第8話 善い行い

 数時間が過ぎ、何度か実験を行った“討伐者”は、倒れ伏すジョゼフィーナに向かって語りかけた。

「いやはや、再生能力という奴も、場合によっては考え物ですね。

 私も、あなたに無意味な痛みまで与えるつもりはなかったのですが、まあ、日頃の行いが悪かったせいだと思って諦めてください」


「や、やめて……、もう、許して……」

 あられもない姿でうつ伏せるジョゼフィーナは、そんな事を呟き続けている。


 “討伐者”がそれに答えた。

「何を言っているんですか? むしろ本番はこれからですよ?

 私は、成功するまで実験を続けるつもりですからね。

 とりあえず、私の実験室に場所を移しましょう。

 成功確率を上げる薬もあるので、それを使わせてもらいます。

 大きな副作用もある薬なので、ちょっと苦しい事になると思いますが、まあ、命に別状がある副作用ではないので、大丈夫ですよ。

 それでも、結構な期間が必要になるはずですが、安心してください。私は人間をやめているので、色々な方法であなたを飽きさせない自信があります」


 ジョゼフィーナが首を左右に振る。彼女には、何がどう大丈夫で、何を安心すればいいのか、全く理解が出来なかった。

 だが、“討伐者”は委細構わずにジョゼフィーナを両手で横抱きに担ぎ上げる。

「い、嫌ぁ」

 ジョゼフィーナは叫んで暴れたが、“討伐者”は力ずくで押さえ込んだ。

 “討伐者”の背中から巨大な蝙蝠のような羽が生える。


「それでは、行きますかね」

 そしてそう告げると、締められた窓のひとつに歩み寄り、羽をぶつける。それだけで窓がはじけ跳んだ。広間に陽光が差し込む。

「うッ!」

 陽光を浴びたジョゼフィーナが苦痛の声を漏らす。

「魔法が使えるようになったら、陽光対策をしてあげますから、少し我慢してください」

 “討伐者”はそう告げると、羽を大きく羽ばたかせ、ジョゼフィーナを抱きかかえたまま窓を抜け、何処かへ飛び去った。




 こうしてこの日、何年にも渡って近隣の住民に対して暴虐の限りを尽くし、民を絶望の底に陥れていた女吸血鬼と、その眷属たちは消滅した。客観的な事実として、悪事をしていた者達が討伐され、滅びたのである。

 そしてその結果、幾千人もの人々が救われた。これもまた、間違いない事実だ。

 そうしてみると、“討伐者”がこの城で行った事は、全体としてみれば、どうやら「善い行い」に分類されるべき事だったようである。


      ――― 完 ―――

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女吸血鬼討伐記~ただし、討伐する側が異常者だったケース~ ギルマン @giruman

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