第15話 気付けば町の救世主になっていたようです
積み荷を奪ってからの行商人をいったいどうしたか、どのように扱ったのか。それが1番の問題だと俺は思う。
町の立場からすると、行商人から何もかも奪って町の外へ放り出すというのは悪手だろう。他の町にその悪事を暴露されてしまっては粛清の対象にされかねないし、満足に助けも呼べなくなるだろう。
先ほど、商会長のオブトンは手を汚してきたと言っていたし、ということはもしかすると用済みの行商人はいっそのこと……
「まさかっ!」
俺の隣のオブトンが大きな声を上げた。
「積み荷を奪って命も奪うなんて、そんな非道なマネはしてねぇっ!」
「でも全部奪った後で町の外に出すなんてマネもしてないだろ?」
「だからよ、いちおう【保護】って名目で町に滞在してもらってるのさ」
「保護?」
「……東の山や南の谷を通ろうとすりゃ、2回に1回は死ぬようなもんだ。事態が解決するまでは町の外に出すわけにはいかねぇ」
「本人たちは納得してるのか?」
「してると思うか? 無理やりだよ」
「それは保護じゃなく軟禁と言うのでは?」
「……フン、そうさ」
「今回の事態が解決しようがしまいが、どちらにせよこの町の今後は大変そうですね」
「ハハッ、まったく、他人事みたいに言いやがって」
ヤケっぱちにオブトンが笑う。
「俺たちが大いに手を汚しまくって住民んたちを守り、プラチナくそ野郎どもに法外な大金はたいてペコペコ頭を下げて
「そうなの?」
「ああ。結局あの冒険者らにあのまま頼ってようが頼っていなかろうが、きっとどっちを取ってもこの町は潰れてただろう。因果応報ってヤツだ。結局、俺たちのやり方は間違ってたんだよ。むしろ俺はスッキリしてるね、今」
オブトンはそう言って、脱力したようにソファに体を預けた。
「勧善懲悪ってヤツだろ。俺たちは懲らしめられる側さ。滅びる運命だっていうなら、もうそれを大人しく待つさ……」
オブトンたちはオブトンたちなりに最善を尽くしたのだろう。住民たちを守るためという【正義】を貫いた結果、行商人たちにとっての悪となってしまったわけだ。
……とうてい褒められた行いではないのはその通り。でもそういう"町を守る"っていうただひとつのことに対し、一貫した信念を持っているところは俺にとってはちょっと好印象なんだけどね。
「あの、話を聞くだけ聞いてたので、俺から話し出すのが遅れてしまったんですが……東の山の魔人についてちょっといいですかね?」
「は、はい。なんでしょう……?」
町長たちに、俺はかいつまんで話す。その魔人、もう俺が倒しましたよ、と。
「──え……? いま、なんと……?」
町長がポカンとした表情でこちらを見た。
「ですので、東の山の魔人はもう倒したんですよ、俺」
俺は机の上に広げられている地図の1点を指さす。
「東の山って言ってるのがこの山なんですよね? 俺たちはこの山から下りてきて……山の中に居る時に、魔人の1人を俺がこの手で倒しました」
「な、なんと……っ!?」
「東の門からこの町に入ってきましたし、それについては門の衛兵の人にも確認が取れるかと思いますけど……まあ、やっぱり実際に交易路まで行ってみないと信じられませんかね?」
町長も組合長もオブトンも、3人で呆けたように目を見合わせていた……かと思うと、ガシッ! と俺の手を掴んできた。真っ先に組合長が。
「なんてことだっ! あの憎き魔人を!? オォォォッ! なんと、なんと感謝を申し上げたらいいかっ!」
「ほっ、本当ですかッ!? ありがとうございます! ありがとうございますっ!」
町長もまた、そう言って何度も何度も頭を下げてくる。
「マ、マジかよ……アンタ、マジかよッ! マジか、マジなのかっ!?」
オブトンは何度も何度も確認してくる。その度にマジだよと頷いておく。
「そうだとしたら、オイ、町長! すぐにでも交易路の安全確認に向かわねーと……!」
ヒロイン張りの陥落具合を見せて感涙している町長と組合長の方を揺すって、オブトンだけはひたすらに冷静だった。
……うん。頼むからその調子で組合長たちを正気に戻してくれると助かる。喜んでくれるのは嬉しいんだけども、オジサンたちによってたかって手を握られるのはちょっとな……。
「ところで、そんなにすぐに信じてもらっていいんですか?」
「……ああ。まあそれについて俺は直感だが、アンタはウソは言わない。自分の信念は絶対に曲げないヤツの目をしてる。俺の商人として勘がそう言ってるね」
オブトンはそう言って強く俺の肩を握った。
「深く感謝する。本当に」
ひとしきり喜んだオジサンたちは、それからすぐに動き始めた。組合長と商会長のオブトンは部屋を後にし、交易路調査のための人員を確保しに行くそうだ。町長と俺だけが部屋に残された。
「本当に、本当にありがとうございました。ジョウ様は救世主です」
「いや、そんな……」
「本当に、何とも喜ばしいことです。町のみんなにも早く伝えたいところですが……しかしその前に」
町長は鼻歌でも唄い出しそうなご機嫌の様子で、契約書を差し出してきた。その中の人名を書くらしき欄にあった文字列に横線を2本引いた。
「こちらは魔人討伐に際してノトリト様と交わすはずだった契約書です。報酬として1200金貨をお渡しするという内容のものでしたので、交易路の安全が確認されしだい、こちらをジョウ様に……」
「え、私にっ? いや、悪いですって……」
1200金貨ってだいぶ大金なんじゃないか? 恐れおののきつつ契約書を見る……そもそも読めない。日本語じゃなかった。
……まあここに来るまでの間で大方そうなんじゃないかなとは思っていたけど、意志疎通は日本語で問題ないのに文字は違うんだな、やっぱり。こんな状態じゃとてもじゃないけど契約書にサインとかできやしない。どうしようかな……。
なんて風に思い悩んでいたとき、
「あっ!」
町長が何かを思い出したように声を上げた。
「そうだ、いまさらながら申し訳ない……大変なことを忘れていました……」
「どうしたんです?」
「プラチナランクの冒険者はもう1人いるのです。ミーシャという長髪の男ですが、もしかすればそろそろ帰ってくるかもしれません。その時にこの惨状を目にしたらトラブルになるかも……」
「ああ、まあ確かに。どこかに出かけてたんですか?」
「ええ、はい。ノトリト様と契約のお話をしている中で、ここに居てもやることがないから町中で女漁りをしに行くとかなんとか」
「……は?」
即座に胸の中に不安がよぎった。
……女漁りだと? 町中……町中のどこで、だ?
「女癖が悪い、というか全ての女性が自分を飾るための装飾品としか見えていない人でなしとして有名らしいのです。まあ、町の住民たちにはノトリト様たちがいらっしゃる間はなるべく外に出ないようにと指示を出しているので平気でしょうが」
「……ということは、町中に女性は……」
「いないはずですが……あっ、まさかジョウ様、お連れの方が……!?」
「はい……! つまり、今町の中で外に出てる女の子はミルファちゃん……!? くそ、早く商会へ戻らなきゃ──」
その時だった。ガチャリと部屋のドアが開いた。
そして、そこから姿を現したのは……
「あ、ジョウ君! ここに居たのね……無事でよかった」
ホッと胸を撫でおろすミルファと、その背中に隠れるようにしていたニーナだった。
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