第38話 3人での勉強会

時雨は自分の部屋で荷物を置いてから私の部屋に来る。今は紗理奈と2人きりの状況だ。


「紗理奈はどこが分からないの?」

「えーっと、ここっ!」

紗理奈は教科書の分からない場所を開いてこちらへ見せてきた。


「こんなところで躓いてたの!?」

「こんなところって酷くない!?」

紗理奈が私に見せてきたのは数学の教科書の18ページだった。

ここやったの4月の終わり頃だった気がするんだけど……。


「初歩から丁寧に教えて欲しい?」

「うん、おねがーい」

「まず、ここはね……」




「少し遅くなってしまいました」

用意を終えた時雨が部屋に入ってきた。

「うわーん時雨ちゃーん、分かんないよーっ」

「うわぁっ」

紗理奈が部屋に入ってきた時雨に勢いよく抱き付いた。

ちょっと羨ましい。私もこんなことやりたい。


「いきなり抱き付かれたらびっくりするじゃないですか」

「結月にこんなことされたりしないの?」

「しませんよ。そもそも私たちはそんな関係ではありません」

「ええー、なにそれつまんないーっ」

「私はただ西園寺さんに雇われているだけですからね」

「西園寺さんに? ……結月のお父さんじゃなくて?」

「……」


 時雨が思わず口走ってしまった。

時雨は一瞬やってしまったという表情を見せたが即座に平静を取り戻して見せた。


 別に私が時雨を雇っているわけではないが、私に雇われているという発言は紗理奈の脳内では主従関係の恋愛と勝手に変換されるだろう。

誰にも明かしたくない。私だけの秘密にしたい。

私はその一心で誤魔化しを始める。


「うん、雇ってるのは私のお父さんだよ。時雨をスカウトしたのは私だけどね」

「……そうでした。今のは誤解を生む発言でしたね。すみません」


 時雨も私の意を汲んで話を合わせてくれた。

私たちは今、最高に通じ合ってるー!!


「そんなことより勉強するよー。私が丁寧に説明してあげるから、よく聞いててね」

「はーい」

「私も隣で聞いてますね」




「次数ってなんだっけ?」

「伊藤さんは次数も覚えてないんですね……」

「そんな呆れた目で私を見ないで(;_;)」


「うおーーーっ、やっと解けたーー!」

「成長してますね」

「これなら平均は取れそうかな」




 ふとスマホを確認すると、既に7時を過ぎていることに気づいた。

部屋は日光が眩しくないようにカーテンを閉めていたので外が暗くなっているのが見えなかった。


「もう7時みたいだよ」

「早いね。まだ1時間くらいしか経ってないと思ってた」

「今日はもうお開きですかね」


 私は時雨と2人で紗理奈を門まで送ることにした。


「今日はほんとにありがとね」

「いいよ、友達なんだから。どんどん頼ってね」

「私はこんなにいい友達を持って、幸せ者だよ」

「そう思ってくれてるなら嬉しいなー」


「素敵な仲ですね」

「時雨ちゃんは結月ともっと素敵な仲になっちゃうんじゃない?」

「私はただの雇われの身なのでそれは断じてありません」

「そうかな。お似合いだと思うけどね」

「釣り合いますかね」

「釣り合わなくても今より良い関係になれるなら全然いいと思うけどね」


「それじゃ、またねー」

「さようなら」

「ばいばーい」







「あの2人、ほんとに付き合ってないのかな?」











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