第5話-6 二重瞼

交差点で信号が青になるのを待っている。周りは人で溢れ返っている。

ねえ、これを見た人。私、何か悪いことをしたかな。してないよ。悪くないよ。


私はこの文たちを投稿した。それだけ。それだけだよ。

あなただって見たでしょ?







ああ、信号が青になった。

もう行かなくちゃ。




他の人と一緒に私は歩き出す。誰かがこっちに向かって歩いてくる。

私は気づいた。なんとなく。なんとなく、そうだと思った。


それは私の目の前で目を開こうとした。







私は見たくなかった。もうあれを見たくなかった。見たくなかったの。







心を読む妖怪に恐怖するのは二つの理由がある。

一つ。人がいればそれもいるから。

二つ。読まれる中身じゃなくて、中身を閉ざしてる扉が開かれるのを恐れてる。扉が壊されるのを、怖がっている。


中に何を入れたのかなんて覚えてないよ。それは努めて忘れようとした結果でもあるんだろうけど。

でも、扉が開かれたら思い出してしまう。せっかく癒えた傷も血を吹き返す。それらが一気に溢れた時、私たちは耐えられない。


もう、見たくなかったの。




私は、目を閉じた。


車のブレーキ音が近づいてきた。

そしてそれは私の上を通り過ぎて行った。




目を閉じなきゃ。壁を作らなきゃ。

心の中を見たくない。見られたくない。

それでもその妖怪は油断させるように化けてくる。

まぶたの上は私たちをバカにするように笑っていた。




ねえ、これを見たあなた。













あなた、いい加減化けるのやめてよ。

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