第13話 オレっ娘、今日も今日とてダンジョン攻略をする

 まとめ……というか、今回のことの顛末。


 俺っち達が戦闘を終えた後、まるでなだれ込むようにブラックパンサーの幹部たちが押し寄せてきて、俺っち達は絶体絶命のピンチ!


 ……に思われたのだが、そんなことにはならなかった。


「やめろ野郎ども!! トップである俺様は負けた!! 強ぇ奴に従うのがここのルールだろお前ら!!」


 雷蔵さんの鶴の一声で事態は沈静化。


 俺っち達は精魂尽き果て気絶し、ボロボロの状態でブルーヴァルキリーに戻って来た……とうわけです。


「これがお話しできる全てです」


「そうか、報告ご苦労」


「ところで……」


「うん、どうした?」


「そろそろこのロープをほどいてはいただけないでしょうか!?」


 現在、俺っちは以前の捕まった時のように宙吊りにされていた。


 またかよ! またなのかよ!?


 俺っちが何かしましたか!? 

 そう言えば独断専行してましたね!!?

 ごめんなさい!!?


 花澄のお姉さんが半眼でこちらを睨む。


「ダメだね――聞いたよ? 二人で一緒にプレイを楽しんだってさ?」


 悪意ある!? 言い方に悪意があるっす!?


「間の言葉が抜けてるっす!? ゲームを! ゲームをプレイしたんっす!! ただの遊びですから!!」


「花澄とは遊びだとでも言うのかぁぁぁ!!!」


 花澄のお姉さんが叫びながら、体をグラグラと揺する。

 もうこの人に何言っても聞いてくれないのだろう。


 吐きそう……吐きそう……。


「いい加減に話を――進めんかい!!」


「ふにゃっ!?」


 何処からともなくハリセンが飛来し、花澄のお姉さんの頭に衝突する。


 後方には、救いの女神……もとい智子さんがいた。


「た、助かった……」


 智子さんはこちらを見て苦笑する。


「じぶん、ほんま縛られるの好きやな?」


「好きで縛られてないんっすけど!?」


 ガラガラと突然扉が開かれる。


「今、わたしを縛りたいと!」


「言っとらんから、そこで座っとき」


「放置プレイというわけですね♪ お姉様流石分かってる♪」


「もうツッコむのにも疲れたわ……」


 呆れたように智子さんは目頭を抑える。

 いつもツッコミご苦労様です。


 俺っちは智子さんの手を借りて、吊るされた状態からようやく解放される。


 花澄のお姉さんは、面倒くさそうに腕組みした。


「本題だったな? まぁ、分かっていると思うが、今回の責任の所在についてだ」


「……お伺いしますっす」


 俺っちは姿勢を正して、傾聴する。

 スゥと息を吸い込み、花澄のお姉さんが言葉を続けた。


「別派閥テリトリーへの勝手の侵入、その上そこのトップ二人への暴力行為――字面だけ並べるとかなりの罪になりそうだが、あちらにも非があることを認めた。だから譲歩として、今回の事は表上ではなかったことになる。すまないがブラックパンサー元副リーダーも不問とせざるをえなくなった。そうしないと花澄も一緒に裁かねばならないのでな」


「最後の本音はいらんねん。さっさと本題話さんかい」


「うむ……では結論から」


 全員の視線が俺っちに集まる。

 動悸が激しくなりそうだ。


「松岡夏梅、ブラックパンサートップ二人を説得、自らの策略により、ブラックパンサー間の仲を上手く取り持ち同盟を約束させ」


 うん?


「ブラックパンサー幹部複数人を単独で退けることの出来る実力を加味した結果」


 えっと?


 さっきから俺っちの戦績とは思えない業績が並べられてるんですけど……。


 嫌な予感が……。


「お前を――ブルーヴァルキリーガンマ班長の任を与える」


 …………?


 俺っちがブルーヴァルキリーの班長に?


「はぁぁぁぁ!!? いや、無理無理無理!!?」


 全力で断ったが、はぁと面倒そうに花澄のお姉さんが言う。


「仕方がないだろ? 花澄が功績は全てお前にやるように言ったんだ。それにちょうど花澄の手綱を握れる人材を探していたから、丁度いい」


 言われた言葉の意味が全く理解できていない。

 今、俺っち笑えてるかな?

 顔が引きつって上手く笑えてない気がする。


 俺っちへの嫌がらせが成功したのを確信したのか、ここ一番の笑顔を花澄のお姉さんが見せた。


「それでは頑張りたまえよ? 偽りの最強さん?」


「そ、そんなのってないっすよぉぉぉ!!!」


 俺っちは膝から崩れ落ちる。


 確かに出世したいとは思っていたが、ここまで大出世したいとは言ってない!!


 班長とか絶対に首を狙われる立ち位置じゃん!!

 弱い俺っちじゃ絶対無理だぁぁぁ!!


