未知との遭遇

@d-van69

未知との遭遇

「いいか。子供の頭を撫でるのはやめておけ。あと、挨拶で握手をするのも考えものだ。こっちでは当たり前の文化でも、向こうにとっちゃ非常識な行為と受け取られる可能性もあるからな。下手すれば相手を怒らせることにもなりかねん」

「わかってるさ、そんなことくらい。こっちもプロなんだから」

「いや、俺が言いたいのは、細心の注意を払えってことさ。まだ言葉も通じない相手なんだろ?何が地雷になるか分からんからな」

 旅立つ前の友人とのやり取りが今頃思い出された。

 ここはアマゾンの奥地、数ヶ月前に新たに発見された未開の民族が住む村だ。言語学者、人類学者、歴史学者、生物学者など、世界各国から選抜された研究者による調査団。その中に私もいた。

 言葉もどんな文化を持っているかもわからない。浅黒い肌に植物の葉で編まれた簡素な衣服。幸いなことに攻撃的な面は持っていないらしく、我々と対峙した彼らは一様に無表情のまま、一定の距離を保っている。

 まずは言語学者が、外見が近い幾つかの部族の言葉で話しかけた。しかし相手は何の反応も示さない。

 次に人類学者である私が進み出た。とにかくなにかコミュニケーションをとれるきっかけになればと、荷物の中に忍ばせていた包みを取り出した。お近づきのしるし、いわゆる手土産というやつだ。

 恐る恐る差し出すと、一人の男が進み出てそれを受け取り、仲間の元に戻った。

 額を寄せ、何事かを囁きあっていたかと思うと、彼らはいっせいにこちらに顔を向けた。

 全員の顔に笑顔が浮かんでいた。

 よかった。気に入ってもらえたようだ。

 私が笑顔をつくると、他のメンバーも和やかに笑う。

 満面の笑みを浮かべた村人たちがこちらに向かってくる。

 私たちも笑いながら相手に歩み寄る。

 すると、突然村人たちが我々に襲い掛かってきた。隠し持っていた武器で、頭といわず背中といわず、滅多打ちにされた。

 知らなかった。

 初対面でいきなり贈り物をすることは、宣戦布告を意味することを。

 そして、我々が言うところの笑顔とは、怒りと敵意を示す表情だったなんて。

 

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