第034話



「学園祭の話を暁斗さんにしなきゃって、ずっと思ってはいたんですよ」


 皆と分かれて俺と電車に乗ったところで、海奏ちゃんはそう話してきた。


「9月に学園祭なんだね。珍しくない?」


「そうかもしれませんね。うちの学校は毎年9月の最終日曜日が学園祭の日ってことになってるみたいです」


 学園祭といえば、10月か11月のイメージがある。


 もちろん学校によって違うんだろうけど。


「海奏ちゃんのクラスは、何をするの?」


「世界中の教会に関する、展示物ですね。いつも3年生は、そんな風に手抜きをした感じのものが多いんですよ」


「教会かぁ……聖レオナはカソリック系の学校だもんね」


「そうですね。そっち系の展示物のほうが、先生方や父兄の受けもいいみたいなので」


「なるほどね。そういうことか」


「それより暁斗さん、本当に大丈夫ですか? 来てもらっても……退屈かもしれませんよ?」


「そんなことはないでしょ? 海奏ちゃんに案内してもらえるんだし。模擬店とかお芝居とかはないの?」


「ありますよ。1年生と2年生は模擬店とかをやるクラスがありますし、演劇部はちょっと宗教色のある劇をやるみたいです。吹奏楽部のミニコンサートみたいなものもありますし」


「そうなんだ。もうそれだけで、十分楽しめそうだよ」


「だといいんですけど」


 二人でそんな話をしていると、あっという間に俺たちの最寄り駅に着いた。電車を降りて、二人で横並びで歩く。


 学生服の美少女と、冴えないリーマンの俺。


 傍から見たら、どんな風に見えるんだろう。


 やっぱちょっと危ない関係に見られるのかも。


「知奈美ちゃんと、仲いいんだね」


「はい。知奈美とは中等部からずっと一緒です。今は同じクラスですけど、同じクラスになったりならなかったりしてました。まあ親友って言ってもいいと思います」


「でも海奏ちゃんと、随分タイプが違う感じだね」


「よく言われます」


 海奏ちゃんは屈託なく笑った。


「知奈美はクラスでもムードメーカー的な存在なんですよ。私と違って明るいし話は面白いし……いつも友達に囲まれてる感じです。それであれだけ可愛いから、やっぱり他校の男子とかにも凄く人気なんです」


 まああの子なら、男子に人気があるだろうな。


 それは分かる。


「ただ……」


「? ただ?」


「えっと……その……恋愛に対して自由奔放っていうか。いつも彼氏がいるような感じで、よく彼氏とお泊まりとかしてます。そこがどうしても私と合わない部分っていうか」


「へー、そうなんだね」


 なるほど。


 今の女子高生はそんな感じなのかな。


 逆に海奏ちゃんみたいなタイプが珍しいのかも。


「でもそれ以外は本当にいい子なんですよ。私が痴漢によくあうことを、ずっと心配してくれてましたし」


「そっか。いいお友達だね」


「はい。私は知奈美に随分助けられてきました」


 なるほど、タイプの違う親友の美少女二人か。


 なんか本当にアイドルユニットとしてデビューしたら、絶対売れるのに。


 そんなことを考えながら、俺は制服を着た天使と一緒に歩いていく。


 9月の東京は、夜でもまだ蒸し暑かった。



 ◆◆◆



 本来、「昨日の今日」という言葉は、こういう時に使うのだろうか。



 仕事を終えた俺は、いつものように定時の5時15分に会社を出た。


 駅に向かって歩いていくと……



「暁斗さーん!」



 俺に向かってブンブン大きく手を振っている、紺色の制服を着た女子高生がいる。


 もちろん一目で誰か分かった。


 丸顔でくりっとした目元。


 小柄だが凹凸のある体型で、丈の短いスカート。


 サラサラ黒髪ツインテールの知奈美ちゃんだ。


「知奈美ちゃん、どうしたの?」


 これもまた偶然なのか?


「暁斗さんを待ってたんですよ。いつも定時に終わるって聞いてたんで」


 待ってた? 


 なんで?


「よく俺の会社がわかったね。あ、海奏ちゃんから聞いたのかな?」


「いえ、海奏にはウチがここに来ることは内緒にしてます」


「え? ちょっと待って。じゃあどうして俺の会社のこと知ってるの? 怖いんだけど」


「さー、どーしてでしょーねー」


 知奈美ちゃんは首を少し傾けて、いたずらっぽく笑う。


 その仕草があざと可愛い。


 ていうか……この子自分がどうすれば可愛く見られるか、よく分かってるな。


「俺、名刺渡してないよね?」


「もらってないですね。あ、後でもらっていいですか?」


「それは別にいいけど……でもマジで、どうしてわかったの?」


「内緒です。いい女には秘密が多いんですよ・・・・・・・・・・・・・・


 ……あれ? そのフレーズどこかで……あ、思い出した。


 海奏ちゃんと初めて会った日の夜に、海奏ちゃんから言われたんだ。


 これ、知奈美ちゃんの受け売りだったんだな。


「すっげー気になるけど……まあそれは一旦置いておこう。で、俺に何の用かな?」


「暁斗さん、カラオケ行きませんか?」


「カラオケ? なんで?」


「暁斗さんと一緒に静かなところでお話をしたいからじゃないですか。あ、何もしないって約束してくれるんだったら、ラブホでもいいですよ」


「……」


 ちょっとこの子、何言ってるの?


 理解が追いつかない。

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