第14話

開拓都市アルテアから東南方向に約70km地点。夜。初日の野営地で夕食を取りながらアラン達はウェスの戦闘スタイルについて興味深そうに話を聞いていた。


A級パーティー”情熱の道”のメンバー、魔法剣士のアラン、戦士のトーマス、魔法職のジューン、そしてヒーラーのシーナのそれぞれの立場からみてもウェスの戦闘スタイルについては前々から気になっていた点が非常に多かったためだ。


ウェスが改めて魔法を使えない旨を説明し、それに付け加える形で詳細な説明が続いていた。


「繰り返しになるけど魔法を使うにはシーナが言った通り魔力と魔力回路が共に機能している必要がある。ただし実のところを言うとほとんどの人間にはまず魔力は存在していて、どちらかというと魔力回路が機能していない、あるいは魔力回路そのものが存在しないから魔法を使えないというケースが一般的だ。逆に魔力回路はあるが魔力が無い、というケースは殆ど無いな」


ウェスの説明に対して魔法に明るいジューンやシーナが頷く。自分の説明が通じている事を確認したウェスはそのまま説明を続ける。


「ということはだ。仮に魔力回路がうまく機能していないのであれば、魔力回路の代替物を用意するか、あるいは魔力を回路を使わずに使えるようにすればいい」


その説明を聞いたシーナは少し困った様子で


「けどウェス、人造魔力回路の研究は禁術指定されている。それを破ってでも昔から多くの人が挑戦してきたみたいだけどそれも上手くいったという話は聞かないよ」


「そうだ。もちろん俺も知ってる。だから俺がアプローチしたのは魔力をそのまま活用することだ。残念ながら俺は魔力回路は潰れてるんだが、幸いにして魔力感知能力がすごく高いみたいでな。だから俺の体内魔力と、それから空気中に存在する魔力をそのまま血中に取り込めないかと色々試行錯誤した」


「は?」


血中に魔力を取り込む。ウェスのそんなとんでも発言を聞いた全員がぎょっとした顔をしてウェスを見た。特にヒーラーのシーナなどはその意味不明な発言をまったく咀嚼できていないという表情をしている。


「ごめん、意味がわからない。魔力を血中に取り込むってどういうこと?」


「まぁ細かい技術はアレなんだが、そもそもさ、モンスターを見てて不思議に思わないか?」


ウェスの突然の話の流れに全員が?のマークを浮かべる。そう、この世界の人間にとってモンスターはモンスター。動物は動物。人間は人間。魔族は魔族なのである。しかし異世界から転生してきたウェスにとっては当初はその認識こそが違和感の塊だったのである。


考えてみてほしい。モンスターと動物はどうやって見分けているのか?そして人間と魔族は何が違うのか?外見だけではその見分けが付かないような種類の生物もそこそこに存在しているが、この世界の人間はモンスターと動物を必ず見分けることができるし、同様に人間と魔族も必ず見分けがつく。


当たり前すぎてこの世界の誰も疑問に感じていなかった事に対してウェスは疑問を持ち、そして気付いた。すなわち


「要するにさ、モンスターは肉体的に魔力への順応がしやすいからこそ動物と比較して大型化する傾向にあるし、魔法も使えるし、何なら魔石も残す。魔族も同じだな。人間と違って体そのものが魔力に非常に適応してるからあれだけ強い。そういった魔力順応はなんとなくでも見れば分かるというわけだ」


ウェスの説明を聞いててもいまいちピンと来ていないアラン達だったが、彼らなりに話を理解すると


「…ようするにウェスは魔族と同じような感じで魔力を使っているということか?」


「正確に言うと少し違うはずだが、概ねその認識で間違いないと思う。先の大戦で魔族を見たやつもいるかもしれないが、アイツらは単体の生物としては人間よりも圧倒的に強い。もちろん人間も魔力回路があるから普通に戦えるが、単純に肉体的な強度という意味では圧倒的に魔族が強い。だから俺は魔族に近いような形で魔力を運用しているって感じかな。まぁ魔族の連中はあの体力に加えて魔法も使えるからたちが悪いんだが」


15年前の人魔大戦の時の話をまるで自身で経験してきたかのように話すウェスを見ていたアラン達は、ウェスは少年兵でもしていたのか?と思いつつもさすがにそこまでは触れることもできずにウェスの発言を聞いていた。


ちなみに15年前だとアランとジューンも10代後半、トーマスとシーナに至っては10歳をやっと超えるかどうかという年齡であり全員が当時は子供で疎開などをしていた。そのためもちろん魔族なんてものは直接目で見たことはない。噂などでその恐ろしいまでの強さに関する話はきいたことがあったが、いずれにせよ自分たちと同年代のはずなのにまるで魔族と戦ったことがあるかのように話をするウェスに気圧されていた。


一方のウェスはそんな場の空気を認識はしつつも、アラン達なら問題ないだろうと思い話を続けていた。


「ま、そんな訳で俺は確かに魔法は使えないが、魔力を直接体に取り込んで運用している。だから一見すると身体強化魔法に近いような形になるんだよ。ものとしては無属性魔法に近いだろうな」

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おっさん、魔法を失い拳で語る。 けーぷ @pandapandapanda

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