第56話 出発

 痛てて…背中が痛い。

 僕は背中の痛みで目覚めた。

 最悪の目覚めだった。


 一つしかないベッドを占領するように大の字で寝ているのはシーフだ。


 シーフは寝相があまりにも悪すぎる。

 何回シーフの蹴りや、肘打ちが飛んできたことか…そのため僕は嫌になり仕方なく床で寝る事になったのだ。


 シーフは気持ち良さそうに寝ている。なんとなくムカつくな。


 水でもかけて起こしてやろうと思ったが、ダメだ。なぜならこうして宿に泊まれたのはシーフのおかげだから。昨日の昼は飯を奢ってくれたし、討伐クエストも参加することができた。シーフは僕にとっての恩人なのだ。


 恩人に対してそんなことはできない。外で野宿するのと比べたら、宿の床で寝た方がマシだしな。我慢、我慢と。


 今日は、ドラゴン討伐クエストだ。


 とりあえず、シーフを起こそう。


 「シーフ、おい起きろよ。もう朝だぞ〜」


 僕はシーフをゆざぶって起こそうとした。


 「ムニャ、ムニャ。もう、そんなお金いらないって〜」


 起きない。それと、変な寝言を言っている。なんだよ、お金いらないって…大金持ちになった夢でも見ているのだろう。


 頭の中は金のことしか考えていないのか?

 まあ、お金は大事だけど。


 そのあと僕は数回、同じようにシーフを起こそうとしたが全く起きる気配がない。


 寝相が悪い上に、起きないときた。

 

 …………………しょうがないよな………


 僕は、宿のおばちゃんにコップ一杯の水をもらった。それをシーフの顔にかける。


 すると、シーフは飛び上がるように起きた。

 水の効果はすごい。


 「ハッ!…ハァ…ハァ…」

 「グッドモーニング、シーフ」


 僕は何が起きたかわからなそうなシーフに言った。


 



 「それにしても酷いな、ユウエイ…顔に水をかけて起こすなんて…」


 前に座っているシーフが頬を膨らませて僕に言った。


 「だって、シーフが起きないんだもん。しょうがないだろ?」


 僕達は、宿を出て適当な店で朝食をとっている。もちろん、シーフの奢りだ。


 「この後はいよいよ、ドラゴン討伐ウエストだな!気張っていこうぜ!」


 シーフは元気そうに言う。先程のことで、しばらく怒ると思ったが、忘れたように急に元気になった。単純だな…


 「気合いが入っているねシーフ」

 「そりゃあったりまえだろ!ドラゴン討伐に成功すりゃ、高額な報酬を得られるんだぜ?」


 どこまでも、貪欲だな。僕も人のことはいえないけど。今のシーフの目は例えると、お金のマークそのものだ。


 「だが、そのドラゴンはとてつもなく強んだろ?最悪の場合、死ぬかもしれないんじゃないか?」


 たしか討伐メンバーのリーダーセコイはそう言っていた。命の保証はない、何度か討伐に挑むも討伐失敗に終わり、何人もが帰らぬ人となったと。


 危険で、難易度が高いクエストだから報酬が高いだけなのだ。楽ではないだろう。


 最悪の場合死ぬ。


 「ん…まあ、なんとかなるでしょ!Sランクの仲間もいるし」


 シーフは何も考えてはいないようだ。報酬にしか目がいっていない。こういうタイプが早死にするんだろうなぁと思った。


 何にしても、お金ばかりに目が眩むとろくなことがないだろう。例えばギャンブルとかね。お金のことばかり考えて、最終的には破滅へと向かう…僕はそうなりたくはない。


 「カナファのことか」

 「本当にSランクだとしたら、いけるだろ?」


 Sランクがどれだけすごいか知らないが、心強い仲間ってことを言いたいのだろう。


 そんな仲間がいなくとも、僕1人で充分だと思うけど…。


 「私の名前が聞こえたのだけど…もしかして悪口?」

 「!?」


 ビビった。気が付いたらテーブルの横にカナファが立っていたのだ。


 気配もなく、突然現れたように。

 

 「カ…カナファ…いつからそこに?」


 シーフが驚きながら言う。


 「…最初からかもしれないし、途中からかもしれないし、ついさっきかもしれない…ご想像にお任せするよ」


 カナファは言った。

 多分途中からなのは間違えないが。


 「そろそろ、あの胡散臭い野郎のところに行くんでしょ?」

 「胡散臭い野郎って…コスイのことか?」

 「名前なんてどうでもいい…覚えるだけ無駄だしね」

 「そうかなぁ…さすがに胡散臭い野郎は酷いと思うけど…」

 「別に気にしないでいいよ。あくまで私が率直に思ったものを言っているだけだから。それに私の質問には答えてくらないのかな」

 「ああ…今から行こうと思っていた」

 「ふーん。じゃあ、一緒に行こう」


 僕はシーフもカナファの一連のやりとりから思ったことはただ一つ。カナファは独特。


 




 ってことで、僕達はコスイのところへと来た。


 そこにはコスイ意外にも数人のメンバーがいた。多分今回のブラックドラゴン討伐のメンバーだろう。


 「よし、これで全員集まったな」


 コスイが声を発した。


 「今ここにいるのは討伐メンバーだ。初めましてのものが多いと思う。だからとりあえず簡単な自己紹介でもするか…」


 コスイがそう言った。


 「まあ、俺は名乗る意味がねぇな。じゃあまずはシーフから」


 コスイが指名する。


 「私はシーフ。よろしくな!」


 シーフは簡潔に言った。


 次は僕か

 「僕はユウエイといいます。よろしくお願いします」

 僕も簡潔に言った。


 「カナファ」


 カナファは一言。

 相変わらず愛想がなく、感情がない。


 「俺はカベス」


 僕はカベスを見て怪しげな男だなと思った。

 いかにも、ギャングぽい。


 「俺はコスイさんの部下、ソールです」


 下っ端ぽい男は言った。

 こいつは、荷物持ちみたいな雑用だろう。


 「名前はマークと言う!よろしく」


 マークは大柄な体をしていた。

 歳は結構いってそう…

 大きな盾を背中に装備している。


 「私はエリザといいます…」


 エリザはなんとなく魔法使いっぽいな。


 「ぼ…僕は!え…あえっと…コマリと言います!」


 たどたどしく、言葉を詰まらせながらコマリは名乗った。小柄で明らかに弱そうだ。眼鏡をかけている。


 「よし、全員名乗ったな。このメンバーでブラックドラゴンを倒す。皆覚悟は決まったか?」


 コスイは真剣な面構えで言った。


 誰もはいとは言わなかったが、皆覚悟は決まっていた。


 どうせ、僕が瞬殺して終わらせられると思うし、さっさと終わらせたいな。


 「では、ブラックドラゴン討伐に出発する」


 僕達はブラックドラゴンがいる洞窟へと向かうのだった。


 


 


 

 



 

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