第46話 絶技(ゼツギ)
「チッ、諦めの悪い男だ」
瞬く間にシャロンの飛翔によって空高くに居る魔王に迫ると、魔王は再び空に手を掲げ、
「"
「喰らうかよッ! シャロン!」
「任せるのだわっ!」
シャロンは機敏に飛ぶ。
闇の落ちてくる位置を避けて、魔王へと肉迫した。
「取ったッ!!!」
そして俺はとうとう、魔王の、ミルファの手首を捕まえて──
「努力賞と言ったところだなぁ」
グニャリと。
そのミルファの体が泥のように崩れ始めた。
「目に見えるものをすべてと思わぬほうがいい」
声は俺の頭上から響いていた。
見上げれば、数メートル上。
天井無しかと思われた夜の空の一部が晴れる。
闇の外側で、魔王は仁王立ちするように浮かんでいた。
「光よ──我が神前に
「くっ──!?」
太陽の光を凝縮しまだあまりあるような極大の光線が俺とシャロンへと浴びせかけられた。
高熱を帯びたそれはどういう理屈か質量をも持ち、それによって俺たちの体は勢いよく地面に向かって堕とされていく。
「今生の別れだ。お前たちに会うことはもう二度と無い」
再び空が夜で塞がっていった。
次第に魔王のその姿は黒い霧のようなものの後ろへと消えていく。
「だから……勝手なことを言うなってッ!!!」
俺は光線から逃れる。
シャロンのことも助ける。
「まだ、飛べるかっ?」
「さすがにもう限界なのだわ……だから」
空中で、シャロンは器用に俺の背中側に回り込む。
「あの空の向こう側まで、あなたを蹴り飛ばす。それでいいわね?」
「頼んだ!」
「行くのだわぁぁぁ──ッ!!!」
背中に、ドロップキックの要領で思いっきり蹴りを入れられた。
情け容赦のいっさい感じられない凄まじい威力だ。
ロケットエンジン並みの推進力を得て、俺は夜の空を突き破った。
そのすぐ目の前に、魔王。
「さっきぶりだなぁ、また来たぜッ!!!」
「ッ!?!?!? コイツ、どこまで──」
「『どこまで諦めが悪いのか』って? 俺の辞書にはそもそも『婚約者を諦める』なんて言葉は収録されて無いんだよッ!」
魔王が何か魔法を使おうとする前に、俺の体は今度こそそのミルファの手首を掴んだ。
「このっ、放せ……! 雷よッ!!!」
ジタバタと、放電したり高熱を発したりする魔王。
しかし俺は無視し、ガッツリとその両肩掴んだ。
魔法をぶつけたきゃいくらでもどうぞ。
でも俺は二度と離れる気なんてない。
「ミルファちゃん、俺だ。目を覚ましてくれ。まだ魔王の意識に負けてなんかいないだろっ?」
「無駄だ! 器の意識には誰の声も届きは、」
「ミルファちゃん、聞いてほしい。俺さ、確かに君のこと何も分かってなかった。君の中に魔王がいるなんてことも、まったく」
目の前に今いるのがミルファではないことは分かっている。
俺のことを忌々しげににらみ付けているのは魔王だ。
でも、俺はその視線から目を逸らさずに受け止める。
「ごめん。不甲斐ない婚約者で。ミルファちゃんの悩みにまるで寄り添えていなかった。だから……挽回のチャンスが欲しい。君の頼れるパートナーであることを、これから先の一生を懸けて証明していくと俺は誓う。だから……帰って来てほしい」
「ク……ハハハッ! 何を述べているかと思えば、結局は器頼みか! 無駄だ、私が再び器に自我を乗っ取られることなどありはしない!」
「大好きだ、ミルファちゃん。君の全てを知っても、俺の気持ちは何も変わらないッ!!!」
「だからなにを言っても無──ふむぉっ!?!?!?」
俺はミルファへと唇を重ねた。
ビクリとその肩が跳ね……俺の体を遠ざけようとする。
今の意識は魔王のもの、当然だ。
……でも、ミルファちゃんの体の奥の奥にまで俺の存在を気取って欲しい。
俺はミルファの頭を押さえ込むようにして唇を離さなかった。
「むぐぉ……むがっ──んむぅっ……!」
もがく魔王。
噛みついてくる魔王。
唇を重ねる俺、離そうとする魔王。
激しい応酬だった。
……それでもまだ、届かないかっ。
……ならば、見せるしかないな。
──俺の、
「れろっ」
俺は舌を入れる。
「────ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!?!??!?!?!?」
大きな反応を見せるミルファ。
今の意識は魔王のもの、当然だ。
この調子で魔王を揺さぶり、そしてミルファちゃんへとこの想いを届ける。
「れろっ、ちゅぱっ、レロレロレロレロレロレロッじゅぶるじゅぼっじゅぢゅぅぅう、ちゅぱっ、はむぅるめちょめちょじゅぼじゅぼじゅぼぼぼっ、むちゅっじゅぶりじゅぶじゅぶるっ、ちゅぱっ、レロレロレロレロレロレロ──ッ」
「~~~ッ!? ーーーッッッッッッ!?!?!?」
魔王は白目を剥いている。
おそらく、少し嫌がっているのだろう。
……俺だって、ミルファちゃんじゃないミルファちゃんへとキスをするのは抵抗があるさ。
でも、俺の中には確かなミルファへの愛だけがあった。
これはミルファに"俺"を伝えるための行為。
たとえ君が変わり果てようとも俺は君のすぐ側で君を待っているよ、と。
その気持ちをこの全力のキスに込める。
俺はミルファ(魔王)の腰を抱き寄せた。
……さあ、いくよ。ミルファちゃん。
届け、俺の
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