第7話 やつあたりはやめよう



歓迎の宴というが、僕には友達がいない。


それ処か全員が敵だから、適当に食事を皿に盛りつけ、それを持って端に移動した。


流石に転移初日だからか、絡んでくる奴はいなかった。


貴族やらお偉いさんと話しているが僕には関係ない。


食事に『ばい菌』を使ってみたが使えなかった。


僕の虐めに起因しているなら、まぁそれも仕方ないだろう。


矛盾しているが、食材にばい菌は使えなかった。良く、沢山の数の給食を運ばされていたからそのせいかも知れない。


急いで食事をかっこみ、廊下に出た。


昨日の騎士に会えれば良いが……そう上手くはいかないだろう。


だったら……誰でも良い。


騎士にあって昨日の騎士の現状を教えて貰らいたい……居た。


「あのスミマセン!」


「なんだ!? なにかようか?」


「いえ、昨日、王女様の傍に居た、あの、身分の高そうな騎士様にアドバイスを頂いたからお礼を言いたかったのですが……見当たらないので……」


「騎士団総長のライオネスの事か? あの方は昨日より体調を狂わせて寝込んでいる。体を震わせ高熱が下がらず、手にしびれが出ているそうだ」


「お見舞いはさせて貰えないでしょうか?」


「それは無理だな! 俺達みたいな平騎士とは違い、あの方は正騎士だから城下町の屋敷にいるからな」


「正騎士?」


話によると騎士爵以上の爵位を持っている正騎士と、爵位が無い平騎士と2通りあるそうだ。


今話しているこの人は平騎士。


ライオネスは騎士総長という事もあり子爵の爵位持ちの正騎士だそうだ。


「お礼もお見舞いも無理そうですね。 お手数を掛けました」


そのまま、自室に戻った。


ばい菌のスキルは、即効性ではないようだ。


あの時の虐めの内容がスキルだとしたら……


『聖夜菌がついたら、病気にかかり死ぬ』


『聖夜菌がついたら腐る』


要約するとこんな内容でいじめられていた。


その場で死ぬ様な冗談はしていない。


これじゃ即効性が無いのも当たり前だ。


流石に、ただ傲慢な態度をとられた位で殺すのは気が引ける。


頭の中でスキルの解除を無言で唱えた。


なんとなく、感覚的に解除されたのがわかる。


後遺症までは責任はとれないが、これで多分死んでいない筈だ。


◆◆◆


「ハァハァ~ゼイゼイ」


「お前さん、本当に体力が無いな……この世界で生きていけないかもな」


「その、ハァハァ、冗談は、ハァハァ頂けない」


僕は今、お城の裏庭を走っている。


他の同級生は魔法が使える者は座学。


戦闘職タイプの者は正騎士たちから訓練場で手ほどきを受けているみたいだ。


そして、僕は全く体力がないので体力作りとして走らされている。


そう言う訳だ。


指導してくれているのは平騎士や兵士。


まぁ、魔族との戦闘に参加しないで2週間で追い出される僕じゃこんなものだろう。


ここでの生活は他の同級生と切り離されている。


そのせいか、色々と考える余裕が出来てきた。


考えた結果。


異世界人は態度は兎も角、そんなに悪い人間ではない気がする。


前の世界じゃ、一方的に僕が悪いと決めつけた教師。


最初は僕を庇おうとしたが、最後は僕が悪いと決めつけた両親。


そいつらに比べれば、まだマシなのかも知れない。


そう思うようになった。


少なくともこの世界の人間は召喚で呼び出した人間に頼らないと大変な事になる。


なら、あの態度は仕方が無い。


だから、異世界人にはもう、手を出さない。


但し……同級生は別だ。


「そういえば、お前さんライオネス元騎士総長にお礼が言いたかったんだよな?」


「ハァハァ、ゼィゼィ……そうですが、ハァハァ、だけど元って……」


そう言えばそんな事を言っていたな。


「ライオネス元騎士総長は、原因不明の病気は治ったんだ。だがその際に手の一部が壊死してな、指を数本失ったそうなんだ! 自分から『もう騎士は勤まらない』と辞表を出したそうだ」


「そうですか……」


確かに尊大な態度をとられた。


だが、殴りもしない相手の人生を半分終わらせてしまった。


やり過ぎだ。


「そうですか……それはお気の毒……」


「いや、そうでもない! 実は此処だけの話ライオネス騎士総長は辞めたがっていたんだ」


「何故ですか?」


「そりや、異世界人の召喚に成功して、これから勇者パーティと魔族の本格的な戦いが始まるんだ。そうなると、その戦いに参加せざる負えないだろう? そこの責任者になるんだぜ。下手したら死んじまうじゃないか?」


「確かに」


「折角、子爵の爵位持ちなのに死にたくない。そう仲の良い騎士には漏らしていたそうだ」


「そうですか? でも指を失ったら生活に困るんじゃないですか?」


「子爵だから、今後も充分なお金が入るし、ああ見えて女好きだから、早速、複数の愛人を屋敷に呼んでしっぽり楽しんでいるみたいだ……あっ悪い、話しすぎたか……お前は世話になったんだったな」


「いえ、思っていたのと違いましたが安心しました」


「そんな事より、もっと頑張れ! そんな体力じゃ生きていけないぞ」


「はい」


良かった。


僕のせいで人生を終わらせてしまったと思ったが……


これなら責任を感じなくて良さそうだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る