第5話 岩永さんの料理

~午後7時~

私の部屋のドアがコンコンと鳴った。

「どうぞ」

西園寺さんがやっていたように対応する。


「時雨ちゃん、夕食の用意が出来たよ」

「では、お嬢様の部屋に移動しておきますね」

「私の料理、楽しみにしといてね」

「はい」


 もうすぐ夕食なので西園寺さんの部屋に向かう。

「どうぞ~」

「失礼します」


 西園寺さんの部屋にあった丸いおしゃれなテーブルと2つの椅子。

こういうテーブルで食事をするイメージはあまり無いが、部屋から出て移動する必要も無く、広い家ではこちらの方が良いのだろう。


 コンコンと向こう側からドアを鳴らす人が現れた。岩永さんが料理を持って来たのだろう。

「どうぞ」

「失礼しまーす」


 岩永さんが押してきたワゴンには、美味しそうな料理が乗っていた。


「普段はメイド長の私が料理することって少ないんだけど、今日は時雨ちゃんが居るから特別に、ねっ」

そう言って岩永さんが私に向かってウインクしてきた。


 部屋の真っ白な丸いテーブルに2人分の料理が並べられた。

「時雨ちゃんの好みが分からないからとりあえず誰でも食べられそうなハンバーグにしてみた」


「いただきます」

「いただきます」


 まずは岩永さんが自信を持っているであろうハンバーグから食べていく。

ハンバーグを口に入れた瞬間、口の中で溶けるように感じた。いや、感じただけではない、本当に口の中で溶けている。

ハンバーグが溶けると同時に溢れ出す肉汁。

まるで高級料理店のハンバーグを食べているようだ。


「ん~、美味しいです。こんなに美味しいハンバーグは初めて食べました」

「そうかそうか、そう言ってくれると嬉しいよ。時雨ちゃんもこれくらい美味しい料理が出来るようになって初めて一人前のメイドになれると思うよ」

「長い道のりになりそうですね」

「私が教えるからすぐだよ」


「随分自信があるんですね。その自信は一体どこからやって来るんですか?」

「私はこれまで何度もメイドの教育係を担当してきたからね。お嬢様もそれを知ってるから私に任せたんですよね?」

「うん、岩永さんが一番信頼できるからね」

「ありがたいお言葉です」


「それでは、2人は料理をお楽しみください。また時間が経ったらメイドが参りますので」

「ありがと~」

「ありがとうございます」


「岩永さんの料理食べるの久しぶりだな~」

「メイド長は忙しいのに時間を割いてくれたことに感謝しないとですね」

「ほんとにね」




「はあ~、美味しかった~」

「最高の料理でした」


 その後しばらくして別のメイドさんが食器を下げに来てくれた。

西園寺さんは毎日こんな生活をしているのだと思うと、私がメイドとしてその生活のサポートをできる気がしない。

岩永さんからメイドのノウハウを教われば、この不安も無くなるのだろうか。

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