子がある日、文化祭のクラス代表実行委員長に選ばれた、誰もやりたがらない厄介な役割を押し付けられたのだ。そしてその大役は困難を極めた、誰一人優希の意見に耳を貸さず出し物も決まらない、それでいて不平不満は留まることなく、そのプレッシャーは毎日の睡眠を削る羽目になっていた。
この状態が後一日でも続いたら自分は壊れてしまう、そう思いながら重い足取りで登校したある朝、みのりが優希の机を両手で叩いた。
「優希!これからは何でも私に言って!」
みのりはクラスで孤立している優希のことを心配していたが、バレーバールの県大会で忙しく何の力になれないと歯がゆく思っていたらしい。しかしチームが予選敗退したことで自由になり早速声を掛けたのだった。
行動力・発言力の強いみのりが味方になった途端、呆れるほど全てが上手く回り出し結果文化祭は優希のクラスが一番の評価を貰い大成功で幕を下ろすことができた。
「優希の企画力のおかげだね」
みのりはそう言って笑い、その笑顔につられるように優希も笑顔が増え漸くクラスの一員になれたのだと今でも感謝している。
その時から優希にとってみのりは唯一絶対の存在になり、今では親友と呼べる間柄にまでなっていた。いまかけているウェリントン型のメガネも、みのりが選んでくれたもので、いるか壊れたとしても宝物として大事にしようと思っている。
結局その日は陽菜に避けれてしまい、謝ることが出来ないまま放課後になってしまった。優希は部活に向かうみのりと、恐らく最後になる心からの笑顔で別れた。
翌日普段通り登校した優希は教室に足を踏み入れた途端、クラス内の空気感に気圧された。
(なんだろう……?)
一見すると普段通りの何でもない光景、そこに何かフィルターがかかったような重苦しさが優希の肌に纏わりつく。
「おはよー」
懸念を振り払うように目の前にいる
が、返事は帰ってこなかった。
(あれ?聞こえなかったかな?)
「芽衣っ、おはよー」
「……」
やはり返事はない。というより優希の存在を認識していないようにも見える。
芽衣は返事の代わりに優希の後から教室に入ってきた
「おっはよー」
「おはー」
花音は優希をすり抜け芽衣に挨拶を返す。
(えっ?何?)
戸惑う優希をよそにクラス中で挨拶が飛び交い雑談が咲き乱れる。
「おはよっ」
「おはっ」
「おんまー」
「うぇい」
「あれみた」
「やばくね」
その言葉のことごとくが優希をすり抜けていった。戦場でただ一人、優希だけが弾丸の嵐から避けられているような圧倒的な孤独感。
まるで自分が透明人間になって誰にも見えていないような疎外感。
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