第7話 原作じゃないのでメインヒロインの性格が変わってる件

 原作【劣等印使いの無双譚】では、怠惰のローススこそが宰相に化け、国王を操っていた七魔族が一人【怠惰のスロース】だった。

 つまり、こいつをどうにかしないと原作ルートまっしぐらなのだ。

 この謁見を開いた本当の理由は、【怠惰のスロース】を排除する事と言っても過言ではない。


「と、突然何を言い出すんだ……」

「アンタの種も仕掛けも既にバレてる。俺の種と仕掛けは既にセットされてる。降伏するなら今ですよ」

「こ、国王、この者乱心を――」

「花よ、咲け――【吸魔花アルラウネ】」


 謁見の間には似つかわしくない、色が濁った巨大な花が怪しく輝く。

 苗代となったスロースから、変装の魔術を剥ぎ取りながら。

 

「あれは!」


 と、国王が立ち上がり、辺りの親衛隊たちが騒めき始めたのも無理はない。

 目前で、人間が怪物へと変化していったからだ。

 色を失ったマネキンのような顔面になり、背からは蝙蝠のような翼が飛び出る。


 何か反論したそうにこちらを睨んでくるスロースだが、勿論そんな隙は与えない。

 スロースに仕掛けていた種は、一つじゃない。

 

「【破蕾】」

「がああああああああああああ!?」


 スロースの全身から、根が突き破ってくる。

 全身から黒い血を吹き出し、魔族は倒れた。だが生きている。

 規格外のタフネスっぷりはゴーマで学習した。こいつら魔族は、殺すつもりでやって、丁度良く死なないくらいだ。


 殺しはしない。このまま拘束する。

 国王達が【魔王】や【魔族】の情報を吸い取る為の、苗床となってもらう。


「【根絡】」

「いぎ、ぐお……」


 と唱えると、四方八方へと拡散していた根が、スロースへと収斂する。

 全身に絡まり、悶えることしか出来なかったスロースを雁字搦めにする。


 まだだ。七魔族の最も怖い点は、無尽蔵の魔力からなる魔王由来の魔術だ。

 反撃の芽は、全て刈り取る。


「花畑よ、広がれ――【吸魔花アルラウネ】!」


 二輪目の【吸魔花アルラウネ】が咲く。三輪目の【吸魔花アルラウネ】が咲く。四輪目。五輪目――。

 次々にスロースから、濁った花が開く。それらすべてが、魔力を根こそぎにする。

 所狭しとすし詰めになる風船のような花弁の下で、スロースは最早藻掻くことしか出来ない。


「う、動けぬ……魔術も撃てぬ……回復も、出来ぬっ……!」

「陛下。これが敵の正体、魔族です」

「魔族……あの魔王の眷属か!? 封印されていた筈では!?」


 立ち上がるヨーラク国王。

 流石に驚くよね。魔族も魔王も、遠い昔の神話でしかなかったから。


「調べてもらえれば、分かるかと。魔王を救神と偽り、人々を惑わせようとしています」

「相分かった。厳重に拘束し、連れていけ! 魔術師や学者も呼んで、調べるのだ」


 と命を受けた親衛隊が、改めて拘束用の魔術を当てながら運んでいく。

 【吸魔花アルラウネ】が運ぶのに邪魔そうだな……。


「では、バロンも魔王の手先か?」

「はい。ゴーマという魔族と結託し、魔王が統治する魔界を実現しようとしていたのでしょう」

「あ、あのゴーマも魔族だと!?」


 今更たがこのバロン、ゴーマが魔族である事は知らなかったんだよな。

 救神の力を利用する為、巫女であるリリたんを紹介した人間程度にしか思ってなかったっぽい。

 だからといって、バロンの罪が軽くなるかと言えば、そんなことある訳もなく。


「やれやれ。俄かには信じがたいが、まさか魔王なる古の禁忌を破ってまで、この国が欲しかったとはな……」

「お待ちください陛下! 本当にアレが魔族なんて知らなかったんです! 奴らは救神を降臨させる為の……」

「最早聞くに堪えん。連れていけ」

「魔王なんて、私も知らなかったんだぁ!! 助けて、シオン! この父が汚名を着せられて、あああああああああ!!」


 汚い断末魔だ。まだ死んでないだろうが。

 公開処刑は確定だろう。一応裁判の手筈は踏むだろうが。

 今更父の情に訴えるな。散々出来損ない扱いしてきただろうが。


 ヨーラクも頭の整理が追い付かない様子で、眉間を指で掴みながら俺に命令をする。


「しばし休憩とする。シオンよ。後で聞かせてくれ。一体この国に、何が起きているのか」

「はい。全てをお教えします。この世界で、一体何が起きるのか」


 これでリリたんと話した、【1つ目――このエスタドール家を終わらせる】は完了した。正確には、国王が魔族の傀儡となる事を防ぐのが本当の狙いだったが。


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「おーい! シオーン!」


 国王が用意した応接室まで向かっていると、対面からルク姫が走ってきた。

 天真爛漫が少しだけお高い服着て走ってるような少女に、俺は頭を下げる。

 

