第28話 責任を持って連れて帰ります

邪竜を担いで谷を登り交易路に出て、アドニスの町の方角へしばらく走っていると10分やそこらで馬といっしょに待ってくれているミルファを発見することができた。


「ジョウ君っ、丸焦げっ!? というかその女性ヒトだれっ!?」


当然のごとく、そのことについてツッコミを入れられてしまう。そりゃそうだ。邪竜と戦い終わって帰ってきたと思ったら、知らない女を担いでいるんだもの。俺はかいつまんで事情を説明することにした。


「──なるほど、そんなことが……そにしても縛り、か」


「そうそう。ミルファちゃんが魔法に詳しいかなと思ってさ、それで問題ないか訊こうと思ってたんだけど」


「うん。問題はないと思う。でも」


ミルファは面倒臭そうに邪竜の方を向いた。


「縛りの内容についてはちょっと問題があるかもね。このままじゃ私たちが邪竜を倒したという証明ができないし、それにいざこの邪竜が別の場所で見つかったとき私たちが邪竜を討伐したという虚偽の申告をしたということがバレてしまうでしょ」


「ああ……確かに」


邪竜が他の場所で姿を現した場合の懸念については完全に考慮していなかったし、何なら討伐をどのように証明するかについても全く考えていなかった……やっぱりミルファに相談して正解だった。


「そっか……じゃあ、残念だけど」


「え゛」


俺の右手に大剣が握られるのを見て、邪竜は首をブンブンと横に振る。


「ちょ、話が違うのだわっ!!!」


「生存ルートの期待をさせておいて申し訳ないんだけど」


「そんな軽い謝罪で伝説の存在に刃を向けないでほしいんですけれど!?」


まあ嘘は吐いてない。俺は元より仲間ミルファと相談して最終決定すると話していたからな。とはいえ、あまり後味が良いものではない。特に今は人間の姿をしているわけだし……。


「ジョウ君、いちおうだけどこの邪竜を生かしておく術はあるわ」


「え、ホント?」


「うん。要はもう1つ縛りを重ねればいいのよ。今度は私との間にね」


ミルファはそう言って、邪竜の手を取った。


「『あなたは今後いっさい私の許可なく竜の姿に戻ることはできない』──誓えるかしら?」


「は……はぁぁぁッ!?!?!?」


邪竜が素っ頓狂な声を上げた。


「な、何を言ってるのだわこのアマ! というか何で私が敗けてもいないあなたなんかと縛りを結ぶ必要があるか分からないんですけど!?」


「リスクは分散すべきでしょ? 私たちのどちらかに万が一のことがあっても、どちらか片方の縛りは残るわけだから。それが理由の1つ。そうして2つ目は……」


「アッ──!?」


ミシッミシミシミシ……万力に締め付けられるがごとく握りしめられた邪竜の手が悲鳴を上げる。


「まさか空の王である竜が人間の姿を模したあげくメスだったとはね、知らなかったわ」


「オッ、オォォォオ……!」ミシミシ


「ジョウ君は私の婚約者なの……伝説の生き物か何なのかは知らないけど、勝手に縛りとか、今後いっさいヤめてね?」


「~~~ッ!!!」コクコクッ!!


「うんうん、分かってくれたらいいのよ。じゃあ縛りね」


邪竜、2度目の敗北。


涙目の邪竜とミルファの間でもまたそうして縛りが追加されることとなった。


「ウ、ウゥッ……! これからこの姿のまま、どうやって生きていけと……っ?」


地面に膝を着いて嘆くその邪竜からは、もはや宙を飛んでいたころの勇ましさも禍々しさもなく、ただただ小さく見えた。


「ジョウ君、自分でやっておいてなんだけど、ちょっと面倒なことになっちゃったわね」


ミルファが腕を組んで悩まし気にする。


「人間の姿になって邪竜バレはしなくなったとはいえ、今の状態でも身体能力はかなりの水準だと思うの。このまま野放しにするのは危険よ」


「うーん、まあ確かに……じゃあもう、連れて帰るしかないか」


ため息混じりの俺の言葉に、ミルファもまた渋々といった様子で頷いた。


「そうね……その中で、人の生活というものを知ってもらうしかないと思うわ」


「それでどうにかなるもんかなぁ……」


「人に対する見方というものが変わってくれればいいのだけれど、どうでしょうね」


そんなわけで、邪竜(少女擬態バージョン)がお供にしてアドニスに帰還することになってしまった俺たちだった。

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