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dede

第1話

今朝の占いの結果によると、「物音」は立ててはいけず、「広場」に近寄ってはならず、「木箱」に触れてはいけないものらしい。

今日の私は禁則事項が多い。

そして今の私は、「広場」にいて、「木箱」の中で、「物音」を立てれない状況にあった。

うん、軒並み違約している。どうしてこうなった。


私は久しぶりに地元に帰って来ていた。

他県の大学に進み、一人暮らしを始めてから実家に寄り付かなくなっていたけど、「振袖こちらで準備するからお願い」と親に泣きつかれてしまったのでは仕方ない、地元の成人式に参加する事にした。

まあ、いざ参加するとなると昔の友達に会えるのは待ち遠しい。

特に、中学で仲の良かったアカリと久しぶりに会えるのは嬉しい。

『私も近いから歩きかな?じゃ、明日会場で』

『うん、会場で!明日楽しみ!』

とSNSで会う約束も取り付けた。あーあー中学かー。懐かしいな。

あの頃はアカリと、あとユウジともよくツルんでたっけ。

よく二人から勉強教えて貰ってたなぁ。

今でもアカリほどの美人に会った事はないし、ユウジもスポーツとか出来て人気だったし、今でも何で二人とも私と一緒にいたんだか不思議だ。

高校別々になってから会う機会も減ったけど、今どんななったかなぁ。

あの二人、アカウントはあるけどあまり写真とかアップしないんだよなー。


成人式当日、近所の美容室で髪やら着付けやらを済ませると(美容室のおばちゃんにあのユイちゃんがこんな大きくなってーと散々言われた。きっと毎年言ってるんだろう)、家族といっぱい写真を撮って、少し家で一息ついていた。

何となく流していたテレビには今日一日の運勢が映っている。

ほうほう?……変な占いだな?木箱って、日常でそんな見掛けないし。

ま、所詮テレビの占いだ。大したもんじゃないだろう。

私は飲み掛けの緑茶をズーッと飲み干し、成人式の会場に向かう事にした。

「じゃ、行ってきます」

「ホント車で送らなくていいの?歩くの大変でしょ?」

「大丈夫だって、近いんだし。それより少し街中見て歩きたいんだ。昼には着替えに戻るから」

「そう?じゃあ、行ってらっしゃい」


『私今家出た』

『わかった。私もそろそろ出るね』

途中、会場までの道のりを短縮しようと思って公園に入る。ん?あれ、これって「広場」になるのかな?

公園では数人の子供が凧あげして走り回っている以外、誰もいなかった。

公園を歩いていると、途中で「木箱」が落ちてた。ええ、それはもう大きいのが。具体的には私一人入れそうなぐらいの蓋付のが。

……あとは「物音」だけか。そこでムクムクといたずら心が湧いてくる。

確かアカリも会場に向かうのにこの公園を通るハズ。この木箱に隠れて待ち構えて驚かしてやろう!

私は木箱の蓋を開けて中に入る。子供たちが私を不思議そうに見ていた。

私が人差し指を唇に添えると子供たちはコクリと頷いた。私は木箱に蓋をすると息を潜める。

幸い雑な作りなので隙間が適度に空いている。私は隙間からアカリが来る方向を見守り、今か今かと待ち構える。


しばらくした頃、背後からザッザッと人の足音が近づいてきた。

ドカッ

そして頭上から軋む音と、私の視界に二本の足が見えた。

わ、どうしよう!?誰か木箱に座られちゃったよ!?

