第4話 結月の母親

 岩永さんと一旦別れを告げ、また先ほどのように西園寺さんに先導されながら廊下を歩く。

何度かここで働いている人達と挨拶しながらすれ違う。向こうは足を止めているけど。


 西園寺さんが1つのドアの前で立ち止まり、ドアの方を向いた。

「ここにお嬢様の母親が?」

「うん」


「紹介したい人が居るんだけどー」

ドアをノックしながら西園寺さんが向こう側へ向かって語りかける。

かなり砕けた口調だ。

こういう家の人って家でも親に敬語でお父様とかお母様とか言っているイメージだったが西園寺さんの家庭はそうではないようだ。


「入っていいよ~」

ドアの向こうから砕けた口調の優しい声で返答があった。

声からしておそらく西園寺さんの母親なのだろう。

この家族、西園寺さんが言っていた通り関係はとても良好なようだ。


「失礼します」

「紹介したい人っていうのはその子?」

「うん」


「初めまして、西園寺結月さんの同級生の星宮時雨です」

「こちらこそ初めまして、私は西園寺光莉さいおんじひかり。結月の母親やってます。いつも結月がお世話になっているみたいですね」

「いえいえ、こちらこそ」


 西園寺さんの母親、光莉さんは20代後半くらいに見える若々しい人だった。


「早速本題に入るんだけど、この子を私の専属メイドとして雇いたいんだけど」

「うん、良いと思う」


 まさかの二つ返事でOKされてしまった。

大企業の社長の妻ははやっぱり庶民とは感覚が違いすぎてついていけない。


「メイドの仕事とかは岩永さんが教えてくれることになってるから」

「岩永さんってああ見えてもメイドとしてはとても優秀だからね。時雨ちゃんも存分に信頼して良いと思います」

「はい」


「じゃあね~」

「失礼します」

部屋を出る時、軽く一礼しながら両手でドアを閉めて出てきた。

マナーとかあんまりよく分かってないけどこれで失礼は無いと思う。多分。


「本当に優しい人でしたね」

「ね、言ったでしょ」

「それでも先に伝えておくのは大事だと思いますよ」

「善処します」

「それ言う人は大体直さないんですよ」


「お父さんは帰ってきた後にでも紹介するね」

「はい」


「そうそう、学校では私のメイドってこと秘密にしといてね」

「知られたらまずい理由でも?」

「別にそういう訳じゃないんだけど、この関係は私達だけの物にしたいっていうか……まあそんな感じかな」

「はい、口外しないようにしておきまふ」

「ふふっ」

「すみません」

「噛んじゃう時雨も可愛い~」


 こういうことは、他の人間から言われたらイラっと来るのだろうが、西園寺さんの悪意を含んでいない純粋な可愛いという気持ちが伝わってくる。


「もうやることやったし、部屋で色々話しよ」

「はい、仰せのままに」

「何その取って付けたような敬語~」


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