第36話 ストレッチ

試合開始まで30分。

私達は試合前のストレッチをしていた。


「そういや、英玲奈と海は一年でほぼレギュラーなわけじゃん。

ぶっちゃけ、先輩達とどうなん?」

「良い顔してないやつはやっぱりいるよ」

「そだねー、でも、この世界は結局実力至上主義だし、ウチは超がつく名門だから良くも悪くも皆納得するから安心しろって、琴葉ちゃん言ってた」


楓に問われた私とカイは背中を合わせてやる定番のストレッチをしながら答える。


「でも、さっきからめっちゃ睨まれてるよ」

「あー、アレは噛ませ犬ポジの先輩だから大丈夫」

「アタシもあの人嫌いだわ」


こっちを睨んでくるのは瑠偉先輩。

ついこのあいだ、私達にレギュラーの座を奪われた先輩だ。

そのイライラをぶつけたくてしょうがないんだろう。


「なんで?」

「あら楓さん、貴方相変わらずゴシップ大好きですわね」

「あら、英玲奈さん、ゴシップ嫌いな女子がいまして?」

「いないですわね」

「淑女の嗜みですわ」

「そうですわね」


お嬢様言葉で話す私と楓を見るカイはドン引き、絵里は苦笑い。


「なんで嫌いなの?」

「単純に嫉妬深いんだよ、あの人」

「あーね」


絵里ちにも経験があるんだろう。


「英玲奈は?」

「弱いくせにイキってるから以上」

「わぁ、めっちゃウザ」

「でしょ」


あの人は典型的な小物だから敬おうと思えない。


「ナイスあやせ!」

「あ、翔くん負けちゃった」

「最悪」


代表して、行った翔がじゃんけんに負けたため、私達は2回やることに。

わざとじゃないだろうな。


「まさかわざとじゃないよね?」

「違うわ、あや姉、じゃんけん強すぎんだよ」


戻ってきた翔はボールを受け取ると指で回しながらあやせ先輩を見つめる。


「帰り、アイス奢りな」

「なんでだよ」 

「じゃんけんで負けたから」

「えー」

「口答えすんな」

「はいはい」


ナイス、カイ。

さーて、ボーゲンダッツの何奢って貰おうかなー。


「ジャンプボールよろしく、負けんなよ、ざーこ」

「うっせ」


試合開始直前、回ってきたボールを渡した私はニヤついて見せた。

翔はフンと視線を逸らすと審判の先生にボールを投げて渡した。

ーーわかりやすく機嫌悪いじゃん、可愛い♡

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