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轟ミチル

第1話 防空壕に巣食うもの

貴方は「防空壕」をご存知でしょうか。それは戦時中に敵国からの攻撃を避けるために地下や洞窟などに一時的に避難をする為に作られたものの総称をそう呼ぶ。諸説あるがここでは上記に述べた物を防空壕と称する。


戦後70年を超えもうすぐ80年に入ろうとする。当時使用されて居た防空壕の多くは危険である事などから封鎖やそのものを埋め立てる事が多くなってきているが田舎ではまだ当時使用されていた物がそのまま残っている物もある。


とある夏の日。大学が夏休みに入っているため時間に余裕がある男女四名が海水浴の帰り道、一人の男の提案で肝試しをする事になった。その男の地元には有名な防空壕があり大人からは絶対に近づいてはならないと言われており地域の人からは避けられている。とは言えど閉鎖はされているが簡易な物のため南京錠一つという事もあり工具さえあれば入ることは可能であった。男も女性と遊んで気が大きくなったのか、好奇心が優ったのかいきなり行こうと言い出した。気持ちが昂って居た残りのメンバーも二つ返事で行く事に躊躇いはなかった。


時刻は夕暮れ。夏でもありまだ17時を過ぎても辺りは明るいがその防空壕は山の中腹にあるため薄暗い雰囲気を漂わせて居た。普通であれば君悪さを感じ避けるところであるが男たち四人は気分が高揚していた為微塵も感じなかった。


南京錠がしてある事は有名であったため男は近くのホームセンターでチェーンカッターや糸鋸などを購入して向かう。


防空壕は鉄格子で厳重に封鎖しており扉には噂通り南京錠がされてあった。奥は暗くよく見えない。男はスマホのライトで照らせばと考えて居た。


ドアの付近まで着くと男が言う「鍵が開いてる」。見ると南京錠が外れている。女の一人が辞めようと嫌がっているが男は経年劣化で鍵が壊れたんだろうとしか考えず中へと進む。一人の女は怖くて車で待機すると言い、男二人、女一人で進む事になった。


真夏だと言うのに防空壕の中はやけにひんやりとしている。洞窟をくり抜いて作られたのか壁に当時使用されていたであろう食器や農機具が立て掛けられていた。男たちは一人がスマホでライトを照らしもう一人が中を写真で撮って回っていた。中は多少入り組んではいたもののそう広くなく行き止まりに到達する。「なんだ、広いだけで何もないじゃん。」と男が口に出すと女が何かを見つける。あ、あ、と声が出ない様子で地べたに座り込む。女が指さしている方向を見ると天井を支える梁からロープが何本も垂れている。恐る恐るライトで照らすと人間が首を吊っている。

男は悲鳴をあげ立てない女を小脇に抱え急いでその場を立ち去ろうとする。通路が狭いためうまく走れない。走っても走っても出口に辿り着かない。どれだけ考えても入口からそこまで距離はない、すると男の一人が付いてきていない事に気がつく。男は大声で友人の名前を呼ぶ。返事は返ってこない。男は女にスマホを渡し灯を頼りに出口まで行くように指示する。戻りたくないが友人を探すため道を引き返す。足取りは重く灯りもない為不安と恐怖で汗が止まらない。その内に行き止まりまで辿り着く。友人の姿はない。声を出すが返事もない、防空壕の中は行き止まりに辿り着くまで何本かの道に別れている為何処かで入れ違いになったに違いないと男は思い引き返そうと後ろを振り向く。


「お前は何をしている」

「お前もここで死ぬんだよ」


目の前には宙に浮かんだ目のない人間が笑っているような顔で呟く。


男は大声をあげ出口へと走る。灯りもない為何度も転ぶが一切振り返らず走る。朝からは血が流れ板から飛び出ている釘で何ヶ所も腕を切っているが目もくれず走り続ける。


出口へと辿り着くとまだ薄らとではあるが明かりが差し込む。安堵の表情を浮かべ鉄格子のドアに手をだす。「ガチャガチャ」金属音が防空壕内に響き渡る。外から鍵が掛かっている様子が確認できる。


男は大声で友人の名前を叫ぶ。携帯で連絡を取ろうとするが女に渡してしまった為手元にない。何度も出口をガチャガチャと引いていく内に鍵が壊れドアが開く。


「逃げるな、逃げるなニゲルナ、ニゲルナ」


後ろを振り返る余裕なんてない。ドアから出ると何者かに足を掴まれ転倒する。必死に振り払い防空壕を出る。出た所で男は意識を失い倒れ込む。


「おい、おい、◯◯、起きろ」

気がつくとわたしを取り囲むようにし友人と女性二人がわたしを見つめている。

「お前急に中で走り出したら大声を上げたり、気がついたら倒れて意識が無くなるからここまで連れてくるの大変だったんだぜ」と友人は話す。友人に防空壕内でのことを話し警察に電話しようか話すと、「何言ってんの、防空壕入ったはいいけど有刺鉄線が何重にも貼ってて奥に入らなかっただろ、」と友人は話す。


わたしは恐ろしくなり友人らとその場を離れる。夢だったのか、ならそれでいいと家路に着く。

帰ると汗だくで直ぐにシャワーを浴びる。すると全身に痛みが走る。シャンプーの泡を流し体を見ると無数の傷が体に付いていた。


その後わたしは破傷風に感染し入院する事になった。医師に原因を聞かれたが分からないと答える。言っても信じては貰えないであろう。


それ以降その防空壕に行く事は無くなった。


わたしも日が経つと怖さを忘れて日常に戻りつつあった。友人が血相を変えてスマホの写真を私のところまで持ってくる、その日までは、


※実際に体験した話です。しかし勝手に防空壕に入ることは禁止されています。他人の土地であった場合罪に問われる場合もあります。決して真似しないでください。

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