13回目のベル(can't speak)

遠藤みりん

13回目のベル(can't speak)

「こんにちは。今日も良い天気だね」 


 近所の小さな商店を営む、お兄さんが私に声を掛けてきた。


 このお兄さんは、とても爽やかな笑顔でいつも私に声を掛けてくれる。


「こんにちは。こんな良い天気の日に、学校なんて行きたくないな……」


 私はお兄さんに答えた。私はこの先の小学校に通っている。


 この商店のお兄さんに挨拶するのがいつもの日課だ。


“ジリリリリ……ジリリリリ……”


 いつもの日常の中、聞きなれない音が聞こえて来る……電話の音だ。


 音の出所を探すと、商店の前に設置されている公衆電話からだった。


 私は公衆電話の前に立つ、迷いながらも公衆電話の受話器を取った。


「もしもし……」


「もしもし……私?」


 電話を取ると大人の女性の声だった。声の主は続けて話し始める……


「私って?……どう言う事?」


「信じられないかも知れないけど……私は10年後の貴方なの」


「えっ?」


「貴方は今、入る部活に迷っているわね?」


「なんで分かるの?陸上部に入るか、吹奏楽部に入るか迷っている……」


「私もそうだった……吹奏楽部にするべきよ、貴方は陸上部に入る事で足を壊してしまうわ……」


「えっ!そうなの?」


 私は驚いたと同時に電話は切れてしまう……何かの悪戯だろうか?


 しかし何かが引っ掛かり、電話の通り吹奏楽部に入部した。


 それから数週間後、公衆電話の前を通るとまた電話が鳴っていた。


「もしもし……」


「もしもし……吹奏楽部には、入った?」


 またあの声だ……私は受話器に耳を傾ける。


「入ったよ」


「そう、良かった……貴方はもうしばらくするとA校、B校どちらかの高校に進学するか迷うの……A校にしなさい。B校は問題があるわ


「えっ!問題って?」


 私の質問の答えを聞くこと無く電話は切れてしまった……


 また数週間後……公衆電話の前を通るとまた電話が鳴っていた。


「もしもし……」


「もしもし……貴方は高校3年生になるとA社、B社どちらに就職するか迷う事になる、B社にすることね……」


「わかった……ねぇ、貴方は誰なの?」

 

 私の質問の答えを聞くこと無く、また電話は切れてしまった……


 更に数週間後……公衆電話の前を通ると、また電話が鳴っていた。同時に、商店を営むお兄さんが出て来て、私に声を掛けてきた。


「こんにちは。公衆電話が鳴っているね……故障かな?僕が業者に連絡するよ」


 私は電話に出て、話しを聞きたかった。しかし、お兄さんが公衆電話に入ると電話は切れてしまう。


 13回目のベルだった……


 私は、とても残念に思った。


 10年後……


 私は20歳になっていた。公衆電話の声の主の通り、吹奏楽部に入部すると全国大会で優勝した。

 A校に進学し学業も順調だった。B校は生徒の起こした殺人事件で大きなニュースになっている。

 卒業後、入社したB社は景気が良い、迷っていたA社は先月倒産してしまった。


 声の主の通り、全てが順調だった……


 ある日の夜にもう潰れてしまった商店の前を通る。公衆電話は健在だった。


もしかして、あの頃の自分に繋がるかもしれない……


 私は興味本位で公衆電話を入ると受話器を手に取る……


“プルルルル……”


 繋がった……私の鼓動は早くなる。


「もしもし……」


「もしもし……私?」


 電話に出たのは10年前の私だった。間違い無い……


 私はあの頃、掛かってきた電話同様に10年前の私にアドバイスを送る……

 繋がる電話は直ぐに切れてしまう……あの頃と同じだ。


 ある日の帰り道……


 私は仕事の帰り、いつもの道を通る。 


“コツ……コツ……コツ……”


 背後から足音が聞こえてくる……


“コツ……コツ……コツ……”


 足音は次第に大きくなっていく……私を尾けているようだ。


 振り向くと、黒いフードを被った男が私を追ってきている……


 私は駆け足で帰り道を急ぐ……足音は早くなり、男は私に着いてくる……


 商店の公衆電話が見えてくる。私は公衆電話の中へ避難する。


 公衆電話に入り、体を背に扉を塞ぐ……公衆電話のガラス越しに黒いフードの男の顔が見えた。


 あの商店のお兄さんだった……


 手にはナイフを持っている……


 10年前の私に、知らせないといけない……私は震える手で受話器を握った。


“プルルルル……”


 公衆電話の外ではかつて爽やかだったお兄さんが強くガラスを叩いている……


“ プルルルル……”


 私は必死に扉を塞ぐ、しかし恐怖から体に力は入らない……


“ プルルルル……”


 電話は繋がらない……公衆電話の扉の隙間から男の指が入ってくる。


“ プルルルル……”


 電話は繋がらない……男は公衆電話に入ると私にナイフを振り下ろす。


“プルルルル……”


 私は倒れ込む……電話は繋がれる事は無かった。


 “13回目の呼び出し音で電話は切れた”






 


 


 


 




 

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