第17話 いざ王道へ!


「貴様は、ドーブルスの騎士だったな。儂も知らぬ見事な剣技であった。良い、発言を赦す」


「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」


 深く頭を下げてから顔を上げて、王を見ると俺に俺が何を言うのかという興味を示していた。やっぱりね。国王様は強者だ強さだといったから、御前試合でわけのわからない必殺技をぶっ放した俺の言葉を捨て置くはずがないと思った。少なくとも発言を許して聞くところまではしてもらえる確信があったのだ。


「ドーブルス様にお仕えさせていただいております騎士、カストル・フェンバッハに御座います。生憎とフェンバッハの家を廃嫡されている身ではありますが」


 観客たちが廃嫡?とざわ……ざわ……とざわめいている。そりゃ廃嫡されてるなんてどんな問題児だよって警戒するよね、わかるとも!


「フッ、これほどの絶技とスキルを持つ子を廃嫡とは、フェンバッハ家の当主は救いようのない愚か者であったか。」


 だが流石国王、俺の見せた“性能”をきちんと評価してくれている。しかしだめだ笑うな、まさかこんなところで実家に飛び火するとはウケる。

 御前試合の公衆の面前で国王から愚者呼びとかもうこれわかんねえな……色々な意味で実家に致命的なダメージが入った気がするけど俺には関係ないし気にしないでおこう。実家の事とかどうでもいいからそんなことよヘイゼルだ!


「儂も若き頃は幾度となく戦場に立ったが、貴様の技は見たことのないものであった。我が騎士も知らぬと言っていた……あの技はどこで学んだ」


「物語の英雄の必殺技を自分なりに再現したものに御座います」


 嘘は言っていないというか本当の事だ。だが反応は悪くなく、楽し気に笑っている。


「物語の英雄、か!そんなものを以てあれ程の腕前に昇華するとは―――よもやこの国に貴様のような者が埋もれていたとはな。して、その貴様が余に何を望む」


「私からも―――我が妻、ヘイゼル・ディンゲンの名誉回復を重ねてお願い申し上げます」


「……ほう、我が妻、とな?」


 顎に手を当てて身を乗り出す国王。王位継承権をはく奪しても我が娘だから気になる――――という訳ではなく捨て置けない言葉で乗っからざるをえない言葉なのと、純粋に俺がヘイゼルを娶るという事に対する興味のようにみえる。でも今はそんな事はどうでもよいのだ、重要な事じゃない。


「畏れながら私はヘイゼルと婚約を結んだ身。将来の妻になる者が後ろ指を指されるというのは真に遺憾に御座います」


 伝家の宝刀遺憾の意である。困った時は遺憾の意、何の意味もないけど便利な言葉である。


「……ふぅむ」


 よしよし。考え込むそぶりを見せているな。クソの蓋にもならない遺憾の意というゴミみたいな言葉でもこういう時は役に立つ。

 この国王の考えがぶるあぁぁぁぁっな王様のベクトルを向いているなら、御前試合で武勇を見せた騎士の妻、という視点になると捨て置けないだろう。俺自身を餌にする形になるけどそれでヘイゼルが救われるならなんだっていい。……あとはここからダメ押しだ。


「……先ほど、陛下はヘイゼルの魔力が低い事を指摘して弱者と申されました」


「無論だ。魔力が低いものは弱者である。弱者に人を導くことは出来ぬ、強き物にこそ価値がある。何故に貴様のような強者が、ヘイゼルという弱者を選ぶのか」


―――かかったなアホが!ってだめだこれいうと全身を凍結されてやられるフラグだから気を引き締めろ、ここからが勝負だ。


「ヘイゼルは自然に人を思いやり労わる事が出来る子です。私はそんな彼女の素朴な優しさに惹かれました」


「くだらん、そんなもの魔力が低い弱者を選ぶ理由にはならん!貴様も強者であれば強き者を伴侶と選ばぬか」


 俺の言葉に対して言葉を荒げる国王。

 だがここまであげてのせて国王の言葉を否定する言葉を出さずに話を続けていることで、俺の選択が意に反する事であっても窘めるという形で話を打ち切らない。

 こが会話の妙というものな訳で……否定されない会話を終わらせるタイミングというのは難しいでしょう、国王様?


