第3話

 スマホのバイブ音がする。

ポケットから、スマホを取り出す。

『志木、今日はありがとう。』というメッセージと共に、写真が送られてきた。

『お気になさらずー。それよりも、彼女とメールしなくていいんすか?』

 写真の中の先輩は、すごい楽しそう。頬が思わず緩む。


「誰?猫が構って欲しそうにしてるよ」

 俺は手元のもふもふとした毛に目をやる。

 猫カフェはどこを見ても猫だらけだ。

「仕事の先輩です。彼女にプロポーズしてうまくいったらしくて。」

好きなバイトの先輩と2人で猫カフェに来れただけでも最高なのに。

これは、もしかしたら恋バナに繋げられるチャンスなのではないだろうか。

「へぇ~。よかったね。」

今、思いついた感を装って攻めてみる。

「そういうえば、太田さんには彼氏とかいるんですか?」

 太田さんは、迷っているような表情で目を細めた。

「う~ん、私?今はいないよ?」

「今?」

 そのワードに引っ掛かった。

「そう。」

 太田さんは、誰かを思い出したかのような表情をした。

 でも、それには捕らわれてないようなはっきりした口調で言った。

「昔はいた。もう、別れちゃったんだけどね」

 正直なところ、好きな人の過去の恋愛話をされてもなんて返したからいいのかわからない。

 その続きを聞いてみたい気もするが、聞きたくない気もする。

「そうなんですか」

 それが、俺の精一杯の返答だった。

「せっかくだし、ちょっと聞いてもらおうかな」

「あ、はい」

 どんな話が聞けるのだろうか。

 ちょっと怖いけど、ちょっと楽しみな自分もいる。

 そんな自分の心を引き締める。

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