第3話 ステータス


「もう大丈夫そうだね」

「……すみません」


 フェイトさんの前でみっともなく泣いてしまった。


 涙を拭い、タブレット端末を持つ。


 そこにはずらっと、無数の項目が羅列されていた。


「ゲームはやったことあるよね」

「小さいころに、少し」

「それなら大丈夫そうだね。今から幸助くんのステータスを決める。例えば、運動能力が優れているとか、魔法が使える、とかね」


 魔法?


「おっと、言い忘れていた。キミが転生するのは地球とは別の、いわゆるファンタジーの世界さ。剣と魔法の世界、空想上の生物が闊歩していたりする、心躍る世界だよ!」


 そう言ってフェイトさんがタブレットを弄ると、別の画面に切り替わった。


 雄大な自然。


 溶岩の中で眠るドラゴン。


 天に届きそうなほど背の高い大樹。


 広大な海の上に浮かぶ空飛ぶ島。


 次々と切り替わる映像。


 数分も見れば、俺はすっかりその世界の虜になっていた。


「先にこっちを見せればよかったね」

「……凄い世界ですね」

「そうでしょ、そうでしょ‼ この世界の名前は【ファンタジア】。ボクが管理する中でも、一番お気に入りの世界だよ!」


 異世界ファンタジアを自慢するフェイトさんは、外見相応の子供のようにはしゃいでいた。


「今、見てもらったように、ファンタジアはアニメやゲーム、ライトノベルに描かれているような異世界だよ」

「異世界……」

「そう、異世界。ファンタジアでは剣を使ってモンスターと戦えるし、強力な魔法を使えるし、ダンジョンを攻略して財宝を手に入れたり、前人未到の秘境を探索したりもできる」


 フェイトさんのPRは魅力的で、聞けば聞くほどファンタジアの世界に引き込まれていく。


 話が終わる頃には、俺はすっかり転生する気になっていた。


「ごめんごめん。つい熱く語っちゃったね。さあ、キミのステータスを決めようか。まずはここをタップして」

「これ、ですか?」


 フェイトさんが指さす項目をタップすると別の項目が表示される。



【薄井幸助】

転生pt:10000


「この転生ptポイントって何ですか?」

「それは名前の通り、転生時のステータス編成に使うポイントだよ。これを使って能力値を上げたり、スキルを取得したりするんだ。まずは試しに、これを入手してみようか」



 【転生パック(10pt)】←《セール!》



 まるでゲームのチュートリアルを受けているみたいだ。


 露骨な《セール!》の文字も、それに拍車をかける。


 取り敢えず、フェイトさんに促されるまま項目をタップする。


 すると、ガーデンテーブルの上に光が収束し始めた。


 そして光が収まると――


「俺のリュックサック?」

「そう! 使い慣れた物の方がいいかなって思ってね! ちゃんと修繕もしてあるし、前よりも丈夫になっているよ!」


 見覚えのあるリュックサックは、俺が愛用していたものだった。


 6年近く使い続けているリュックなだけあって草臥れていたはずだが、フェイトさんの言ったように新品同様に生まれ変わっている。


「勿論、これだけじゃないよ? このリュックの中には、色々と便利なアイテムを詰めておいた。それと、キミにスキルも付与しておいたしね!」

「スキル?」


 フェイトさん曰く、スキルとは個人の能力をファンタジアの摂理に則って体系化したものらしい。


 天性のものもあれば、レベルが上がったり技能を磨くことで身に着いたりもするみたいだ。


「【転生パック】で付与したスキルは【鑑定】【言語理解】【アイテムボックス】【経験値取得量up】だよ! そして、幸助くんのリュックサックには【不壊属性】と【マジックバック】の機能も付与しておいた。簡単に言うと、どれだけ長い間使っても壊れなくて、収納量もどーんと増えたリュックサックってことだね!」


 【マジックバック】になったことで、リュックサックの容量はちょっとした倉庫レベルになったそうだ。


 そんなものを背負ったら押しつぶされそうと思ったが、リュックの中に入っているものの重量は感じないらしい。


 流石、魔法だ。


「他にも水や携行食なんかも入っているよ。スキルの【アイテムボックス】も似たような効果だけど、便利だから上手に使い分けてね!」

「ありがとうございます」


 フェイトさんに促されてマジックバックの中を覗いてみると、そこには昏い空間が広がっていた。


 けれど、不思議と中に何があるのか分かる。


「スマホまである……」

「それも色々と機能を付けておいたよ。ささ、次に行ってみよう!」


 フェイトさんに急かされ、タブレットに視線を戻す。


 次に開いたのは能力値の項目。



【薄井幸助】

転生pt:9990

レベル:1

職業:――

体力:100

精神力:150

持久力:50

筋力:30

技量:50

知力:70

信仰:30

運気:100


「例えばこの『筋力値』だけど、この数値を上げると力が強くなる。そして、ファンタジアでは敵を倒したりするとレベルが上がって、それに伴ってステータスも上昇する。初期の能力値がベースになるから、レベル1の時の値が大きいほどレベルアップ時の上昇幅も高くなるよ」


 つまり、能力値は成長率でもあるっていうことなのか。


 あれ?


 この項目は――


「それと、1つ注意。能力値やスキルは、一度設定したら振り分けし直せないから――」

「――えっ?」

「え? って、ああーーーっ‼」


 フェイトさんの話が終わる前に、俺は項目の最下位にある【運気】の項目を最大値まで上昇させていた。



【薄井幸助】

転生pt:90

レベル:1


~~~~~~

運気:9999

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る