第35話
「えっ?」
突然思いもよらないことを言われて思わず声が出る。キス?今まで考えてこなかったわけではないけど、まさかこんな風に直球で聞かれるとは。未来を想像して心臓がバクバクし始める。
「無理しなくていいんだよ。急にこんなこと言ってごめんね。」
何も返答できずにいる私に、深瀬先輩が少し寂しそうな顔をして笑う。きっと深瀬先輩も勇気を出して言ってくれたはず。キスの許可を出すなんて照れ臭いし心臓爆発しそうだけど、その勇気に答えたい。
「いい…ですよ。深瀬先輩なら。」
深瀬先輩は驚いたように目を見開いてから、眉を下げて嬉しそうに笑った。そして手を繋いだまま向き合う。深瀬先輩の顔が近づいてきたから、私は胸の高鳴りを抑えるのに必死で思わず反射的に目をつぶった。目を閉じるとほかの感覚が敏感になる。遠くで聞こえる雑踏と駅のアナウンス。自分と深瀬先輩の息遣い。はち切れそうなほど動く心臓の音。
近づいてくる気配を感じて、より一層目をぎゅっとつぶると唇に柔らかい感触がした。軽く触れただけで離れたようで、そっと目を開くと少し赤い顔をした深瀬先輩が立っていた。
(本当にキス…したんだ!)
指で唇に触れると先ほどの感触がよみがえってきて身体が熱くなる。ファーストキスはレモンの味だなんて夢物語だったようで、実際にしてみると味は何もしない柔らかな感触が残るのみだった。
「…改札まで送るよ。」
ぎゅっと手を握られ我に返った私は、深瀬先輩と共にホームを歩く。何を話したらいいのかわからなくて、それは深瀬先輩も同じようで、2人して無言でゆっくりと歩いた。
名残惜しくてどんなにゆっくりと歩いていても改札の前には着いてしまう。
「ふ、深瀬先輩。今日はありがとうございました。楽しかったです!」
ドキドキで声が上ずってしまう。
「こちらこそ楽しかったよ。気を付けて帰ってね。」
手を振りあってから、私は改札を出る。振り返ると、深瀬先輩はまだ手を振って見送ってくれていた。会釈をしながら深瀬先輩の見えないところまで歩くと、急に今日の色々な出来事が頭の中で思い出されて顔が熱くなった。デート自体生まれて初めてなのに、一緒にいる間はほとんど恋人つなぎ、ツーショット、ファーストキスまで体験してしまった。
沸騰してしまいそうなほど熱くなった自分をごまかすように、どんどん早足になっていく。最終的には家まで走って帰った。
「美恋!昨日どうだった?」
翌日教室に着くと、既に学校に到着していた小春が早速聞いてきた。
「うん、楽しかったよ。映画見て、写真も一緒に撮れたし。」
さすがに恋人つなぎとキスをしたことは何だか照れ臭くて言えなかった。
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