第42話 その男、最強につき

「ケガはないか?」


ニーナの顔に少し飛び散っていた魔人の男の血を拭いながら聞く。

パッと見、ケガらしいケガはないみたいだけど……


「だ、大丈夫っス。ありがとうございます、ジョウさん……」


「そっか。よかった」


ちょっと首の部分がアザになっているのが気にかかる。

あとで念のため医者には見せた方がいい……

が、まずは目の前の魔族たちだ。


「オイ、お前ら覚悟は、」


ズガァンッ! と。

地面が揺れる。

俺が言い切る直前のことだった。

それは地震。しかも、俺が日本で幾度となく経験した震度3……体感でその5倍を上回る縦揺れの震動だった。


そのことに不意を突かれたスキに、俺へと肉薄してきたのは男の魔族。

その手を俺の胸に当てた。


「お前が何者かは知らないけどよぉ、僕をこんな目に遭わせたヤツを、許すワケにはいかないなぁぁぁッ!」


俺はとっさに、ニーナを俺から突き離した。

直後、バリィッ!!! と。

俺の体に高圧の電流が流れ込む。


「今だワルシュラッ!!! 直接お前の"震動"を叩き込めェッ!!!」


「言われなくても──"震えろティンバー"ッ!!!」


続けて胸に叩き込まれたのは女の掌底。

すると、ゴォン! と。

俺の体の内側で大鐘楼でも鳴らされたのか、というほどの衝撃が胸を中心に体の隅々まで広がった。

その衝撃は重なり合って、ミシリミシリと俺の体を内側から壊しにかかってくる。


「これで終わりだ……跡形もなく吹き飛びやがれぇぇぇッ!!!」


トドメと言わんばかりの大落雷が俺の頭上に落ちた。

その威力は俺の下の地面の石畳を大きく叩き割り、火種を燻らせるほど。

もちろん俺の着ている服なんて例のごとく瞬く間にボロボロだ。


だが……俺自身は立っている。


「な……死んで、ない……?」


「……ウソっ!?」


男と女、両方の魔人が俺を見てドン引きしていた。


「そんなバカな、炭になっておかしくない出力だぞ……」


「私のだって、体が内側からミンチになるくらいに震わせてやったわよ……?」


そうだったのか。

君たちは、そんなに自分の力に自信があったんだなぁ。

だとしたら誠に申し訳ない。

俺はちょっと頑丈すぎるもので。

だからさ、


「お前らのことは害虫にしか見えないんだ」


コイツらは人じゃない。

自分の悪意や力を知っていながら、むやみやたらに俺や友人に噛みついてくる、とびっきり迷惑な害虫だ。


俺は足を大きく踏み出し、右腕を振るう。

ぱぁんっ! と水袋が弾けるように女の魔人の顔面が弾け飛んだ。


「……ワルシュラっ!? クッ──!」


男の魔族の方がとっさに逃げようとした。

させない。

俺はその進路に回り込み、魔族の顔面を掴んで地面に叩きつけた。

倒れた直後、


「ぐっ……がぁぁぁぁぁッ!!!」


魔族の男の、電気ウナギのような捨て身の放電が俺を巻き込んだ。

バチリバチリと俺の肌の上で紫電が躍る。

線香花火みたいだな。

で?


「楽しいか、それ」


「な、なんでだ……なんで効かない……!? お前はいったい、」


その先の言葉は聞けなかった。

先にその顔を殴り潰してしまったので。


「……っと、ヤバ……」


俺は我に返って、先ほど突き離してしまったニーナの方を見る。

ニーナは俺を見て呆然としていた。

そりゃそうだ。

こんな虐殺の現場を見られてしまっては。


「ニ、ニーナ……?」


「だ、大丈夫っス……ちょっとクるものはあったっスけど……」


顔色を青くしつつも、ニーナは立ち上がった。


「そ、それよりっ! ジョウさん、ミーさんがッ!」


「……ああ、分かってる。場所はっ?」


ニーナは通りの向こう側……商会に続く道を指差した。


「ありがとう! ニーナは遠くまで逃げて隠れてるんだ」


俺はそちらに向けて、全力で駆け出した。

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