私が木箱の中で内心パニくっていると、二本の足の間から振袖姿の美人が近づいてくるのが見えた。

おお、アカリじゃん。やだ、以前より更に美人。振袖姿すごい可愛い。

アカリは木箱の前で立ち止まる。

「おめでとうユウジ。スーツ姿格好いいね」

「明けましておめでとう。アカリも振袖姿きれいだよ」

お?私の上にいるのユウジなの?なんだ、じゃあ、出ても大丈夫じゃん。そう思って音を立てようとした時

「今日、ユイも来るよ?」

とアカリが切り出した事で私は動きを止める。

「そうなのか?」

「うん、連絡あった。だから口裏合わせておこうと思って」

「口裏って何を?」

「例えばユウジの親の介護や工場で働いてる事とか?」

「……」

「私が、親の借金でやっぱり地元のパートで働いてるって事とかかな」

「そんな気まずくなる話題を話すハズないじゃんか」

「分かってるんだけどね。前もって示し合わせてないと不安なの」

「聞かれてもなるべく誤魔化すよ。楽しい時間を暗くしたくないし」

「……告白しないの?次、いつ戻ってくるか分からないんだよ?」

「今の情けない状況じゃ言えるハズないじゃんか」

「だったら諦めて、私でもいいんじゃない?」

「……ごめんな?」

「別に諦めなくてもいいんだよ?私二番目でも全然……」

「俺が構うんだよ。将来性があるわけでもないし」

「私はそんなの全然……ああ、もう。はい、もうこの話はココでおしまい。ユイが待ってるよ」

「そうだな。今日は楽しく過ごしたいもんな」

そう言ってユウジは木箱から降りる。

そして二人の足音が木箱から離れて行った。

「そのスーツどうしたの?」

「職場の先輩が、折角なんだからって貸してくれたんだ。そっちは……お金、大丈夫か?」

「……正直、だいぶ無理した。けど、こんな綺麗な恰好する機会もう最後だと思うから、さ……。ちゃんと覚えててね?」

そうして二人の会話も徐々に聞こえなくなった。


……。

……。

……。

「物音」なんて立てれるかぁっ!?重っ!重いよ!正直行く前に聞きたくなかったな!?占いの言う事聞いとけばよかった!

え?なに?二人ともそんな状況だったの!?

これから私あの二人に会わなくちゃいけないのに、どんな顔して会えばいいんだかっ!?

木箱の中で悶々としていると、木箱がコンコンっと叩かれた。

蓋をずらして顔を出す。

「お姉ちゃん、さっきの人たち、もう行っちゃったよ?」

見ると、さっきまで凧あげをしていた子供だった。

「あ……。うん、ありがとう」

私はもぞもぞと木箱から出てくる。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「え?」

「元気ないよ?気分悪いの?」

彼女は心配そうに私を見上げる。私はニコリと笑顔で返す。

「……ううん、お姉ちゃんは大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「お姉ちゃん、綺麗な恰好だね。何かの祝いなの?」

「うん。今日からお姉ちゃん、大人になるんだ。それで綺麗な恰好してるんだよ」


「やっほー、アカリ!あ、ユウジも!久しぶりー」

私は会場で二人を見つけると盛大に手を振った。

「あ、ユイ!久しぶり!もぅ、先に会場についてると思ってたから随分探したんだよ?」

「ごめん、忘れ物思い出して取りに戻ってた。やだ、アカリの振袖姿、超可愛い。写真撮っていい?ユウジも、スーツ姿すごいカッコイイね!」

「ユイもすごい可愛いよ!ねえ、折角だし一緒に撮ろうよ?」

結局私は素知らぬ顔で二人と再会を喜んだ。

なかった事にしたんじゃない。何も出来ないと降参したんじゃない。

でも私より賢い二人が解決できてない問題なんだ、すぐさまどうこう出来る事じゃないと悟ったんだ。

だから私はこの事を一旦心の中にある箱にしまうことにする。

そしてその都度その都度で取り出しては、何が出来るか考えようと思う。

大事な事は、私は二人の状況を何とかしたいと思っている事だ。そこさえブレなかったら、今はイイ。

傲慢だとは思うけど、そう思っちゃったんだもの、しょうがないでしょ?

そう思うと、「広場」に行って、「木箱」に入って、この状況を知ることが出来て本当に良かったと思う。「物音」を立ててたら、さぞ気まずかったけどね!

二人は今日、楽しみたいと言った。だったら、今日の私は目いっぱい二人と今を楽しむ事にする。

二人の写真をいっぱい撮って、目と記憶にもたくさん焼き付けるんだ。

この後の同窓会にも来るかな?一緒にお酒飲むの、楽しみだな。

あ、でもユウジの事は異性として何とも思ってないので、何とか諦めて貰う方向に持っていきたいと思います。初カレとのラブラブな毎日を捏造して報告すれば諦めもつくかな?

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