第4話 どうも弟=サン、ざまぁです。俳句を詠んでどうぞ!


「畏れながらドーブルス様、そこの愚兄カストルは魔力5のゴミ、無能の中の無能!婚約者にも見放されたどうしようもない負け犬の人生の落伍者、いや敗北者です!!そんなゴミにそのような名剣をお与えになるなど、剣だけでなく王子の沽券にもかかわります!!」


 おっとポルクスが踏みとどまってドーブルスに意見具申している。けど王子の決定に異を唱えること自体大概不敬なんだけど……わっかんないんだろうなぁ。親父もこれから苦労しそうだ、俺には関係ないけど。知らんけど。


「……ふむ。つまりフェンバッハ殿は何が言いたいのかな?」


「その素晴らしい剣は相応しい使い手に下賜するべきです!

 例えばこの私は魔力5のゴミの愚兄と違い魔力は140、しかも希少スキルの魔法剣士を持っています!!その愚兄とは比べ物にならない才能を持つまさにエリート!!私こそがその剣に相応しいかと!!」


 やばい、一周回って笑いをこらえるのがしんどくなってきたどっ……!うー!うー!つまり、ポルクスは要約するとその剣欲しいからボクちんに頂戴!!って言ってるのか。これ子供の我儘じゃないんだぞ、お前の前にいるの国の王子だぞ、頭ポルクスかよ。

 一方のドーブルスはというと、柔和な表情で困ったな……と憂いの在る表情を浮かべてから、静かに頷いた。


「……フェンバッハ殿の言いたい事はわかった。そこまでいうのであればフェンバッハ殿とカストルで1対1の試合をし、その勝者にこの剣を下賜するとしよう。時と場所はこれから演習場で――――それで良いかな?」


「本当ですか王子!!さすがは第五王子、人を見る目がおありですね!!アンジェラ、早速だがギャラリーを集めてくれ。この俺があのカスを超格好良く瞬殺する瞬間を見世物にするからなぁ!」


「ちょっと、可哀想だからあんまりいたぶらないでさっさと倒しちゃってよね?」


 そう言ってもう勝った気でいるポルクスと、俺を馬鹿にするように見ながら嘲るアンジェラがそれぞれに去っていった。このやり取りを見ていた周囲の生徒達もおぉ、と突然の面白そうな見世物に盛り上がっている。

 ……また面倒な事を、と思いながらドーブルスを見ると、俺にだけわかるように悪戯っぽくウインクを飛ばしてきた。

 ……なるほど、そう言う事ね。俺が負けるとは思ってないし全方位に失礼な態度をとるポルクスを“わからせて”やれって事か。……あと俺のものまね技がみたくてソワソワしてるんだねわかるとも!しょうがない、ここはのせられるとするか。


 ……ということで演習場に向かうと、既にギャラリーが結構入っていた。演習場砂と砂利の地面の円型をした小さな闘技場のようなもので、その周囲をぐるりと観客席が囲んでいる。その席は結構埋まっていて、パッと見る限り中等部で見知った顔ぶれだけでなく上級生になる生徒達の姿もある。アンジェラだけじゃなくさっきの場にいた生徒達が面白おかしく吹聴して人を集めたのか。

 闘技場に降りていくと審判役の上級生から刃の部分を潰した訓練用の剣を渡された。

 斬られても死ぬ事は無いが、普通に打撲で大けがはするだろう。


 ―――この衆人の中で負けたらとんでもない大恥をかくことになるなぁ


「逃げずに来たのは込めてやるぜカァストルゥ~!カスカスカスカスのカァストルゥ~!

 魔力5のゴミのくせにどうやって王子に取り入ったからはしらねぇけどよぉ、俺が本物の強さってもんを教えてやるぜ……小便垂れ流して無様に失神してなボケが!!

