第20話 君の瞳にフォイしてる


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」


 そう言いながらソファーにダイブしてぐったりと突っ伏す。


「成長株だからね、しょうがないね」


 そんな俺に労いの言葉をかけてくれるドーブルス。優しィ~。御前試合以降、面識のない女子にアプローチをかけられることが多くて困っていたが今日はアイスティーに睡眠薬を盛られて危うく既成事実を造られるところだったオォン!アォン!じゃけん、警戒しましょうね~。


 今日はアイスティーをサーッ!と盛られて熟睡している俺が攫われそうになっていたところをアッシュとバルナに救出されたらしくアッシュに滅茶苦茶に怒られたごめんよアッシュ。本当に反省してます、しぃーましぇーん!


 将を射ずんば馬からならぬ王子を射ずんば騎士から、王子であるドーブルスよりも腹心というか本人が我が半身、親友、相棒、エトセトラと俺にべったりなのでまぁそうなるなという感じ。

 挙句には“カッちゃんの墓標には絶対『我が友』って入れる!”と意気込んでるけどそれだと俺は物語冒頭で死ぬんですがそれは。長生きしたいゾイ!いやドーブルスを皇帝ならぬ国王に就かせる意思はあるけどね?


 とはいえ俺もヘイゼルという婚約者がいる身で彼女を悲しませるようなことはしたくないので日々そんな女子のアプローチを回避するのに四苦八苦している。


 ジェシカ曰く最近は一部の文学系女子の間で何かウス=イ本が出回っているとかなんとか。この世界にもフォモォ……フォモォ……的な概念はあるらしく、剣と鞘と表現するらしい。そう言う所だけ中世っぽいの草ですわ。ただ、ウス=イ本で推してる女子たちは遠くから見守りたい人たちなので派閥的には組み込んでも困らないと言っていたので派閥を強化するならそこから広げるといいよといっていた。

 推しを遠くから見守りたい派と推しに絡みにいきたい派があってウス=イ本を執筆しているのは前者なので直接的な行動には出てこないのとそういう文系女子は家も太いそうで。たまげたなぁ。


 ちなみに俺は鞘側固定で剣側がドーブルスの場合とアッシュの場合とバルナの場合があるらしく滅茶苦茶に熱弁された。

 強気に責められるシュチュエーションの本が人気とかジェシカが言ってたけどなんでジェシカはそんな事詳しいんでしょうねぇ(震え声)?

 まぁ深く考えるのは良そう、俺には遠い目をする事しかできない。


「そういえばスーさんの冤罪についてだけど、ヨツンヴァインに加担していた女の子達の言質を取ったよ。一応冤罪についてはなんとかなりそう」


 そのあたりは以前からずっとジェシカに頼んでスーさんに関係していた女子を調べてもらっていたのがようやく判明してきたのでそこに交渉をしている。

 一方的に問い詰めても口を割らないのはわかっていて、もし冤罪に加担していたら自分の家も破滅するのだから当然ゲロるわけではない。嫉妬、痴情のもつれという所に話を着地できるように調整している。世の中きれいごとだけじゃまわっていうのでこういうおためごかしもまた必要なのよね。そう言う所や交渉は俺の領分だと思っている。


「ヨツンヴァインといえば最近大人しいよな、あいつ。御前試合でボコボコにされて懲りたのかな?学校にも来てないみたいだし今何やってるんだろう」


「そういえばそうだよね。かわりにタージマル兄さんが絡むようになってきたけど」


 ヨツンヴァインが姿を見せ無くなった事には一抹の不安があった。わざわざこっちに絡んでくることはもう無いと思うんだけど、静かになったらなったで不気味さがある。

 そして入れ替わるように絡んでくるようになったのが御前試合で言い合ったタージマル王子だ。タージマル・フォイゲンフォーライド、フォイゲンフォーライド大公の家の生まれで、王位に就かずとも国の大貴族が約束されている良家の生まれだ。王位継承権でいえばドーブルス以上、かつヨツンヴァイン以上の高位の貴族である。それが御前試合の時以降はネチネチと絡んでくるようになった。


「フォイフォイ毎日のように絡みに来て元気だよな~おちょくり甲斐があるぜ」


「一応高位の王子なのに遠慮しないよね。カッちゃんのそう言う所って凄いと思う」


 しょーがねーだろーフォイフォイなんだから……そう、俺はタージマル王子が絡みに来てもフォイフォイとからかっておちょくり倒しているのである。

 大体なんだよあのツラァ!俺年上だと思ってたけど同じ歳だったわ随分老け顔やんけぇ!!金髪オールバックにしてドヤァ……ってしながら上から目線でいってくるけどあんなん完全にフォイやんけフォイ!

