第36話 未来視(2)

「初めまして吉野万有。そして、死んで頂きます」


 エルフと共に石柱の頂上から飛び降りる少年。地面に座り込みながら、万有は少年を睨む。


「お前が件の被検体1号だな。アレンが世話になったらしいじゃねぇか、今にそのツケを払わせてやる」

「その状態で、ですか?」

「体力なんか関係ない。いざ戦いが始まりゃあ、一歩も動かずお前の手札を空にしてやれるんだからよ」

「その煽り文句はスライムを無傷で倒した人間が言うべき台詞ですよ」

「……お見通しかよ」

「時に佐々場万里。彼を無事にここへ連れてきたのは貴女の仕業ですね? 彼の手助けをした以上、貴女も無事には帰せませんよ」

「そう言う事も未来視で確認済み。今のところ二人共生きて帰る未来に揺らぎはないし、威張れるのも今の内だよ」

「そうですか。ではここで、貴女の未来予想を覆す変数を用意するとしましょう」


 1号が両手を交差すると、紫色のゴーレムが背後から現れる。


「どうです、予想に揺らぎは生じましたか?」

「依然問題なし。行くわよ万有君、事前に話したとおりによろしくね」

「ええ、やってや――」


 刹那、青く毛深い巨人が二人をまたいで通り過ぎてゴーレムを殴り飛ばす。ゴーレムが壁に激突するとその巨人は消滅し、それから一人の少女が二人の前に躍り出る。


「4号……!」

「久しぶり。7年前にアンタが廃棄されて以来のらね、1号」

「なぜ何食わぬ顔で生きているのです! 貴女は自分が愛した村を自ら滅ぼした大罪人。そんな人間、さっさと死んで然るべきでしょう!」

「アタシが死ぬことをあの人達が望んでない以上、まだ死ぬわけには行かないのら」

「……チッ、開き直ってましたか。ならば結構。精神的にではなく、物理的に殺して差し上げましょう!」


 その時、ミトラの足元に魔方陣が現れて黒く光り出す。それと同時に地面から黒いゴーレムが大量に現れ、ミトラの周囲を囲う。


「ミトラ!」

「問題ねーのら。こいつら処理しつつモンスターを操って二人にフォローを入れるから、各々おっぱじめて欲しいのら」

「万有君は自由にやって良いわよ。この子、君がどんな無茶をしても合わせてくれるから」


 万里はそう言って、万有と距離を取る。


「そうですか、それじゃ早速――」


 万有は半径5mの範囲にコスモを展開し、辺り一帯に高密度の隕石の雨を降らせる。


 空間内にはエルフとゴーレムが巻き込まれており、降り注ぐ隕石はエルフに当たる事無く体を通り過ぎるが、ゴーレムに対しては絶えず直撃し続ける。


 しかしゴーレムは隕石攻撃に対して全く動じる事無く、万有に向かって走り出す。


(嘘だろお前!? いくらなんでも硬すぎるだろ! このままじゃやられ――)

「デビルロブスター!!」


 ゴーレムが万有めがけてこぶしを振り下ろそうとしたその時、振り上げた右手は大きな水弾によって千切れて飛ばされる。


 隙を見た万有は隕石の破片で拳銃を作り出し、『斥力弾』を打ち込む。しかしゴーレムの体が銃弾を難なく弾いたため、斥力を付与した右足でゴーレムを蹴り、後ろに大きく吹き飛ばした後コスモを解除する。


「あ、あぶねえ……」

「あぶねえって、それはこっちのセリフのら!」


 ふと後ろを向くと、そこには青く巨大なザリガニが丸まった状態で居た。ザリガニが消えると、その中に居たミトラが姿を現す。


「まさかお前、コスモの中に居たのか?」

「そう言うワザはもっと周囲に気を配ってから使うのら! まあ結果的にアタシは無事だったし、万有の危機も救えたから良いのらけど!」

「そうか、なら気を取り直していこう」

「もっと罪悪感をもつのらー!!」


 そんなやり取りをする万有とミトラの間に、立て続けに三本の矢が放たれる。ビックリするミトラとは反対に、万有はエルフの方に視線を向ける。


「気をつけて万有君。こいつら、どうやら自分が適応した能力者を無理にでも相手取ろうとする本能があるみたいだわ」

「そうですか。それで、万里姉はどうせこれから俺が取る行動も分かってるんですよね」

「そうね」

「じゃあわざわざ警告するまでも無いッスね! 行ってこい!」


 万里が施した特訓を経て、万有の能力は大きく拡張された。万有はそれまで弾としてしか扱えなかった『斥力』に加え、『遠心力』も操作可能となっている。


 斥力とは『物体が互いを退け合う力』であり、遠心力は「移動しようとする力と反対に働く力」である。


 万有は万里に右手を向け、斥力を放出して斜め上方向に万里を吹き飛ばす。次にエルフを見た万有だったが、エルフは咄嗟に五本の矢を射出し、さらにゴーレムは万有に向けて突進してくる。


「そうはいかんのら! デビルロブスター、右手!」


 万有の目の前に現れたザリガニの手は放たれた弓から万有を守り、さらにゴーレムを薙ぎ払って吹き飛ばす。ザリガニの手が消滅するのを待たず、万有は右手をエルフの方向に向け――


「ナイスだぜ、ミトラ」


 そのまま斥力を射出し、万里が飛んで行った方向へエルフを吹き飛ばした。


「……万里さんは無事のらね?」

「彼女はこうなる事実を知っていた、なら対策は打ってあるだろ。それよりもだ」


 吹き飛ばされたゴーレムはすぐに起き上がり、再生した右腕を振り回す。


「ゴーレム本来の頑丈さが数乗倍されてるっぽいな、隕石喰らっても無事とか、どうなってんだ」

「さらにある程度の再生能力もあるみたいのら。硬い上に傷も自分で治せるとか、あまりにも面倒くさすぎるのらね……」

「だがまあやれんことは無い。そう言う敵に対処するためのこの四日間だからな」


 万有は土から日本刀を作り出し、両手でぐっと握り込む。すると刀身がみるみる内に黒くなり、やがて刃と峰の境目が分からなくなる程に刀身が染まりきる。


「ミトラ気をつけろ、このゴーレムは普通に倒すとヒュドラ起動のエネルギーになっちまう」

「なるほど。ならアタシに良い案があるのら、でもまずはアイツを弱らせるのを手伝って欲しいのら」

「了解、なら俺に合わせろ」


 刀身をゴーレムに向ける万有。ミトラもその後ろで両手を交差させ、万有のアクションを待つのだった。

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