勃起なんかしなくても「快感」

陽女 月男(ひのめ つきお)

第1話

 明け方、目が覚める。まどろみのなかで、いやらしい妄想をする。股間に手を延ばすと、そこに熱く硬く大きくなったペニスが…あるはずだが、それはない。もう、勃起はしない。少し前まで勃起することはあったが、射精のための反射運動は起こらなかった。さらに前までは、その反射運動はするものの、なにも噴出しなかった。服用している強めの女性ホルモン剤のおかげだろう。狙いどおりの効果を発揮してくれている。それでも、性欲はあるようだ。

 私の頭の中は、いやらしい妄想に満ちていく。ゆっくりと、少しずつ脳みそが痺れてゆく。それでも、ペニスは熱くなることもなく、硬くもならない。ピクリともしない。

 いやらしい妄想は広がり続け、痺れる感覚が、頭の中全体へと広がる。少しずつ、ゆっくりと。ヌルヌルとした感覚が心の中に溢れ、満たされていく。もはや、私の脳は陶酔し快感に浸っている。

 しかし、この溢れ沁み出るヌルヌルとした体液を体外へ放出するための身体器官を、私は持っていない。私には、この感覚を外に表現し解放する方法がない。

 もどかしさとともに快感が満ち、体が熱くなる。体内に溢れ出るこのヌルヌルと心を濡らす体液は、行き場を失い、熱く全身を満たしていく。その体液は果てしなく満ちて、私を取り込む。

 体が熱い。奈緒を抱きしめたい。そして、奈緒に抱きしめられたい。愛したい。愛されたい。どんどんと落ちてゆく、痺れてゆく、暖かく激しい快感に包まれながら。

 だめだ。我に返り、頭の中を空っぽにして、深呼吸をする。体中に広がってしまった熱を帯びたヌメリは、段々とぬるい水へと変わってゆく。

 ふーっと、一息つく。あのまま極限までその感覚を育て、意識を失うまで痺れて、その先にある到達点を味わってみたい。

 次は、正気に戻ろうなんて思うまい。

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勃起なんかしなくても「快感」 陽女 月男(ひのめ つきお) @hinome-tsuki

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