「魔力と申されましたが陛下、私の魔力は5です。ですがもちろんフルパワーで誰と戦っても負ける気はありませんからご心配なく……」


「なんだと?!」


 驚きの声を上げる国王に、さらに畳みかけるように種明かしをしていく。


「そして私のスキルは、街の大道芸師の使うものまね、汎用の三流スキルと言われるものに御座います」


 というわけで、はいここでちゃぶ台返しー。俺を認めて強者側だって言ってしまっていたことで二律背反してしまうよねぇ。

 ごめんなぁ王様、最初に俺を労って認めてしまった時点であんたの負けなんだわ。


「……貴様」


 謀られたことに王様も気づいたのか低く唸っている。完全に嵌められたこの状況を理解したようだ。

 後は無言で伏してお願い申し上げるのポーズ。しばしの沈黙に周囲が王の答えを見守る。


「クッ、フハハハハハハハ!余に一枚食わせようとしたその心意気や良し。ヘイゼルの事は取り計らってやろう」


 怒るかな?と思ったが、感に堪えなかったのか呵々大笑して俺達の嘆願を受けてくれた。そうか、これも王の度量ってやつか。……知らんけど。


「ドーブルスよ、面白い騎士をもったな。その力を以て何を成すつもりだ」


 平伏したまま固唾をのんで俺のやりとりを見守っていたドーブルスが、急に声をかけられて顔を上げた。ちらりと俺を視たので、俺はニッと笑顔を返す。


―――お前が何を言ってどんな道を選んでも、最後まできっちり付き合ってやる


 そんな気持ちが通じたのか、覚悟を決めた様にして王を仰ぎ見るドーブルス。


「私は魔力だけがすべてだとは思いません。魔力のあるものもそうでないものも、その才は能力は様々な観点から評価されるべきだと考えます」


「ほう。……だが、それを成すためにはあと3つ、継承権の順位をあげなければならんな」


 王がくっくと喉を鳴らして笑いながら答えている。あと3つ王位継承権の順位をあげろ……それは、それを成したくばこの国の王になれという事だ。


 一方でその言葉に我慢が出来なかった様子を隠さず、王の傍に控えていた青年がフンと鼻を鳴らしながら俺達に声をかけて来た。俺達より少し年上にみえるけど、金髪を撫で上げていてなんだかフォイフォイする気配を感じるフォイ、心がフォイフォイするんじゃぁ~。……そんな冗談はさておき、座っている位置的に第一か第二王子のどっちか、ドーブルスの兄貴だな?


「たかが魔力5の騎士を引き連れて俺に勝つつもりか?」


「―――私の騎士は誰にも負けない。世界で一番強いのですから」


 挑発に対してもにこやかな笑みを浮かべながら一歩も引かないドーブルス。でもそのどこぞの幼女のようなセリフは俺が残機無くなるまで戦って敗死するフラグたつからやめるんだぁ!

 フォイフォイな兄はイラッとした顔を隠さないけどそう言う所含めてフォイみがある。フォイみがあるってなんだよと言われたらそうだけどだってそうなのだ……黙るフォイとか言ってくれないかなぁ。


「その心意気やよし。ならばこの玉座、見事獲ってみせよ」


 そう言って国王がドーブルスに不敵な笑みを浮かべ、ドーブルスが再び頭を下げた。成り行きを見守っていた重臣や観客たちがワァッ……!と大歓声を上げた。ハハッ、これで俺達も表舞台にあがらなきゃいけなくなったなぁ。……ま、いいけどね。

 そしてそんな歓声の中で―――国王とのやり取りからの間、ずっと俺を注視していた褐色肌の男が声をかけて来た。

 王の隣に立つ男……っていうと王国最強の騎士様だな、名前知らんけど。


「ものまねの少年よ。王を相手に引かぬ胆力は称賛に値するが―――その意地いつまで貫けるつもりだね」


 俺の国王への物言いや態度が気に入らなかったのだろう。……でも別に王国最強騎士だろうと邪魔なら一戦仕るだけなので別に遠慮する事もない。俺はにやっと笑って答える。


「―――当然、死ぬまで」


 かくして御前試合は俺達の完勝となり、ヘイゼルの待遇改善という望外の報酬を手に祝福とドーブルスを讃える声の中で幕を閉じたのだった。

 

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