第2話「絵描きの青年」

階段で絵の具で汚れたカーディガンを着た青年と階段で会った。

ーーじぃと見られてる気がする…。

「もしかして、上の階に越してくる人ですかっ!?」

 そぉ、だけど?

ーーぅわっ、何?

両手をわしっと掴まれて、ぶんぶん振られる。

「わあぁ!隣人さんだぁ!お祝いしなきゃ!!」

ーーすごく嬉しそう、笑顔から花が舞ってる

…わかったから、手を離して欲しい。

「とりあえず、俺の部屋に来てください。3階です!」

ーー手を離してくれない…。

もう仕方ない、大人しく手を引かれておこう。

「どうぞ。」

ーー画家なんだ、絵がたくさん。

ん?この描き描けの絵は?

「お好きなんですか?」

 …まぁ。

「好きなものは? 

俺は風景を描くのが好きです。あまり認められないですけど…。」

 …肖像画かな。

「ショウゾウガ?どんなところが好きですか?俺は空気感を出すのが好きです。」

ーーどこだろう?

 …綺麗な人間が描かれてる所。

ーーぁ、描きかけ絵。やっぱり気になる…。

 教えようか?

「え!?いいんですかぁ!!

まだ、名前言ってなかったですね。俺は、ニラァジュ・トロワです。」

 モア・リシャール。

「モアさん!これから、よろしくお願いします!」

 昔からここに?

「ソレイュがお店を開いた時からです。幼馴染なんですよぉ!」

 へぇ、いつから絵を?

「?…もう10年にくらいなりますかね…。」

ーー年数以上の描き込み。

10年では出せないよ…。

 この絵はもう少しで完成?次は?

ーー次が少し楽しみ。

「…次は…ぁ…その、モアさんを描きたいです!!お願いしても…ぃいですか?!」

ーー…⁇ えぇ⁈次も風景を描くと思ってたのに‼︎

「…それで出来上がったら。…もらってください!」

ーーがっかりしないか、ちょっと心配。

「…駄目…ですか?」

 いいよ。

「わぁい!やったぁ!俺、頑張りますね!」

 あぁ、期待してる。


ーーぁ、綺麗な絵。

「…コレですか?」

 ん?あぁ。

「……気に入ったのなら、あげます。」

 いいの?

「俺のに足を止めてくれた人のイマジィアなんですが。

その人もモアさんが、持っていてくれた方が喜ぶと思うので。」

 ありがとう。

「コレが好きなら、きっとコレも面白いですよ。

ソノ人からお借りしてるんですが、ほぼ永久に貸してくれるそうなので、貸しますよ。」

 ありがとう。 

「俺は、読み終わったので感想教えてくださいね。」

 わかった。

ーー彼は、しゃいでよく話す。

好きなこと、感動した事、お気に入りのお店の事。

苦手なこと、落胆した事、恐かった事。

そのたびに相槌を打つ。

「モアさんは何色が好きですか?」

 …サファイアとかは好きかな。

「好きな食べ物は?」

 …んん、ショコラかな?

ーーなんで好きな食べ物?

食べ物の好みを訊かれても、わからない。

でも、ショコラって言っておけばとりあえずは大丈夫なはず。

「好きな動物はなんですか?」

ーー動物?

強いて、言うなら猫かな?

下の階の飼い猫がやたら懐いてた。 

 …猫かな。 

「ネコ?」

 …にゃあにゃあ鳴く奴。

「あぁ!アノ、フワフワの!

好きな季節は?」

 …冬かな。雪がきれい。

ーー街に積もった雪は美しい。

葉が落ちた木に雪が積もった景色もまるで、白い花が咲いたようで美しい。

「寒いの強いんですか??」

 あぁ。

「羨ましいです! 

俺、寒いの駄目で…。」

「…何かを奏でる事はできますか?」

ーー何故?楽器?

 ピアノとヴァイオリンが人並みにできるよ。

「すごい!!聞いてみたい!!いつか聞かせてください!!」

 じゃあ、ヴァイオリンが手に入ったら…。

「楽しみです!!…あ!ちょっとのつもりが、だいぶ呼び止めてしまって!

すいません…。嬉しくて…つい、興奮しちゃいました…。」

 別にいいよ。

ーーやっと解放される‼︎

 じゃあ、今のが仕上がったら、また。

「はい!お部屋に伺います!!」

 あぁ。夕刻に。

「ぁ!コレ、忘れないでくださいね!」

 ありがとう。


ーー静かな階段、…ほっとする。

水が配管を通る音しかしない。

窓から綺麗な月灯りがさしている。

でも、ぼやっとしてる

暗い赤い空に三日月。

そっか、あの猫いないんだっけ。

ーー部屋に入ると、更に静か。

真っ暗でがらんとした部屋。

とりあえず、寝てる間に日に当たりたくないし。

カーテン閉めよう。

もう1枚布が欲しいけど…今は、これで我慢。

目が慣れて来た…けどまだ、よく見えてない気がする。

なんだかはっきり見えない…何故?

前の住人がベッドを置いて、引っ越してくれてて助かった…。

なんか、気付いたら知らないとこにいて、知らない人に会って、紅茶を出されて味がしなくて…。

…ん?

ーー味がしない⁈

えぇぇ‼︎

…味がしない‼︎

じゃあ、あの甘く、奥深く、快美な、あの味がないぃ⁈

…ぁあぁ、もう嫌だ。 

1番の楽しみなのに…‼︎

…似てるけど、違うところにどうやら迷い込んだらしい。

…最っ悪、面倒くさいな…。

「狩り」はとりあえず控えよう…。

味がしないんじゃ、意味がない。

ここはきっとつまらない。

勝手がまだわからないし、とても窮屈に感じる。

味も香りもないし…。

今までのように面白いことを見つけれるだろうか…?



ーー「あいつ」もいないし…。


ーー孤独だ…。

ーーどうしてだろう。

孤独には慣れてるはずなのに…。

ーー暗い。

闇も慣れてるはずなのに…。

ーー寂しい…。

ーー辛い…。

ーー……。

ーー…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る