第6話 第7話 第8話


 ゲームにおいてレジーナとイーリスは悪役貴族だった。


 魔力至上主義。当然の様に優生思想を持ち、魔力の劣った平民をゴミ扱いする。独善的で逆らう者は容赦なく殺す。


 逆に強くて従順なら忌み子だろうと受け入れる。


 そんな彼女達は当然、貴族や騎士団の中で厄介者扱いされていた。


 レジーナ達が許されている理由は、敵対する全てを殺したからに過ぎない。貴族も騎士団も賊もモンスターも、敵対した相手は皆殺し。


 彼女達は僕にとって恐ろしい相手だ。本音を言えばできる限り関わりたくない。


 なのに――どうしてこうなった。


「本当にいいのか?」


 僕はレジーナのベッドで裸になり、仰向けに寝ていた。


 メイド服姿のイーリスが僕の腰に跨っている。彼女から蔑むような顔で見下され、僕は気まずさと恐怖を抱いていた。


「遠征に行きたいんだろう? だったら受け入れろ」


 上下黒い下着姿のレジーナは、背後から服越しにイーリスの胸を揉む。レズなイーリスは次第に呼吸が荒くなり、興奮を隠しきれなくなっていた。


 イーリスは嫌々だが状況を受け入れた様子だ。彼女は大の男嫌いなはず。どうして逃げないのだろうか、僕には分からない。


 だけど僕の勝手な都合にイーリスが巻き込まれたことは事実。


 せめてトラウマにならないように彼女を楽しませたい。そう真剣に考え、性技スキルを発動した。


「く……ッ! なぜ、私がこんな奴と……!」


 イーリスは嫌そうな顔を濃くしながら、少し腰を浮かす。心の底から僕が嫌いなのが表情で伝わってくる。嫌を通り越して殺意すら込められた眼差しだ。


「では、さっさと始めようか」


 レジーナがイーリスの長いスカートを後ろから捲る。




 優れた母体の第一子は才能の多くを受け継ぐ。それ故にレジーナとイーリスは処女を貫いていた、優れた男の種で子を産むために。


 本来、中に射精さえ終えればレオンは用済みだ。


 しかし彼が初めての二人を気遣い、性技スキルで強烈な快楽を与えてしまった。その快楽に溺れた二人はレオンをひたすら貪る。レズで男に興味がないイーリスすら獣の様に喘ぎながら自ら腰を打ち付ける。


 結局、行為を終えたのは日が昇り始めた頃だ。それまでずっとレオンは二人を交互に相手し続けていた。




 昨夜、帝都の隣町に魔族と地竜が出現した。その所為で大勢の人が死に、帝都は悲しみと怒りの感情に包まれている。


 それは騎士団本部でも同じだ。騎士が数十人殺された上、魔族に逃げられた。死者に顔向けできない失態に、残された騎士達は苦悩している。


 騎士団本部の最上階。


 その一室で聖騎士のウォーレンとエルヴィンが、今後について話し合っていた。彼らが早く道を示さねば、部下の不安と苦しみを抑えきれない。


「はぁ……」


 白髪で大柄な男――ウォーレンは深い溜息を吐く。書類を片手に持ちながら、両袖机の席に着いた。机に置かれたカップに指を掛け、端から書類に目を通す。


 その姿は体格に似合わないほど優雅であった。軍服がはち切れそうなほど屈強で高身長。顔も厳つくて恐ろしいが、性格は穏やかで紳士的だ。些細な所作に品の良さが滲み出ている。


「カーヴェルから連絡はまだきていない。メイド曰く、少し取り込んでいるらしい」


 黒髪で痩せ型の男――エルヴィンはソファーに座っている。目の前のローテーブルには資料が山積みだ。


 彼からは疲労が見て取れる。顔はやつれ、天井を見上げていた。軍服は向かい側のソファーに投げ捨てられている。


 ソファーに挟まれたローテーブルの上に、飲みかけの珈琲と食い散らかした菓子の跡。そして葉巻の吸い殻が皿に盛られている。ずっと長い時間、彼は目の前の資料を読んでいた。


「この半年近くは忙しい様だな。恐らく本格的にレイラの鍛錬を始めたのだろう」


 ウォーレンは推測を口にした。レオンの変貌を知らない彼にとって、レイラの鍛錬だと判断するのは当然と言える。そして今現在、レジーナとレオンが子作りの最中な事など予想できるわけがなかった。


「それにしても……、『堕転』した子供か……」


 読みながらウォーレンは珈琲を飲む。彼の表情は妙に落ち着いており、微かな悲哀が込められていた。その理由は、同情である。


 忌み子の魂は子供を産めば失う。だから魔族を追い出したければ、単純に子供を出産すれば良い。


 これは誰もが思いつくし、やりがちな対処法だ。


 ただ、この手法には小さな欠点が存在していた。


 それは忌み子の魂は、子供に遺伝されてしまうことだ。


 追い出した魔族は必ず子供に宿る。そうなれば、子供が物心付く前に始末しなければならない。


 いずれ、魔族に体を奪われる現象――『堕転』が起こってしまう。


 であれば早めに始末するのが懸命だ。


 しかし、簡単な理屈通りに産んだ子供を殺せる親ばかりではない。死に怯え、子供を産み、殺せず放置する。堕転しないでくださいと神頼みの連中が一定数存在した。


「母親を捕らえ、事情は聞いたよ。子供を産む前は迷わず殺すつもりだったらしい。しかし直前になって戸惑い、後回しにして、気づいたら情が湧いてしまったそうだ」


 エルヴィンは溜息交じりに語る。子供を殺せなかった母親を責める気にはなれない。息子を持つ彼は共感できる部分が多いからだ。


「彼女の死刑執行は半年まで引き延ばした。でも、それが限界だ。民衆の怒りは頂点に達している。残念だが、許すことはできない。ウォーレン、分かっているな?」


 これは最良の選択ではないだろう。民衆は家族を失った者が大勢いて、死刑執行を急かしている。エルヴィンは中立な立場としては、些か私情が混ざり過ぎていた。


 ウォーレンは「あぁ……」と短く言い、目を伏せる。「……この魔族は恐らく――オロバスだ。そして今頃はマモンと合流している」、彼は書類を見つめて話を変えた。


「マモンが相手では、カーヴェルに頼るのが無難か……。レジーナとイーリスの異能ならば、難なく対抗できる」


 言いながらウォーレンはレジーナの姿を思い出す。卓越した技と荒々しい戦い、彼女は武神と謳われるほどの力を有していた。惚れ惚れするほどの圧倒。戦士として陶酔する者は跡を絶たない。


「本気か……? 奴らが戦えば街が半壊では済まないぞ……。カーヴェルの力は確かに騎士団で最強だ。しかしだな、奴らは民の命を蔑ろにする。民を救うのではなく、悪を滅ぼすのがカーヴェルの正義だ。我々のやり方とは相容れない」


 嫌悪感を丸出しにしてエルヴィンは言う。どうにも彼はレジーナが率いるカーヴェル派閥が苦手な様子だ。


 「そこは我々が上手く立ち回れば――」と言うウォーレンを遮り、エルヴィンは「イーリスは大の男嫌いだ。昔から我々と協力して戦おうとしない。アイツは近づくだけで男を燃やすような狂人だ。上手く立ち回るなんて考えられん」と捲し立てる。


「正直、彼女の過去は同情している。だからあまり悪く言いたくないが、本音として俺は自分の部下をイーリスに近づけさせたくない」


 苦々しい過去を思い返しながら、エルヴィンはウォーレンの意見を一蹴した。










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