空は青くて、優しくて

mamalica

空は青くて、優しくて

 ふぅ。

 

 今日は五月晴れだ。

 抜けるような空が、とてもキレイ。

 とても気持ちいい。

 

 ゴールデンウィーク真っ只中だけど、今日は初仕事だ。

 まあ、自分で選んだ仕事だから仕方ない。

 先輩が一緒だから心強いけど、祝日出勤はシンドイな。


 

 遊園地行きの電車は満員だ。

 人込みは苦手だから、早く降りたい。

 けれど、車よりマシだ。


 車の中の独特の臭いは、人込みより苦手だから。

 特に革のシートの臭いには耐えられない。

 思い出すだけで、オエッとなる。

 革製品よ、世の中から消えろ!



 ……!?

 ……はぁ?

 ……うっ!

 アタシのお尻を触る痴漢がいる!

 何なのよ!

 ああ、厚手のデニムでも履いてくれば良かった。

 ワンピースを着ろって言われたから、従ったけど……

 えーい、痴漢のクソッタレ!

 どーすれば良いのよ!?



「痴漢ですっ!!」

 

 あっ、先輩の声だ!

 先輩が気付いてくれた!

 お尻を探っていた手が離れた!


 周囲がざわつき始め、男性たちは互いの顔を見る。

 誰かが、先輩に訊ねた。


「大丈夫ですか?」

「はい。たぶん……あ、でも気のせいかも知れません」


「次の駅で降りますか? 駅員を呼びますか?」

「いえ、ご心配なく。急いでいるの結構です」


 

 先輩の顔は見えないけど、とりあえず助かった。

 この状況じゃ、痴漢もおとなしくなるだろう。

 

 次の駅に到着し、数名が降り、数名が乗ったようだ。

 降りた中には、痴漢もいただろう。

 取り逃がすには悔しいけど、仕方ない。

 はぁ~。

 

 

 

 そして二十分。

 やっと遊園地前の駅に着いた。

 人が一斉に吐き出される。

 

 う~、やっぱ少し気持ち悪い。

 緊張して寝不足だからかな。

 君には才能があるとか乗せられちゃったからな~。



「災難だったね」

 先輩が声を掛けてくれた。

「気分はどう? 緊張してる?」

「ええ……ちょっと酔ったみたいです」

「じゃ、ジュースでも買って来るね。まだ時間があるから」


 先輩は近くの販売機から、メロンソーダを買ってきて渡してくれた。

 

 ……うん、まあ少しはスッキリする。

 炭酸が心地いい。

 甘い~。

 

「先輩、すみません。初仕事なのに」

「ううん。私も同じだった。緊張するのは当然ね」

 

 先輩は、まるで実の姉のようにニコリと笑ってくれる。

 先輩も、薄手のワンピースにローヒールだ。

 遊園地にハイヒールは疲れるしね。



「みんな、来てるみたいよ」

 先輩が小声で言った。

「いい? 私たちの仕事は、ターゲットの周りを歩くだけ。あとは、仲間がやってくれる」


「はい、先輩」

 アタシはメロンソーダを飲み干し、紙コップを握りつぶした。

 今回のターゲットは、四十代のオジサンらしい。

 素性は知らないけど、アタシと先輩は不自然でない程度に、そのオジサンの目を引けばいい。


 オジサンの顔は覚えたし、オジサンが家を出た時の写真も見た。

 あとは、仲間が殺ってくれる。


 ヤバイ商売に足を突っ込んだけど、これはこれで。

 先なんて考えない。

 今まで、独りで生きて来たんだから。

 少しの贅沢をして、太く短く生きるのよ!


 今から、新生活が始まるの!

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