第7話  余計なことは言わないで

 丁度、前のお祓いが終わった後だったみたいで、すぐに大森くん達は移動することになったんだよね。お祓いって境内の中に置いてある椅子に並んで座って、頭を下げている間に、ファサーファサーっと紙がついた三十センチくらいの棒を振って祝詞をあげるみたい。


「君はこれの名前、知っているかな?」

「はい?」


 僕がぼんやりとみんなの背中を見送っていると、巫女さんの格好をした若い女性が、神主の人が使うファサーファサーの棒を僕の前に見せながら問いかけて来た。


 丁度、参拝客も少ない状態だったので、お守りを売る巫女さんも暇だったのかな?一人だけ残った僕を気にかけて声をかけて来てくれたのかもしれない。


「お祓い棒とか、そんな名前ですか?」

「ブブー違いますー」


 お姉さんは一枚の紙を僕に見せながら言い出した。

「これは何と読むのでしょうか?」

「大麻(たいま)」

「ブブー違いますー」


「みんなにお祓い棒と言われることも多いこの紙がもしゃもしゃくっついた棒なのですが、大麻(おおぬさ)といいます。浅布は神様にお供えするのに重要なものとなるため、大麻を振ることで穢れが移るとされています」


 いやいやいやいや。


「棒にくっついているの、紙で作ったものですよね?麻布とかじゃないじゃないですか」


 巫女のお姉さんはニコニコ笑いながら言い出した。


「この白い紙で出来たものは紙垂(しで)って言うんだけど、この紙垂を結ぶ時に麻紐を使っているんだよ!」

 

 木の棒の先端には、確かに麻の紐で紙が括り付けられている。


「麻の方がお金が掛かるから、自然に紙を使うようになったって言われているんだよ。これを振る前に祓詞(はらえことば)を奏上するんだけど、君は一緒にお祓いしなくても良いの?」


 巫女さんのお姉さんがさっきから僕の左肩の方を見ているんだけど、僕は完璧に無視をすることにした。交通事故に遭った僕はチャンネルが開いて幽霊が見えるようになったんだけど、僕の左肩には、何だか知らないけど、大きな鷲のような足が見えるんだ。


 これが幽霊なのか、錯覚なのか、思い込みなのか、ただの厨二病なのかは分からないけれど、僕はこれを自分からは良く見えないからという理由で、完全に無視して過ごしているのだ。


「それにしても凄いのを付けているけど、大丈夫なの?」

 お姉さんは呆れた様子で言い出したけど、僕はにこりと笑って答えたよ。

「言われている意味がわかりません」


 はわわわわ〜みたいになっているお姉さんの驚いた顔は可愛かったけど、僕はあえて気にしていないのだ。左肩に居る何かについては、言及しないでいてもらいたい。


 僕はそんなことよりも、重大なミッションを抱えているので、

「あの、すみませんが・・」

 イケメン神職が何処にいるのか、巫女のお姉さんに尋ねようとしたところ、

「天野さん・・天野さん?何処に居るの?」

 と、社務所の向こう側から声がかかって来たわけ。


「玉津先輩!ここです!ここ!ここ!」

 巫女さんが社務所に向かって声をかけると、建物をぐるりと回って来たような感じで水色の袴を履いた男の人がこっちの方にやって来たんだよね。


 これは確かに、ネットをざわつかせるだけあるわ。


 とにかく顔立ちが神々しいまでに整っている。この人と比べれば、テレビに出てくるタレントさんなんか、全員が全員、普通以下だ。プロマイド写真目的で氏子になる人が続出したとしても、そうなんだろうなって思うよ。すげーーーっ、男前だ!


「え?はっ?ぎゃあああああっ!」


 男前は巫女さんのお姉さんを見てにこりと笑った後、僕を見て目を見開き、あんぐりと口を開けて、最後には絶叫したんだよね。何故?


「先輩、先輩、悪いものじゃないから大丈夫ですよ」

「え?なに?お祓い目的で来たの?」

「いや、お祓いしないらしいんですよ」

「なんで?」


 ちょっ、嫌だなー、なんで二人で僕をじっと見るのかなー。


「共存しているんじゃないんですか?」

「そうなの?めっちゃ怖いんだけど!」


 イケメンと巫女さんがコソコソ話しているんだけど、僕の方にまできちんと聴こえていますから!


「鬼も一緒に居るみたいなんで大丈夫ですよ」

 巫女さんの言葉を聞いて、ドキリッとしたよね。鬼といえばあれだよ、あれ。

「あの、一つだけ質問なんですけど、鬼は悪いものなんですか?」

 なにしろお母さんの後には鬼のお面が常時憑いているし、おばあちゃんなんか顔に直接張り憑いているからね。

「先祖代々のものだと思うけど」

 巫女さんは悩ましげな表情を浮かべながら歌い出した。


「 送気時多少

    垂陰復短長

    如何此一物

    擅美九春場    」


 漢詩?なぜ?


「本当に嫌だな」

 イケメン神職は自分の顔を覆って項垂れると、僕に向かって言い出した。

「今、彼女が言ったのは平城天皇の五言律詩、桜花を賦すの後半四句なんだけど、君の関わりある人はそれだけの年月を生きてきたモノということになる」


 えーっと。


「決して悪いものではない」

「はあ」

「とりあえず気を付けて」

「何に気をつけるんですかね?」

「色々なことにだよ」


 やだもう、本当に、余計なことは言わないで欲しいんだよな。


「君は桜に縁があるだろう」

「何その予言的な奴」


 結局、僕はイケメン神職と巫女さんから奉納飴を無料で貰い、家内安全のお守りを購入して帰ることになったんだ。


 家に帰ったところで、

「智充!写真は?イケメン神職の写真は撮ってきたの?」

 と、お母さんが興奮しながら声をかけて来たんだけど、巫女さんとイケメンのツーショット写真を見せたら、

「なんで単独で撮ってくれなかったの?」

 と、何故だか文句を言われた。




      *************************




イケメン神社の息子のお話は『屍の声』で書いています。ホラー作品となりますが、興味がありましたら、こちらの方も宜しくお願いします!!

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