「ルクジャスミン姫。今回は本当にありがとうございました」

「二人の時はルクって呼んでって言ってるじゃん! やだよこんな時まで固っ苦しいの」

「無茶言わないでくださいよ。貴方は姫なんですから」


 せめてルク姫が限界だった。原作ではこんな性格で無かった。

 二つ名の通り、【聖女】だった。国王の邪智暴虐な振舞いに身分を隠しつつ、クールに立ち振る舞う魔術戦士だったのだ。

 そしてピンチに追いやられた時、助けられた主人公に抱き寄せられ、かつチートな能力の前にトゥンクしてたのだが。


 しかし、今のルク姫からは、クールのクの字も見当たらない。普通の快活な少女って感じだ。

 ……原作の性格は、国の混乱に引っ張られてだったのだろうか。


「いやー、でもさっきのは凄かったね。シオン、あんなに強かったなんて!」

「ありがとうございます。偶々策が当たっただけですけどね」

「今もすごい冷静じゃん! 今王宮はてんやわんやだよ。バロンの謀反もそうだけどさ、あのローススが魔王の手先だったのが信じられなくてさ」


 あれからスロースは、王宮中の魔術師に総出で封印魔術を施され、指一本も動かせない状態らしい。

 確かに魔族は主人公じゃなきゃ倒せない程強い。だが多勢はどうしようもないし、王宮にもバケモノみたいなのがゴロゴロいる。

 だからこそ、搦手で国を乗っ取ろうとしていたのだ。


「ところでさ、リリエルって、婚約者だよね」

「いや、今のところは婚約者候補っていうか」

「彼女の事、リリたんって呼んでるの?」

「ファッ!?」


 すげー変な声が出た。

 めっちゃルク姫に笑われとる。


「あれ? 俺、リリたんなんて……」

「何度も言ってたよ? リリたんリリたんって。いやー、特に悪逆な父に、リリたんを馬鹿にされて詰め寄った時とか。マジでリリたんリリたん大連発だったよ」

「あああああああああ」

「いやー。リリたんの事めっちゃ好きなんだねぇ」


 やめてくれえ! 助けてくれえ! そんな意地悪な目をしないでくれえ!

 リリオタな事をこんな公然な場所で晒すな! 死ぬしかないじゃないか!

 俺の動揺も知らないで、まるで恋する乙女のように合掌しながら天井を見上げていた。


「いいなぁ。リリたんは、ここまで愛してくれる人がいて。私にもこんな王子様現れないかなぁ」

「ルク姫もお美しいのだから、引く手あまたなのでは」

「ちょっと、シオン私も狙ってる感じ!? 浮気じゃん!」

「いや、ルク姫が美しすぎて俺に釣り合わないです。現れると思いますよ。三年後ぐらいに」

「三年後? なんで?」

「あ、いや。すみません、適当言いました」


 三年後、【劣等印使いの無双譚】の主人公と、メインヒロインとしてイチャイチャしますよ、なんて言える筈もなく。

 なんだったら裸で主人公と抱き合うシーンとかありましたよ。アニメでは大事な所に光が走ってたけど。

 原作通りに進んでいれば、の話ですが。

 

 ……このまま、王国が魔族に乗っ取られないルートを辿ったとしたら、主人公とルク姫はどうなるんだろう。

 原作を見た個人的な感想としては、やっぱりルク姫にはあの主人公しかないってなるけども。ただ、あの作品ハーレムな所があるんだよな。もしかしたら別ヒロインとハッピーエンドを迎えるかもしれない。

 いずれにせよ、ルク姫には幸せになってもらいたいものだ。


 というか主人公、三年後に本当に出てくるのか?

 出てきたとしたら、魔族の支配下から逃れたこの王国で、どんな風に立ち振る舞ってくるんだろう。

 

 と、ルクと話しているうちに何だかんだ応接室まで辿り着いた。

 あれ? ルク姫着いてくるの? 扉を開ける門番も困惑してるんだけど。


 さて、ここからだ。

 リリたんとの約束2つ目――【リリたんと妹スノウを売った父、そしてスノウを殺したロリコン妻殺し貴族二名を、リリたんの前に連れてくる事】。

 

 それが叶うかどうかは、この応接室で国王を説得できるかにかかってくる。

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