ナツキ㊥

カイ君は、優しい。


ダブった理由は心臓疾患。昔から悪くて、去年の春に手術をしたそうだ。


完治してる。少しずつ鍛えていけば、ジョギング程度ならできるようになる。


幸い、私達の学校周辺には、観光スポットも多い。


週2~3で一緒に学校を出て、たまにお茶したり。


何気ない街歩きも、カイ君は喜んでくれた。


罰ゲームと勘違いしてる。


それでもカイ君は、いつも私と一緒にいるのが楽しいって言ってくれる。


私も嬉しくなった。


カイ君が食べたいものは、ラーメンやケーキだった。


彼の食事制限は解かれたけど、念のため自重してた。だから、頼んだものを2人で分けたりした。


彼が入ってみたかったお店に行って食べ物をシェアした。ちょっと太った・・


何しても喜んでくれた。


LIMEも前から知ってたし、やり取りの回数が増えた。


3ヶ月の期間限定のうち、1ヶ月が過ぎた。


もう10月末。少し寒くなった。


寒くなると心臓が悪い人は体に負担がかかるらしい。その前に、植物園がある大きな公園に誘った。


予定は次の土曜日。


彼は植物に詳しい。花の話もたくさんしてくれた。


LIMEの返事を待つ間、気付いた。


期限付き彼女が休日まで、時間を取らせていいもんなのか。


メッセージを取り消そうとしたら、既読になってた。


そして、電話がかかってきた。


「ナツキちゃん、電話してごめんね。迷惑じゃない?」


「いえ、嬉しいよ」


「植物園、行きたい。お願いしていいかな」


すごく嬉しくなった。舞い上がって1時間も話した。


当日は、幸いに晴れた。


頑張ってお弁当を作った。


バラ園、温室、色々と回ったあと、広い公園を歩いた。


カイ君のペースでいい。


ゆっくりと、そして柔らかく時間が過ぎていく。


草木の名前をたくさん教えてもらった。


「すごいねカイ君」

「代わりに運動に関する知識に乏しいけどね」


寂しそうに笑う彼。体にハンデを抱えて、長いこと苦しかったと思う。


心の中に渦巻くものが、そんなに軽いはずない。


3ヶ月限定は、傷付けてしまったってことなんだろうか・・


だけど彼の優しさを知ってしまった。


別に活発じゃなくても、2人の時間が楽しい。


だからなおさら、あの日の教室で、変な場面で出くわしたくなかった。その思いが強くなってる。


何かのきっかけで誤解が解けないかと、願うようになった。


お弁当は彼の希望で、大きな原っぱの真ん中で食べた。


2人で解放感を味わってる。


お握り、卵焼き、唐揚げ、みんな笑顔で食べてくれた。


笑顔を見てたら、胸が高鳴った。


だけど私は、スで始まってキで終わる二文字、これを口に出すのが怖い。


何か記念になる物が欲しくなった。


植物園の物販コーナーで、葉っぱのキーホルダーを2個買った。彼がトイレに行ってる間、こっそりと。


帰り際に2個見せて、1個を渡した。


ちょっと表情が曇った。そしてそれ、使ってくれない。



ちょっと期待してたのに。


「やっぱ、そういうことなんだ・・」


LIMEでは、ありがとうって、言ってくれた。



彼は心臓検診の関係で、たまに早退や休みがあったけど、残りは一緒にいてくれた。


すごく、近くにいてくれる。


「俺なんかと一緒にいてくれてありがとう」って、笑ってくれる。


◆◆


さらに1ヶ月。


あ、忘れてた。


カリナとヨーコは、きちんと告白してた。


どちらも成功して、名目上は3人とも彼氏持ちになった。


「クリスマスに間に合ってよかったぜ」


ヨーコが言う。今年は、特別な日になる。


クールなカリナも、ちょっと浮き足立ってる。


「じゃあ、イブの24日は冬休みに入ってるし、昼過ぎに6人で集まらない?」


2人の彼氏は、前から仲良くしてた男の子。夕方、少し遠くにクリスマスイベントを見に行くそうだ。


「ごめん、私達は昼間のうちに出かける約束が・・」


「そっか、カイはまだ、身体が万全じゃないんだよな」

「寒くなる夜までは、引っ張れないよね」



2人ともごめん、本当は嘘。


私とカイ君、9月24日に期間限定の付き合いを始めた。


終わりの3ヶ月目が、漠然としてる。


今が11月25日。9月が1か月目なら今月で終わる。10月スタートでも年末。


カレンダーに沿って考えると12月23日。そっちだったら、クリスマスイブの私は、シングルに戻った1日目だ。


カイ君に、そのことが聞けない。


◆◆


12月1日、朝5時に目が覚めた。


恐る恐るスマホを見た。


LIMEはブロックされてなかった。今月も付き合いは継続中だろう。


ドキドキして学校に行くと、カイ君は変わらず笑ってくれた。


「もうしばらく、よろしくね」


小声で言われた一言に顔がこわばった。声は暖かかったのに・・


「・・そのあとも、友達でいてくれたら嬉しいな」


そんな言葉しか返せない。


放課後はカリナとヨーコの彼氏も伴い、ファミレス。これが、6人では5回目。


「カイ先輩、話せて良かったすよ」

「俺もだよミノル君。ダブりで年上だから、ボッチ覚悟してた」


「大学とか社会人なら、年違うの普通なんでしょうけどね」


「病後だからって余計な気を使われないし、ホント楽しい」


「カイ、ナツキに感謝しろよ」


「してるよヨーコちゃん。ミノル君やヨースケ君と話できるのも、みんなナツキちゃんに感謝だよね」


ひゅ~、みたく言われたけど、別れのカウントダウンがもうすぐ始まる。


帰り道、2人になったとき私から手を繋いだ。


カイ君、びっくりしてたけど握り返してくれた。


ここでキスでもできる女の子なら、カイ君の気持ちも変えられるんだろうか。


勇気が出ない。涙出てきて、うつむいた。


期末テストも終わり、もうすぐ冬休みに入る。


テスト前は、学校の図書館に一緒に行った。


帰りは同じ電車。沿線は同じで、カイ君は5つ先の駅。


一緒に暖かい飲み物を口にして、ポカポカしてた。


最初から、終わりが見えてる付き合い。


カイ君は、3ヶ月目から先のこと言ってくれない。


諦めなきゃ。


そう思いながら気持ちは膨らんでいく。



今年は12月22日が終業式。カイ君はその日、病院で検診。


21日の約束をした。24日クリスマスイブの予定は、空白のまんまだ。


フラれることになっても、21日に本当の告白しよう。

プレゼントは渡そう。


きちんとお礼を言おう。


考えてみれば私、告白とか意気込んだくせに、自分から何も言ってない。


肝心なことは、カイ君に言わせてしまった。


まず、本当の気持ちを伝える。そしたら、流れを変えられるかもしれない。



そして21日の放課後がやってきた。


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