 みてろよアンジェラ、お前の婚約者がまさに英雄っ!で最強っ!ってところをなぁぁぁぁっ!!」


「御託はいい、さっさと始めるぞ」


 間合いを取ってそれぞれに剣を構える。


「勝負の合意と見てよろしいですね?それでは……デュエル開始ィ!」


 審判が手を振り上げると同時、ポルクスが剣に魔力を籠める。


「ギャハハハハ!これが俺の魔法剣!!みろ、希少なスキルの持ち主のっ!!俺こそがフェンバッハの嫡子だァーッ!!お前のカスみたいなハズレスキルとは違う圧倒的な力ッ!!さぁ、躾けてやるぞカスのカスト―――」


 何やらポルクスが上機嫌にわめいているが、無視して剣を逆手に構え、腰を低くしながら身体を捻って駆け出す。すでにこの時点から“ものまね”なので、ポルクスの反応を越えた超速度での突撃だ。


「――――アークスラッシュ!!」


 そうして突っ込みながらすれ違いざまにポルクスの胴体を斬りつけ―――いや、殴りつける。



「ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ?!?!?」


 身体を美しい“くの字”に折り曲げ口から吐しゃ物をまき散らして吹き飛んでいくポルクス。そのまま闘技場の壁面に激突し、衝撃で産まれたクレーターの中心で壁にめり込んで白目を浮かべている。口やその周囲は嘔吐した汚物まみれで、ついでに股間はジワァ……と失禁で濡れてシミがうまれつつある。ポルクスが吹き飛ばされた先では何やら悪臭について声が上がっているのでもしかしたら脱糞もしているのかもしれない。


「な、なに……?嘘……?!えっ、えっ、なん」


 観客席のアンジェラは信じられないものをみたように絶句しているが、そりゃこっちは名作少年漫画の必殺技だから当然の結果だ。なんていったって大魔王だって倒しちゃう勇者の必殺技なんだからな……漫画の中でだけど!世のキッズ達が傘で真似ては傘を折って親に怒られ、掃除時間にはホウキでモノマネしては叱られた鉄板の技よ年季が違う。


「―――勝者、カストル!」


 沈黙を断ち切るように審判がビッ!と腕を上げて俺の勝利を高らかに宣言すると、一瞬の後にワァァァァッという大歓声に包まれた。

 この学園では、魔法だったり剣だったり学力だったりと分野は色々あれど優れた才能を持つ生徒は尊敬の的になる。


「すげぇぞ、なんだあの剣技見た事ねぇ!」


「凄い新入生が入ってきたな、おいスカウトしようぜ」


「バッカ、あの剣士は王子のお気に入りらしいから無理だって」


 そんな勝者を讃える声の中でドーブルスが歩いてきた。

 当初俺に渡そうとしていた剣を渡そうとしているのを理解したので、跪いて首を垂れる。

そして俺達のそんな様子に徐々に歓声が静かになっていった。


「こんな場になってしまって申し訳なく思うが―――我が友カストルよ、この剣をどうか貴公に受け取ってほしい」


「ありがたく頂戴いたします、殿下」


 なんだか意図せず厳かな雰囲気になってしまったが、ドーブルスが差し出してきた剣を両手で受け取ると再び大歓声がワッと響いた。


「カースートル!カースートル!カースートル!」


「うぉぉぉぉぉっっ殿下万歳!ドーブルス殿下万歳!」


「やだぁ、イケメン2人の主従って尊い!……はぁっ眼福ゥ~」


 歓声の中にはちょっと違う歓声もまじってそうだがとりあえず気にしないでおこう。……主従?あっ、そうか!この状況でこんな風に剣を受け取るなんて……俺、ドーブルスの騎士になっちゃった……ってコト?ま、いいけど。廃嫡追放の身よりはマシか。


「それに比べてあのフェンバッハの嫡子の無様さみろよ!うわっ、またゲロの噴水吹いてる。あそこにいる美人が婚約者なんだろ?」


「うっわぁ、瞬殺ゲロまみれ失禁男が婚約者とかないわぁ~」


「違うわっ、ゲロまみれ失禁脱糞男よ!!」


「どっちにしろフェンバッハ家恥ずかしいなぁ」


 祝福の片隅で汚物にまみれているポルクスとその婚約者を嘲る声が零れだすと、アンジェラはその視線と恥辱に耐えきれずにポルクスを置き去りにし踵を返して走り去っていった。……おいおい連れて行ってやってくれよ婚約者なんだし。……結局その後、ポルクスは失神したままだったのでめりこんだ壁から取り出されて運ばれていた。あーあ、絡んでこなければ恥かくこともなかったのにな。

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