第54話 魔力量

「ようこそお越し下さいました!こちらはクエスター登録の受付を行っております」


 受付のお姉さんは僕に言った。


 なかなかな美女…僕好みのタイプだ。

 おっと…そんなことはどうでもいい。


 しかし、流石は受付嬢だけあって言葉が聞き取りやすい。


 僕はシーフに連れられてクエスター登録しに来た。


 ドラゴン討伐クエストに参加するにはクエスター登録しなければならないらしい。


 めんどうだが、報酬の為だ。仕方ない、ちゃ、ちゃっと終わらせよう。


 「クエスター登録を希望ですね!まずは、身分証や、何か個人情報を確認できるものはお持ちですか?」


 なっ…身分証…?そんなものがこの世界にも存在するのか…。だとしたらまずいな。


 僕は身分証なんて持ってるはずがない。この世界に来たばっかだから持っている訳ないだろ!


 「あわわ…えーっと…そうですね…」


 僕は自身のポケットを探り何か取り出すフリをして考える時間を稼ごうとした。


 当然、ポケットには何も入ってなかった。

 どうする?

 

 「これ!コイツの身分証!」


 焦る僕をどかして、シーフが勢いよく紙を受付のお姉さんに渡した。


 「少し、見せて下さい…はい!こちらで結構です!身分証をお返ししますね!」


 シーフのおかげで切り抜けられた。


 恐らくあの身分証は偽物だ。シークがもしものために用意していたのか…?

 だが、そんな余裕などあっただろうか?

 僕とシーフは今日出会ったんだぞ?それなら今に至るまで約2、3時間程度だ。

 その間に僕の偽物の身分証を作ったというのか?


 シーフは紙を受付のお姉さん受け取った時に僕にウインクをした。


 そのウインからは「やったね!私のおかげだよ!」という言葉が僕に伝わってきた。

 認めたくないが、シーフのおかげだ。


 「では、次は魔力検査を行います!」

 「魔力検査?」

 「はい。一定の魔力量を超えて頂けないとクエスター登録はできません」


 たしかに、魔物との戦闘するわけだからある程度魔力がないと登録できないわけか。

 弱い者はクエスター登録さえできないってことか。


 「こちらの魔力検査玉に思いっきり魔力を込めてください」


 受付のお姉さんはそう言って透明な水晶玉みたいな玉を渡してきた。

 意外に重い。表面がツルツルしているので滑って落とさないように気をつけないと。

 


 「この魔力検査玉は込められた魔力量によって、色が変色します。透明は魔力が込められていない状態です。最低でも緑色に玉が変色すれば、クエスター登録できます!」


 受付のお姉さんは僕に説明してくれた。


 要は思いっきり魔力を込めればいい話だろ?


 「おい…あの弱そうな奴が魔力検査するってよ…」

 「ハハ…どうせ透明なままだろ」


 周りにいる野次馬が僕を馬鹿にして、笑っている。


 ムカつくな…。さっきからボソボソと僕を罵るのは聞こえていた。いくら温厚な僕でも、もう我慢の限界だ。


 いいよ…見せてあげるよ…僕の実力を。

 しかと、その目に刻むといい…


 「では、魔力を込めてみてください!」


 受付のお姉さんの合図に僕は魔力検査玉に魔力を込める。


 ゆっくりと玉に魔力を込めていく。


 玉がたちまち緑、青、白、オレンジ、ピンクと変色していく。


 そして、最大の魔力を込めた。僕からしたら軽くだけど。


 勢いよく玉は爆発したように粉々に砕けちった。


 魔力により発生した爆破で辺り一体を軽く吹き飛ばしてしまった。


 あまりの異様な出来事に周りは静まりきった。


 さっきまで僕を馬鹿にして奴らはひっくり返っている。


 ザマァみろ。いいきみだ。僕はスカッとした。


 「ハハ…ユウエイ…すげーよ!」


 同じく爆風によって倒れていたシーフが驚きながら言った。

 おっと、シーフまでもぶっ飛ばすつもりはなかったが、巻き込まれたのか。


 「で……検査結果は?」


 僕は倒れ込んでいる受付のお姉さんに聞いた。まあ、結果は見えているけど…


 「あ……えと…基準の魔力量を超えていますので…合格です…」


 受付のお姉さんはまだ何が起こったか、理解できていないようだ。片言の言葉で答えてくれた。


 僕は無事にクエスター登録できたのだった。





 

 「コイスさん、大丈夫ですかね…」


 コスイの部下が不安そうに聞く。


 「何がだ?」


 コイスが聞き返す。


 「あの、クエスターSランクの少女ですよ…」

 

 コスイの部下の不安の原因はカナファのことらしい。


 「どうせ、偽造だろう。このラノール王国に長くいるが、Sランクなど今までにいなかったしな」

 「俺も、嘘だとは思いますが…万が一本当にSランクなら…」

 「万が一Sランクだとしても、あのドラゴンは倒せないさ…もし倒したとしたら、その時はその時だ」

 「俺らの目論見がバレれたら、やばいんじゃ…」

 「バレたら終わりだろうな」


 コスイは笑う。


 「コスイさんは余裕がありますね…」

 「余裕か…ただ覚悟を決めてるだけだがな」

 「覚悟ですか?」

 「そりゃ騙す行為には必ずバレるリスクが生じるのは当たり前だろ?だから、騙す時にゃ、バレる覚悟も決めてるだけだ」

 「なるほど…さすがですねコスイさん」

 「安心しろよ、俺らが今まで何年もバレずに騙し続けてきただろ?」

 「すみませんでした…俺には覚悟が足りてませんでした」


 「明日はいつも通り頼むぜカベス」


 コスイは奥で座っている男に言った。


 「やるべきことはやる。だが、しっかりと報酬を分けろよ…コスイ…」


 カベスはコスイを睨んで警告するように言った。


 「まだ、昔のことを覚えてるのかよ…いい加減忘れてくれよ」

 「いいや、お前が分け前の金をケチったことは一生根に持っている」

 「悪かったよ…俺の騙す癖がでてしまったんだ。許してくれ…だが、流石はカベス、一瞬で気づくとは…」

 「俺を舐めるなよコスイ…また、騙そうとしたら一生協力せんからな…」

 「本当に悪い…カベス、お前がいないと稼げない」

 「なら、誤魔化すなよ」

 「ああ、もうするわけないだろ」

 「明日、計画通りに頼むぜ」

 「フッ…何回やってると思っている?安心して任せろ」


 コスイとカベスは薄ら笑いを浮かべた。


 




 


 


 

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