 あっ、そうだ!


「花澄を班長にしましょうよ! そしたら――」


「残念だが、花澄にリーダーとしての資質はゼロだ。それにそんな危険なことを花澄にさせられるか。諦めて人柱になれ」


「今、人柱って言ったな!? 人柱って躊躇いもなく言ったなこの人!?」


 俺っちが騒いでいると智子さんのスマートウォッチに電話が掛かってくる。


 智子さんはノータイムでそれに出た。


「はい、小紫智子」


『助けてくれ嬢ちゃん!!』


「……一応聞くな? 何がや?」


『風音だよ! それ以外にあるか!?』


 俺っちは風音と聞いてビクっと体をこわばらせる。


「まさか、風音が何か――」


『雷蔵様♪ あなたの風音が仕事を終わらせて颯爽と参りました♪ さぁ、今日こそ結婚を♪』


『しねぇって言ってんだろうが!? 俺様は絶対に、例え世界が変わろうとお前何かとは結婚なんてしねぇ! 寄るな! 触るな! 近づくなぁぁぁ!!』


 …………。


「はっ?」


 俺っちの聞き間違いか?

 あの甘ったるい頭ハッピーな発言してるのが風音だと?


「一体どうなってるんっすか?」


 聞き返すと全員が渋い顔をする。

 代表して智子さんが口を開く。


「あんたは気失っとって知らんかもしれへんけど、操られとった奴らが戦ってボロボロになった風音に復讐しようとしたんや」


「まさか……」


「あぁ、そこを助けたのが他でもないブラックパンサーのリーダーっちゅわけや」


『あんなに酷いことをしたのに助けて下さったその逞しい男気♪ 許す度量の大きさ♪ あれで惚れない女はいません♪』


「……」


 何で雷蔵さんもこんなの助けるかな?

 いや、大体理由は分かるけど……。

 元々はぐれ者やあぶれた者達を面倒見てた雷蔵さんなら、手を差し出さずにはいれないのかもしれないけどさ?


 俺っちは深呼吸して一言。


「自業自得ではないっすか?」


「うちもそう思うわ。諦めぇや」


『そりゃねぇぜ!! ちっくしょぉぉぉ!!』


『あっ、お待ちになって雷蔵様♪』


 そこでブツリと通信が切れる。

 ファイトっす、雷蔵さん。


 花澄のお姉さんは、深いため息をつく。


「まぁ、今見てもらった通り、今回の首謀者たる副リーダーはリーダーに絶対服従するだろうから、放置しても問題ないと判断した。許されるかどうかは本人の贖罪しだいだがな」


「……本当に取り越し苦労だったっすね」


「まぁ、だが同盟を取り付けられただけでも十分な成果だ。その悩みの種の一つが消えたことには感謝する」


「いえ、俺っちは何もしてないっすよ――褒めるのならむしろ……」


「兄ちゃん♪」


 花澄の元気な声が部屋に響く。

 この声を聞くと安心してしまう俺っちがいる。


「おぉ、花澄は元気だな」


「ゲームのダメージがすぐに回復するなんて常識じゃん? 寝ぼけてる?」


「そうだなそうだな」


 相変わらず、この世界をゲームだと思っている。

 確かに変な奴と言われても仕方ないのかもしれない。


 でも、俺っちは――いや、俺は花澄に救われたんだ。


 諦めてた俺にもう一度立ち直るきっかけをくれた。


 俺をあのどん底から引っ張り上げてくれた。


 だから今度は俺が救うよ。


 花澄がゲームのフィルター越しじゃない、しっかりとしたこの現実をちゃんと見れるその日まで――俺は偽りの最強を演じようと、そう決めたんだ。


 だってそれが噓つきの俺が出来る唯一の贖罪だから。


「どうしたの兄ちゃん?」


「いや、何でもねぇよ」


 俺は花澄の頭を撫でた。

 それをくすぐったそうに晴れやかな笑顔で花澄は笑う。


「なっ!? あ、頭を……き、貴様ァァァァァ!!!」


「まずっ!? 逃げるっすよ!!」


「姉貴と鬼ごっこだ!!」


 花澄は俺の手を引いたまま逃げる。

 後ろからは物凄い形相の花澄のお姉さんが走ってきた。


 この物語は、ダンジョンが当たり前にある現実世界を、ゲームと思い込んでいる少女のお話。


 いつかこの変わってしまった現実のダンジョン全てを攻略し、伝説とまでなった少女の物語だ。


 今宵の語りはここまで――いつの日か語る日まではしばしのお別れだと、ありきたりな文で綴っておくことにしよう。

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この世界をゲームだと勘違いしてるオレっ娘がダンジョン攻略を始めたら? 配信でバズってダンジョンどころか現実さえも攻略するようですよ!? ヒサギツキ(楸月) @hisagituki9

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