第18話 文化祭準備
それから夏休みが終わり、早いもので文化祭の時期が近づく。私と陽太くんの関係は変わらず、曖昧なまま。私はあれから何も変わることができなくて、勇気がでなくて。陽太くんを困らせてばかり。
こんな自分が情けないのに、誰も責めなくて。それが返って辛かった。
「日和! 文化祭うちのクラス何すると思う?」
「何だろうね? あまりしんどくないのがいいね」
「私カフェとかしてみたい! 可愛いの着たいな~」
その言葉の裏に隠れたことを私は知っている。吉柳くんと付き合った野依は私のことを気遣わず、ラブラブしてくれるようになって。二人を見ているだけで幸せな気持ちになる。うちの学年の二大カップルとまで呼ばれるようになっていた。
野依と文化祭の話をしていると委員長が黒板に出し物についての案を書き終えていた。
カフェ、お化け屋敷、外での出店など。文化祭は希望すれば中を簡単なものにすれば外で出店をすることができる。でも女子はカフェ一択なようで男子が困っていた。
「俺ら、お化け屋敷たいのにー」
「お前らだけずるくね?」
「体育祭はそっちの意見優先してやったじゃん! 次はこっち!」
男女で揉め始めたので多数決をするようになって。結局カフェに決まった。コンセプトは執事とメイド。クラスは裁縫部が多いので衣装などは買ったものを一つずつアレンジしてくれることになった。私はメイド服なんて似合わないので裏方を希望していたが問答無用でホールにされてしまった。
「なんで……」
「だって日和可愛いもん。私もホールだし一緒に頑張ろ!」
そんな野依に私は勝てなくて、ホールを了承してしまった。陽太くんのほうをちらっと見ると彼は裏方で決まっていた。陽太くんの執事服姿見たかったな、なんて少し残念に思ってしまった。
それからは忙しくて。私はメイド服のサイズを決めたり、他の子と当日のシフトを決めたり。時間が余ると買い出しを手伝ったり、看板の色を塗ったり。準備の期間は二週間ほどしかないのにずっとバタバタしていて、私は最終日になるまで陽太くんと一緒に文化祭を回りたい、と思っていたのに言えずにいた。シフトは陽太くんと休みの時間を一緒にしたし、吉柳くんにだって色々協力してもらった。なのに本人にだけ伝えられていなかった。
もしかしたらもう別の子と回るかもしれない。もう、私のことなんて好きじゃないかもしれない。なんてネガティブなことを考える日々も増えた。
それに陽太くんは趣味でベースをやっていたらしく有志のバンドにも出演するらしい。ベースができるなんて初めて知ったし、これ以上魅力を知られたら困るって思ってるのに沢山の声援を浴びている格好いい姿を私は見てみたかった。陽太くんと二人で文化祭を過ごせる時間は少ないのにうじうじして誘うこともままならない私と一緒にいてくれるかな。
「今日陽太バンド練習で遅くなるって言ってたし下駄箱で待ってみれば?」
「陽太なら日和ちゃんから誘われたら絶対行くよ。というか誰とも回る約束してないと思うよ」
「そう、かな」
「そうだって! 日和自信もって!」
「うん……頑張る」
そんな私に手を振って帰っていく二人を見送り、私は下駄箱の近くで座り込んだ。
静かなここからは遠くない体育館からの楽器の音が聞こえる。何組が出るのでこれが陽太くんのものかなんて分からない。でも興奮せざるを得なかった。
どんな曲を弾くのかな。どんな顔でライブするのかな。楽しいよね、わくわくするよね。
色んな感情が混じってる陽太くん、見れるといいな。なんて思っていると時間は過ぎたようで居残っていた生徒が続々と帰る姿が見える。
頑張れ、大丈夫。なんて自分自身に言い聞かせ、緊張しながら陽太くんを待っていた。
「あれ? 日和?」
「陽太くん」
少しすると背に楽器を背負った陽太くんが下駄箱に来た。後ろには同じバンドを組んでいる人らしき人達も一緒で。少し気まずい。もしかしたら一緒に帰るつもりだったのかも、なんてここにいることを後悔していた。
「陽太帰る子いるの……って斎藤さん⁉」
「生斎藤さんえぐすぎ……陽太羨ましい‼」
「な、ま?」
「此奴らの言うこと聞き流していいよ。それより、俺に何か用?」
「……うん。話したい事、あって」
バンドの人が言ってることはよくわからなかったし、陽太くんは少し不機嫌のように見えるし。文化祭回りたい、なんて欲の出たこと思わなかったらよかった。静かに、一人で過ごせばよかった。
「ごめん待たせて。悪いけど日和と帰るから先帰ってくれ」
「はーい。斎藤さん、明日絶対バンド見てな!」
「はい……楽しみにしてます」
足取りが軽そうに帰るのに対称して、こちらは空気が少し重い。
準備期間なんて忙しくてほとんど話せてなかったし、今も関係はあの時のままで。陽太くんはまだ返事をしない私に呆れてるのかも。
「日和?」
「……文化祭、一緒に回ってほしいです。陽太くんと一緒にしたいっ」
一緒にいたい。呆れないでほしい。まだ好きでいてほしい。
少し前を歩く彼の制服を引っ張りそう言った。顔なんて見れなくて、赤くなった顔を見られたくなくて背中に顔を埋めるように彼に近づく。大好き、大好きなの。
あと少しで勇気が出るから、もう少し待っててくれたらうれしい。
「……当たり前。シフトだって合わせたし一緒に回ろうって今日電話かけようと思ってた」
「え」
「俺、日和以外と回る気ないよ。バンドだって日和のシフトの時間空けて貰って見てもらえるように野依に協力してもらったし。俺の有志、見ててよ」
力強く言う陽太くんに私は肯定の意味も込めて、彼の制服を強く握りしめた。
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