3

 キューは岩場に体をぶつけたり、こすりつけたりして傷を作りました。アイルをはじめ、グーやテーなど、仲間たちは心配しました。


「やめなよ。人間と仲良くなりたいからって、そこまでしなくてもいいんじゃないの」


「そうだよ。人間をけがさせないようにすれば大丈夫だと思うよ」


キューは聞く耳を持ちません。


「じゃあどうやってニンゲンたちと遊ぶの。ぼくわからないよ。ぼくたちが近づいていっても逃げるだけ。ニンゲンたちのほうから来てくれないとだめ」


「でも、わざと傷をつけなくてもいいじゃない」


 そのうちキューは仲間から外されました。キューは構うことなく岩に体当たりし続けました。キューの頭はぼーっとしてきました。


 ある日の夜、キューは砂浜に打ち上げられました。キューは死にそうになっていました。しっぽを動かす元気もありません。口からは変な味のべちゃべちゃしたものも出てきました。ぶるぶる震えて気を失いそうになりながらふと上を見ると、真っ暗な空一面に星が輝いていました。その美しいこと。キューはいつかどこかで見た海の宝石のことを思い出しました。


 やがて夜が明けて朝になりました。ぼんやりするキューの前に、ひとりのニンゲンが近づいてきました。どうやら子どものようでした。


「いるかさん、けがしてるの?」


 キューは返事をしようとしました。せっかくニンゲンがやってきてくれたのです。この機会を無駄にしてはいけないと思いました。ですが、頭の上の穴からは「ぷぅ」という音しか出せませんでした。ニンゲンはきょとんとしました。


 しばらくキューとニンゲンはお互いを見つめあっていました。何かがわかったかもしれませんが、わからないままだったかもしれません。


「いたいの?」


 ニンゲンは小さな手をキューの頭に乗せました。それがちょうど傷口のところだったので、キューは「ぎゃあ」と叫びました。ニンゲンはびっくりして泣きそうな顔になりました。キューは痛くて目をつむっていましたが、気づいたときにはもうニンゲンはどこかへ行ってしまっていました。キューは再びひとりぼっちになりました。


「……あらまあ、あのイルカをさわっちゃったの? だめでしょ。どんなばい菌がついてるかわからないんだから」


遠くで誰かの声がしました。

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