第2話 契約

~同日 西園寺家~

「西園寺さんの家、やっぱり広いですね。でも庭が広いのは移動が大変そうです」

「そう? 別に不便でもないけど」

「昔からだから、慣れてるんですかね。私は結構感じました」

「星宮さんもそのうち慣れると思うよ」


「星宮さんの部屋はここで良いかな? 私の部屋の隣だけど」

「むしろ近いのがありがたいです。遠いと寂しいですからね」

「そう、それは良かった」


「あっ、そうだ」

「何ですか?」

時雨に渡し忘れていた1枚の紙を渡す。雇う時の契約書的なやつだ。


「OKなら適当にサインしといて。一応ちゃんと目を通してからね」

「はい」





 自分の部屋に戻って5分後、コンコンと部屋のドアが鳴らされた。叩き方や叩く強さからして、メイド長ではない。おそらく時雨なのだろう。

「どうぞー」

「失礼します」

「さっきの契約書の件かな?」


「ここの月収40万ってところですが……」

「足りなかった?」

「高すぎませんか?」

「そう? 私の専属メイドなんだからそれくらい普通でしょ。むしろ少ないと思ってたんだけど」

「金銭感覚の違い……ですね」

「そうだね」


「他に気になるところは無かった?」

「はい、何もありませんでした。サインして持ってきますね」

「うん、よろしく」


 1分ほど経つと、再びドアが鳴った。今もさっきも回数は3回だった。

「失礼します」

「毎回ノックして、しかも3回。律儀だね」


「サインしてきました」

「はい、これで星宮さんは正式に私の専属メイドになったわけだね」

「これから頑張りますね」

「うん、期待してる」


「後で、メイド長の岩永菜々美いわながななみさんと会ってもらおうかな」

「厳しい人だったりするんですか?」

「めっちゃ能天気」

「メイド長がそれで大丈夫なんですか?」

「仕事はきっちりしてるから全然大丈夫」


「ところで、西園寺さんのことはどう呼んだらいいですか?」

「どういうこと?」

「メイドって、○○様とか、お嬢様とか、ご主人様とか、色々呼び方あるじゃないですか。私はどんな風に呼べば良いのかなと思いまして……」


「うーん、岩永さんにはお嬢様って呼ばれてるけど。同級生なのにお嬢様って何か変じゃない?」

「でも私、西園寺さんの専属メイドですよ?」

「それもそっか。まあ自由に呼んでくれていいから」

「はい、


 どうやら時雨は私をお嬢様と呼ぶことに決めたようだ。

「そう呼ぶのはプライベートだけでね。私もあなたの事、下の名前で呼んでもいい?」

「はい、お好きにどうぞ」

「じゃあ、改めてよろしくね、私の可愛いメイドさん」

「はい、私の優しいお嬢様」



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