第5話 頼まれただけなのに


 M田くんを怒鳴ったのは、四組の担任のCです。

 (最初はC先生と書いていましたが書き進めるにつれ、「先生」とつけたくなくなったので、Cでいいかな……)

 「あ、これ三組の〇〇さんが落としたハンカチです。

 D先生から、渡してきてくれって頼まれて……」

 立ち止ったM田くんは、Cにハンカチを見せながら、事情を説明しました。

 ところが、このC、まるで話を聞かない。

 「列から外れるなって言うたやないか!」

 M田くんに近寄るなり、いきなり平手で引っ叩こうとしました。


 たまらずM田くんは、その平手を避けて後退し、驚いた顔で説明を続けます。

 「先生、違うって!

 落とし物のハンカチを渡しに来たんやて!」

 

 一発目の平手を避けられたCは、鬼の形相で距離を詰め、さらに平手を飛ばします。

 「言い訳をするなッ!」

 「わッ!」

 頭を抱えたM田くん。

 その腕ごと、頭を打ち抜く勢いで平手を叩きつけるC。


 「違う! 先生、違いますッ!

 頼まれたんやて!」

 頭を抱えて事情を説明するM田くんを叩く叩く。

 周りにいる四組の生徒たちは、驚いて距離を取り、女子生徒の何人かは悲鳴をあげます。


 「え、何?

 M田、なにかしたん?」

 「落とし物、届けに来たって……」

 「それで、何で、Cに殴られてんねん?」

 周囲の生徒たちの方が、よほど事情を理解していたそうです。


 「お前みたいなのが、団体行動を乱すんじゃ!」

つばきをと共に怒号をあげ、クスリの効いたチンピラのような勢いで、M田くんを叩き続けるC。

 もうキチガイ。


 列が止まり、この騒ぎが、後方の六組にも伝わりました。

 「先生! えらいこっちゃ!

 M田がCに殴られてるで!」

 目の利く生徒が気付き、D先生に叫びます。

「ええ!」

驚いたD先生は、慌ててM田くんの元へと走り出しました。

「おい、俺らも」

「おう、行こ!」

数人の男子生徒も、D先生の後に続きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る