第23話 最強、襲来

 翌早朝、万有は冒険者協会のロビーにいた。かかとを付けて足を踏みならす万有の元へ、かつて特異体スライムの討伐に立ち会った『ジン』が駆け寄る。


「お待たせしました、こんな早朝からお越し頂き――」

「御託は良い、ミトラの居場所が分かったって本当か?」

「ええ、本当です。ミトラさんは現在、『世界進化計画』という組織に捕まっております」

「『世界進化計画』?」

「『人類を一度滅亡させ、組織が理想とする新人類に置き換える』という思想を持った団体です。先のスライムについても、この組織の開発物だという結論が出ています」

(となると、その世界進化計画って奴が万里姉の言ってた『蛇使い』だと考えて良いだろうな)

「もう数時間後には、S級冒険者数名を招集して部隊を編成、攻撃を考えておりますが……」

「いい、俺一人で十分だ。むしろ派手に暴れるつもりだから同行者がいると困る」

「では本拠地の場所を携帯に転送します。奥にあるパソコンから手続きしなければいけないので、私はこれで」


 駆け足でオフィスに続く扉に向かうジン。扉のドアノブに手を掛けたとき、ジンは唐突に動きを止めて振り返る。


「最後にもう一つ。あの組織は政府によって危険組織と認定されており、あの組織に対する行いの全ては法で裁かれぬようになっております」

「……つまり自由にやっても許されるって事だな?」

「二次被害さえ起こさなければ、いくらでも」


 ジンがドアの向こうに行ったのを見て、万有は出入り口の方を向いて歩き出す。


「アイツに手を出すとどうなるか、後に控えてるであろうクズ共に教えてやるには良い機会だ。気合い入れて念入りに――潰す」


 拳をぎゅっと握りしめ、万有は協会を後にする。


 それから万有はジンから貰った位置情報を使い、四時間使って現地に移動した。件の廃病院に着いた万有が見たのは、装甲をボロボロに破壊された五人の兵士の遺体だった。


(先客がいたのか。ミトラを狙う闇の組織同士の抗争か、或いは……碧か? 確かめよう)


 右手を前に出し、コスモを展開する万有。


(12人の生体反応あり。そのなかに聞き覚えのある心音……碧だな。その隣にいる奴も、ミトラに心音が似てる。恐らく道中で見つけた味方なんだろう、さっさと合流するか)


 身につけたマントを翻し、建物の中に入っていく万有。建物の中は壁も床も酷い錆びに覆われており、異臭もするなど居るだけで不快指数が高まる空間だった。


 万有は鼻を袖で隠しながら、碧がいる地下五階へ続く階段を降りていく。階段を降りきった万有が突き当たりにある扉を開けると、万有は大量のオークが屯する大広間に出た。


(なんだこいつら!? 生命であればコスモで探知出来るはず、なのにこいつらの反応は無かったぞ!?)


 モンスターは一斉に万有の方を向き、飛びかかる。


(重力操作も効かない。となれば……『0.0001秒のブラックホール展開』、これしかない!)


 万有は人差し指を前に付きだし、指の先についた埃に重力を掛けてブラックホールを作り出す。出ていたのが瞬き以下の僅かな間だったからか、床や壁にダメージはなかった。


 しかし天井はヒビだらけになっており、微少な土埃が落ちている。


(ギリギリ建物倒壊の危機は免れたって感じか。考えれば分かりそうなことだが、閉鎖環境でブラックホールは出すべきじゃ無いな)


 二回咳をして、通路の奥へ歩いて行く万有。通路奥には大きな扉があり、万有が取っ手に手を掛けると硬くロックされてるのが分かる。


 そこで万有は、天井から降ってきた土埃を集めて「斥力弾」が込められた銃を形成し、右側の扉の中腹に銃口を向けて発砲する。


 すると扉にはみるみる内にヒビが入り、やがてひとりでに自壊し奥側に倒れる。扉を踏んづけて中に入ろうとした万有だったが――


「動くな!」


 部屋の奥からそんな声がして、立ち止まる。


「お前が探してる二人の命は今、我々の支配下にある。妙な真似をすれば、即座に殺――」


 万有、再び歩き出す。部屋の中に入った万有は、暗い室内で碧とアレンが銃を突きつけられて膝を着いている光景を見た。


「おい! 動くなって言っただろ」


 万有の足音に反応し、四方八方に散らばって配置されていた兵士達が一斉に銃口を万有に向ける。


「やっぱり対策はしてあるか。部屋の中に居る奴らにはコスモで触れてるはずなのに、重力操作が効かない。最強を相手する用意はあるって訳だな」

「はは! そうだろう何もできないだろう! かつて誰も成し得なかったS4級冒険者の完全服従! 我々は今、それを初めて成し遂げたのだ!」


 あたりを見渡す万有。一頻り見終わった後、万有は再び白衣姿の男に向けて歩き出す。


「貴様! 今すぐ止まれ! 二人を殺すぞ!」

「どういう仕組みかは知らんが、人間に対する俺からの重力干渉を断った技術力は褒めてやる。だが……」


 次の瞬間、いくつもの凄まじい音と共にあちこちで兵士達が倒れる。


「……は?」


 ワケが分からないという表情を浮かべる白衣の男。万有は男に近づき、睨み付けながらこう告げる。


「一歩及ばず、だったな」

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