第5話 アガタ王国スタンピード

聖女マリアの怒りを受けて3日3晩の、死んだ方がましだと言う

痛みと苦しみから解放された王子と国王は未だに立ち上がれない

でいるザビエル公爵の娘のメアリーが魔人族のサキュバス

であったという真実に接して、大いに悔しんでいた。

魔人族殺しの罰とは、殺しはしないが人間に化けていた魔人族の

正体を暴き、2度と悪さをしないようにトラウマを

植え付けるものだった。人間たちが正体を知ってどういう措置を

取るのかは聖女マリアにはどうでも良い事だった。

無実の罪を着せて処刑しようとした行為は魔人族と何ら変らない

悪逆行為であり罰せられる存在に過ぎない。

あの日私は望み通り悪人になってやるとの宣言を今更取り消す

つもりは無い。



この世界を見守っている聖獣の白虎は懇意だったマリアへ念話を

送ってスタンピードの恐れがあることを知らせた。

『知らせて呉れてありがとう』

だが、アガタ王国を助けるつもりは毛頭ない。ただ、正しき心の

持主と判定されて魔物に対する防御力と10日間。飲まず食わず

でも生き抜ける加護を与えた者達への援助は拒むつもりもない。

マリアはアガタ王国との国境の結界を強化したその際、

加護持ちは結界を通れるようにしておいた。同時に周辺国に

避難民の保護を願っておいた。犯罪を起こす様な者達ではない筈

ですが万が一犯罪者が出たら容赦なくアガタ王国に

放り出してやれと言って。


聖女の加護のありがたみを実感していた各国王は深く肯いた。


 アガタ王国は東西南北を3000メートル級の山脈に囲まれている。

他の国にはその山脈の裾野と裾野のあいだの比較的低い所を

道路にして行き来している。だが北側の向こうには国は無く

小さな漁村が1つ有るだけで東側に3国、西側に2国。南側は山と

森林に挟まれた道路が辺境国2国に続いている。

 魔人族の国がどこに有るのかは未だに分かっていない。


 スタンピードは北側の山脈から始まってあっと言う間に4方の

山脈に広がった。

 王都は国のほぼ中央に位置しているので、四方八方から魔物の

襲撃を受けることになる。逃げ遅れればもう逃げ場がない。


 聖女マリアの加護を受けた者たちは、いち早く聖女マリアの

託宣を受けて親類縁者の居る国や、指定された国を目指して

脱出していた。


 逃げ遅れた者たちは魔人族か聖女に石を投げつけたり悪口雑言を

叫び回った者達。

 そして、聖女マリアを姦計を擁して死罪にしようとした者達。

計、約4万人だった。その内3万人が人間に化けた魔人族だった。

しかも聖女のお仕置きで本当の能力を人間並みに落とされた

雑魚魔人族である。

全滅の可能性大だった。



 この国の国王、王子、重鎮共は王宮内で震えていた。

「エドワード、貴様のせいで聖女の加護を失った結果がこれだ。

貴様が責任取って魔物どもをなんとかせい!」

国王が息子のエドワードをなじる。

「父上だって聖女の処刑に同意したではありませんか。

ザビエル公爵とメアリーいやいや魔人族のサキュバス。

貴様らの口車に乗ってマリアとの婚約を破棄して処刑台に乗せた

のにこんなことになった!どうしてくれる」

「どうしたもこうしたも聖女の力がこれ程強いものだったなんて

想定外よ。あれは絶対創造神が与えた力に違いないわ。

こうなったら我らが王の魔人神まじんしんのご登場を願わねば」

エアリーに化けてエドワードとその父親の

助平心につけこんで操っていたサキュバスは魔人神に必死に援助

を願った。


「&%$#""#$%&…………」


そうこうしているうちに王宮内に魔物が侵入して来た。

最初は角ネズミだった。隙間と言う隙間から侵入したネズミは

後続の魔物の侵入を助けるかのように、その鋭い歯や角で

隙間を大穴に変えていく。忽ち、ウルフやゴブリンが入ってきた。


「ギャー!!」「わー助けてくれー」「痛い痛い」「止めろー」

そこは魔物の餌場と化していた。


王宮外では空からワイバーンと鳥系の魔物が襲い。魔人共が

苦し紛れに放った爆裂魔法が城壁を破壊してしまってオークや

オーガがドッと入ってきた。


その日アガタ王国は魔人族と共に滅んだ。


 サキュバスの念話を受けて駆け付けた魔人神はアガタ王国の

有様を目撃して唸った。

「何だこのありさまは魔人族の者達が死屍累々と転がっている。

魔物どもが魔人族を貪り食っている。何が起きた?」

まだ生きている者を探し出して事の顛末を聞き出す。

 「思っていた手順とはかけ離れたが結果的にはこれで

アガタ王国を我が手に入れたも同然だ。良くぞ犠牲になった。

礼を言うぞ死んでいった者達。魔物たち。

それに結界を解いてくれた聖女よ。

ワーハハハハハワーハハハハハ」


 魔人神の高笑いがそこの全世界に響き渡った。


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