 ヨツンヴァインは嫌味ったらしくて暗躍するウザい兄貴だったけどあのフォイフォイは面白おかしくネタにする方のキャラしてるもん。

 他人に対しては敬意をもって接するべきだと思うけどフォイwwwフォイフォイwwwってなっちゃう。仕方ないね。

 そんなこんなでその日の出来事を振り返り、雑談をしながらその日も就寝する俺達であった。


 そして次の日の昼、学園の中庭でドーブルスと食事をとっていると今日も今日とて元気な声で絡んできた―――まぎれもなくヤツさ!


「―――また会ったなドーブルス!……そして騎士カストル!!」


 そう言って口調に対して律儀にお辞儀をするフォイフォイ……毎日飽きないなぁ。

 また会ったもなにも俺達を探して走ってきただろう息が上がってるぞフォイ!

あと俺はフォイフォイを結構ぞんざいに扱っていて普通に失礼な事をしている自覚はあるんだけど、きちんと騎士カストルとか呼ぶ当たりに地の育ちの良さがにじみ出ているフォイ。


「こんにちはタージマル兄様」


「ようフォイフォイ」


 丁寧にお辞儀をするドーブルス、俺はサンドイッチをかじりながら片手を上げてフランクに挨拶する。嫌本当は王族なんだしもっとしっかり接するべきなんだろうけど溢れるフォイみがそうさせてくれない。


「挨拶の仕方は学んでいるだろう?まずは互いにお辞儀だ……」


 不敬のインベタのさらにインをドリフトしていく俺に対しても丁寧にお辞儀をするように言ってくるフォイフォイ。


「格式ある挨拶は守らねばならない。君のご両親も挨拶は守れと教えただろう」


「親父は家庭教師に教育ブン投げて放蕩三昧でしたし母親は子供の頃に死んだので話した記憶ないですね」


 別に隠す事でもないのでストレートに実家にいたころの事を話すと申し訳なさそうな顔をするフォイフォイ。なんでおちょくられてる側なのに失言したって顔してるんだこのフォイ。


「それは……申し訳ない事を聞いた。挨拶にお辞儀をされたらお辞儀を返そうな」


 フォイフォイの言葉に、いえいえ気にせずと言ってから立ち上がってお辞儀をすると満足そうに頷いている。喧嘩売るか絡みに来たんじゃないのかよ何しに来たのフォイフォイ?


「オホン。話がずれてしまったが――もうすぐ高等学部初めての試験が知っているかドーブルス」


「えぇ、そういえばそんな事を先生たちが言っていましたね」


 そう、この学園にも当然試験はある。定期試験、私の苦手な言葉です。いやー試験が好きな奴なんてそんなにいないよねー。


「高等部からは試験の結果が学園の廊下に張り出されるんだよドーブルス。

 ……つまりお前が僕の下に名前を連ねる姿が、全生徒の前に赤裸々に晒されてしまうという事だ、騎士カストルも悔しいだろう?」


「フォフォイのフォイ」


「―――ブフォッ」


 フォイフォイの言葉についうっかりツッコんでしまったので、俺の横でドーブルスが吹いてた。スパダリ王子様らしからぬ素がでちゃってるぜ兄弟、ま、多少はね?

 あと俺達の会話の成り行きを見ていた周囲の生徒達も思わず笑っていた。


「いつもいつもフォイフォイと、何なんだ君は!俺は王子なんだぞ?!」


「すまんフォイ。ついうっかりフォイ」


 怒っているんだろうけどテンションが高まるフォイにしか見えなくて笑いを我慢するのが辛い。


「ドーブルス!お前、自分の騎士に礼儀やマナーをしっかり教えないか!従者の教育は王族の義務だぞっ」


「申し訳ありまるフォイ」


「ゴホッゴホッ!」


 全く懲りない悪びれない、申し訳なさそうな雰囲気で謝るとまたドーブルスが吹いていた。


「何故そうやって語尾にフォイをつけんだ騎士カストル、やめないか!」


 そう言って俺を叱責してくるフォイフォイ。


「口が勝手に反応してしまうんですフォイwwwフォフォのフォイwwwwさぁさぁご一緒に」


「黙るフォイ!!……あっ」


 俺がフォイフォイにLET’Sと手を差し出しながら話を振ると見事につられていた。これにはドーブルスだけでなく周囲の生徒も笑いを隠すことが出来ずバカ受けしていた。


「くっ……きょ、今日の所はこれぐらいにしておいてやる!覚えていろドーブルス!!あと騎士カストル!」


 怒りか恥ずかしさか、話の途中なのに顔を真っ赤にして去っていくフォイフォイ。いやぁ今日もおちょくり甲斐の在る奴だったな。


「……結局タージマル兄様は何しに来たんだろう」


「多分試験で勝負がしたかったんじゃないかな、知らんけど」


 ちなみにその後の試験では普通にドーブルスが学年主席を取って顔真っ赤にしてるフォイフォイの姿があった。オチまで完璧すぎて芸術度高いフォイである。

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