第5話

開拓都市アルテア、冒険者ギルドに併設された酒場にて。20歳前後の女性冒険者三人組と30代のおっさん一人という珍しい組み合わせでテーブル席についていた彼らは夕食時ということもあり酒を楽しみつつその日の出来事を思い思いに語り合っていた。


「それにしても驚いたわよ!何あれ!なんでモンスターがパンチ一発であんな弾け方するの!」


先程からやや酔った様子でテンション高めに喋り倒しているのは”創造の感覚”のリーダー、グレース。死を覚悟し、そして生き残り、腰は抜けるわ、よくわからない技を見せつけられて血の雨を浴びるわで完全にテンションがおかしな事になっている。


「そうですね、本当に意味不明です。なんですかアレ?」


こちらは一見すると落ちついているように見えるものの、酒が弱いのか顔が真っ赤になっており若干ふらふらしながら喋っている前衛のエミー。彼女も今日はマンティコアの攻撃を喰らっており、先程ギルドで改めて念のために治癒魔法を受けていたもののメンタル的な疲れはかなりあるのだろう。飲んでないで早く休めとウェスは内心で思っていた。


「補助魔法もかかってなかったよね…?どういうこと?」


後衛で全体が一番良く見えていたノーラも酒をちびちび飲みながら首を傾げている。彼女は補助や治癒などをメインにする魔法使い職だからこそウェスの異常さが良くわかっていた。少なくとも彼女が知りうる範囲の補助魔法はウェスにはかけられていなったように見える。


「まぁこっちも色々あるんだよ」


彼女たち三人の質問攻めを適当に捌きつつ、自身もビールをぐいっと呷るウェス。マンティコアに遭遇したことや死にかけたことやら何やらで非常に姦しい状態になっている中、ウェスは内心でややゲンナリしながらもまぁ無事で良かったなと思いながらテンションを見失った酔っぱらい三人娘の相手を続ける。


マンティコアを仕留めた後にその魔石を回収したウェスは、腰が抜けていたグレース達三人をひょいと抱えてひとまずその場を離脱した。マンティコアの血の匂いにつられて他のモンスターが寄ってくることを危惧したためだ。


その場から離脱した後、安全圏だと判断できるところまで退避した後に魔法職らしいノーラに頼んで水属性魔法で血をさっと流した後、その場で改めてお互いに自己紹介やら経緯の確認やらを進めた。


時間も時間だったこと、加えてグレース達三人の消耗が激しかったことからそのまま開拓都市アルテアに帰還。ギルドに直行してからマンティコアに遭遇したことを受付嬢に報告。


へろへろになっていた三人娘を見てそのままギルドで解散しようとしていたウェスだったが、三人娘からお礼がしたいと言われて今に至ると言うわけである。


「…なぁ、今日は疲れてるだろ?早く帰って休んだ方が良いんじゃないか?」


調子が出てきたのか酒のペースが徐々に早くなる三人娘を呆れた目で見ながら提案してみるウェスだったが、


「もうちょっと付き合いなさいよ、こっちは今日はテンションの上げ下げがありすぎて目が冴えちゃってんのよ」


とやや据わった目をしたグレースに却下されてしまい肩をすくめる。その側をたまたま通りかかったウェイトレスのユニが会話に混ざってくる。店内が落ち着いたようで少し暇ができたらしい。


「ふぅ、やっと少し落ち着きました。それにしてもこの組み合わせは珍しいですね?」


どうやらユニとグレースたちは知り合いらしく気軽な感じで話し始める。年齢的にも近そうだしそりゃそうかとどうでもいい事を考えながらウェスはビールを飲みながらぼーっとその様子を眺めていた。


「お疲れ様、ユニ!確かに珍しいよね!というか私達も今日始めてウェスと話をしたもの」


「そうなんですね?何かあったんですか?」


ユニに聞かれたグレース達が今日の一件を身振り手振りで話し出す。別にガチで隠している訳ではないものの普段はソロ狩りをしているウェスの戦闘スタイルはあまり知られていない。それもあってユニも興味深そうに聞いており、それに加えて周囲も若干聞き耳を立てている様子も伺えた。


グレース達の話を聞き終えた後、ユニがぽつりと「だからかぁ」と納得したような表情で頷くのを見たエミーが


「だから?」


と疑問に思いながら繰り返すとユニが答えた。


「えぇ、皆さんはウェスさんの二つ名ってご存知ですか?」


ユニに聞かれた三人娘はお互いの顔を見て首を傾げる。彼女たち三人はトントン拍子でD級パーティにまでなったものの、この開拓都市アルテアに来てからまだ半年。そのためアルテア内の細かい情報までは把握していないことも多かった。


ちなみに余談ではあるが、ウェスとは今日が初めての会話になるが彼の存在自体はなんとなく認知はしていた。”いつもギルド併設酒場のカウンター席でぼっちで飲んでるガタイの良い変なおっさん”それが三人娘がウェスに抱いていた当初の認識である。なおこの話を後日グレースがウェスにしたところ、ウェスは地味に凹んだ。


それはともかく。三人娘がウェスの二つ名を知らないようだったのでユニがややドヤ顔で説明した。


「開拓都市アルテアが誇るB級冒険者の一人、”剛拳のウェス”ですよ!」

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