第24話 煽りゴブリン

 白衣の男は歯ぎしりをし、万有を睨み付ける。その表情にムッとした万有は男の顔を蹴り飛ばし、ついでと言わんばかりに腹にも蹴りを入れる。


「俺の重力操作は無機物にも有効だ。見ろ、奴らの死体を」


 兵士達の亡骸の隣には時計や大きな本などが、血のついた状態で横たわっていた。


「勉強不足だ、阿呆が」


 万有はそう吐き捨て、後ろ手に縛られた碧やアレンの元に歩み寄る。


「万有! 来てくれるって信じてたよ!」

「信じてたよじゃねえアホ。俺がどれだけ心配したかも知らずに単独行動しやがって」

「うっ、ごめん……」

「今回は協会の情報があったから助けに来れた物の、もしそれが無かったらお前は死んでたんだぞ。今後は、俺に無断での単独行動は控えるように」

「……ごめんなさい」

「あとお前らいつまでそうしてるつもりだ、もう手錠は壊したぞ」

「「えっ?」」


 二人は困惑気味に両手を前に出し、握ったり開いたりしながら手の調子を見ている。


「それで、隣の子供は一体何だ?」

「聞いてよ万有! この子、ミトラちゃんのお兄さんなんだって! アレン・ハル!」

「……なんだと? ミトラの話じゃ、一族郎党全滅したって聞いたが」

「細かい話は後にしろ万有。今はまず、下の階にいるミトラを救出するんだ」


 目の前に投げ出された散弾銃を拾い、懐から取り出した実弾を装填する。


「まあ、そうだな。今は信じるしか無いな」

「話が早くて助かる。それと気をつけろ、今そこでくたばってる男曰く、そこにはモンスターもいるらしいからな」

「あのスライムと同じ、適応能力を持つ奴がか?」

「分からないが、この研究所で生まれたモンスターである以上、それに近い能力を持っていておかしくないだろう」

「言えてるな。じゃ、行こうぜ」

(……もしかしてこの二人、結構ウマが合う?)


 碧はそんな事を思いながら、万有とアレンの後を追うのだった。


 ◇  ◇  ◇


 隠し扉を開け、狭い階段を順番に降りていく三人。


「……長くない? この階段」

「そんだけデカいモンスターがいるんだろ」

「え、そんな事言わないでよ万有。それマジで出てくる奴じゃん」

「ああそうか、お前はこの手のモンスターが通常種よりデカくなる事を知らないんだな。スライムですら30倍近くにもデカくなるんだ、他の中型モンスターだったらどうなることか」

「ねえ本当にビビらせるの止めてくれない!? 私、そういうデカいモンスターに対する戦闘能力無いんだよ!?」

「なら遠くで見てればいい。アレンもデカいモンスターを相手する自信が無きゃ、碧の隣で見てて良いぞ」

「問題ない。だが僕の能力は前線を張れる物じゃないから、前線に立って注意を惹き付けてくれるとありがたい」

「わかった、背中は預けるぞ」

「会ったばかりなのに信頼凄くない? 私を置いてけぼりにしないでよ!」

「別にそうしてるつもりは無いが……それはそうと、着いたぞ」


 三人はいつのまにか、錆びた鉄扉の前に着いていた。


「なんかデジャヴを感じる……」

「? よくわからんがいくぞ。アレン、何か要らない物ないか?」

「ココにはいるときに使った薬莢なら」

「それでいい」


 8つの薬莢を受け取った万有はそれを銃に変え、扉に銃弾を打ち込む。真っ二つに割れた扉を蹴り飛ばして中に突入すると、そこには――


 電気椅子に縛り付けられたミトラと、斧を持った紫色の人型の化け物がいた。


「ミトラちゃん!!」


 ミトラに駆け寄ろうとする碧を万有は手で制する。


「気持ちは分からんでもないが、まずはアレを始末しよう。名付けるなら、特異体ゴブリンと言った所か?」

「……そうだね。けど、あれくらいの大きさなら私でも対処できそう。行ってくる」


 ククリナイフを取り出し、ゴブリンに果敢に向かっていく碧。しかし次の瞬間、ゴブリンは碧の背後に現れ、碧はうなじから大量の血を拭きだして倒れてしまう。


「「碧!!」」


 うなじを押さえながら、目を剥いて驚く碧。一言も言葉を発せぬまま、碧は気を失う。


「この……っ」

「止せ万有、事前に話した作戦で行くぞ」

「……おう」


 アレンは背中から狙撃銃を抜き、片膝を立てて座り込む。


(コスモで捕らえた生命反応は12、上階に居た生命体がアレンと碧を含めて11。と言うことはやはり、コイツが最後か。まあ無駄だとは思うが……物は試しだ)


 万有は人差し指と中指を振り下ろすが、何も起らなかった。


(だよな、やはり重力操作に耐性をもってやがる。スライムならこれっきりだが、さっき碧を仕留めた能力が気になる所だ)

「万有! こっちはいつでも行けるぞ!」

「ああ、今仕掛ける」


 万有は拳を握り込み、地面を蹴ってゴブリンとの距離を詰める。しかし次の瞬間にはまたしても背後を取られ、万有は首に大きな切り傷を負ってしまう。


「まじか……!」

「捕らえた!」


 遙か後方から銃声が聞こえ、ゴブリンの背中から少量の血が飛び散る。


「『解析弾』を打ち込んだ! 一分後、そのゴブリンに致命傷を与える準備が整う。何とかして時間を稼いでくれ!」

「……無茶を言ってくれるぜ、全く……」


 体内に眠るエネルギーを回し、傷を癒やす万有。その様子を、ゴブリンは嘲るような表情で見ていた。


「……お前、まさか今ので格付けを終わらせたつもりか? 冗談じゃない、まだまだこれからだろうが」


 うなじから手を離し、ゴブリンを睨み付ける万有。


「ミトラが起きてないのが残念でならないが、見物人が二人も居りゃあ十分だ。S4級冒険者の本気中の本気、見せてやる」

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