第37話 作戦決行

「――おらよ、ここに置けばいいのかい!?」

「あ、はい。ありがとうございます……これだけあれば十分かな」

「たくっ、こんなもんどうする気だい?まさか皆一緒に風呂に入ろうと言い出すつもりじゃないだろうね」



教会内の敷地にバルはレアが作り出した「浴槽」を運び込み、大量の浴槽が教会の庭に置かれた。浴槽以外にも大きな桶や壺などが置かれており、それらにレアは集めてきた道具を一つずつ置いていく。



「よし、これで準備できた!!これから聖水を作るので皆さんも準備してください!!」

「はい!!勇者様!!」

「いつでも大丈夫です!!」

「……本当にこんなもんを使うのかい?」



庭に集めて置いた女性陣はレア達が用意した容器の前で待機し、彼女達の手には貯水タンクがあった。これからレアは文字変換の能力で聖水を作り出し、それらを彼女達が持っている貯水タンクに補充させる。



「じゃあ、行きますよ!!」

「うわっ!?ひ、光った!?」

「きゃあっ!?」

「す、凄い!!これが勇者様の力!?」



レアは次々と浴槽や壺の中に置かれた道具に解析を発動させ、文字変換の能力で「聖水」へと変貌させる。液体の類を生み出す時は事前に容器を入れておかないとこぼれて落ちてしまうため、事前に浴槽や壺を用意する必要があった。


大量の聖水を一気に作り出し、それらを女性陣に持たせていた貯水タンクに補充させる。その光景を神父は信じられない表情で見守る。



「ま、まさか本当に聖水を生み出すなんて……ああ、やはりあの方こそこの街を救う救世主、陽光神様が送られた御使い様だったのじゃ!!」

「確かに凄いけど……いったいこんな物を何に使うんだい?」



バルはレアの能力を見て彼が異界人であることは信じるが、いまいち彼の行動の意図が読めなかった。せっかく聖水を大量に生み出したのに見たこともない道具に補充するレアに疑問を抱く。


全ての容器に聖水を満たすとレアは後のことは女性陣に任せ、今度はリリスの元へ向かう。彼女には重要な役割を与え、今回の作戦はリリスが勝利の鍵を握っているといっても過言ではない。



「リリス!!そっちの準備はどう!?」

「もう少し時間をください!!思ったよりも操作が複雑で……うわっ!?」



教会の外ではレアが作り出したにリリスが乗り込み、自動車を簡単に運転していた彼女さえも操作に苦戦していた。それでもこの役目はリリスにしか任せられず、レアは彼女を信じて次の準備に取り掛かる。



「皆さん!!タンクに聖水を入れ終えたら今度は例の物に入れてください!!」

「例の物って……あのヘンテコな玩具かい?」

「玩具じゃありません!!あれを使いこなせれば皆を救えるはずです!!」



レアの言葉にバルは苦い表情を浮かべ、彼女はこれから女性陣に渡す物を知っている。レアが子供の頃によく遊んでいた玩具の高性能版を作り出し、それを女性陣に渡して聖水を補充させていく。



「使い方は簡単ですからすぐに覚えられます。これを操られている人たち浴びせれば正気に戻せるはずです」

「こ、こんな物で本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫です!!浴びせるだけでいいですから!!」

「皆の物、レア殿の言葉を信じよう!!儂も一緒に戦うぞ!!」

「神父様!?」



神父はレアを信じて自分も女性陣と共に戦う準備を行う。バルもここまで来た以上はレアを信じるしかなく、彼の肩に手を置いた。



「ここはあたしに任せな。あんたにはまだやるべき事があるんだろう?」

「バルさん……いいんですか?」

「いいからさっさと行きな、戻ってくるまでに全ての準備は終わらせておくよ」

「……お願いします!!」



レアはバルに後のことは任せて外に出ると、教会の前に設置されている石像に視線を向ける。石像には反響石が握りしめられており、それを見てレアは最後の準備に取り掛かる。



(本当にこの世界に神様がいるとしたら……どうか力を貸してください)



作戦が成功することを祈りながらレアは解析を発動させ、陽光神の石像を調べた――






――翌日の朝、夜明けを迎えたばかりの時間帯にレア達は行動を開始した。レアは皆と共に街の北側へと向かい、火竜の攻撃から逃れた建造物群に足を踏み入れる。するとカトレアの魅了の術で操られた男達を発見した



「お〜お〜予想以上の数だね。こいつは苦労しそうだ」

「流石に多いな……でも、逆に言えば味方を増やすチャンスだ」

「レアさん、こっちは準備万端ですよ。何時でも出せます!!」



カトレアは術で虜にした男達を街中に巡回させて見張りを行わせ、彼等は近づいてくるレア達を見ると血相を変えて叫び声を上げる。



「があああっ!!」

「うぎぃいいっ!!」

「ぐぎゃあっ!!」



まるで魔物の様な雄たけびを上げながら男達はレア達の元に駆けつけ、その手には凶器が握りしめられていた。少し前のレアならば怖気づいていたかもしれないが、これまで様々な魔物と戦ってきたレアにとっては恐れるに足りない。冷静にレアはリリスが運転する乗り物の上から指示を出す。



「皆さん!!練習通りに狙いを定めて撃ってください!!」

「は、はい!!」

「お母さん、行くよ!!」

「ええ、やるわよ!!」



迫りくる男達に対して同行していた女性陣が取り出したのは「水鉄砲」だった。レアが文字変換の能力で造り出した高性能の水鉄砲を彼女達は装備し、中身はただの水ではなく聖水が入っている。


レアの作戦は聖水入りの水鉄砲を女性陣に装備させ、彼女達にカトレアの術で正気を失った男達の相手をしてもらうのが作戦の第一段階だった。ただの水鉄砲とはいえ、性能が良ければ10メートル以上遠くにいる的にも浴びせることはできる。本物の銃と違って子供でも簡単に扱えるため、女性陣は躊躇なく撃ち込む。



「「「やああっ!!」」」

「うぷぅっ!?」

「げふっ!?」

「がはぁっ!?」



女性陣が次々と水鉄砲を放射すると、聖水を浴びた男達は苦しみ悶えて倒れ込む。やがて正気を取り戻したのか目を覚まし、呆然と周囲を見渡す。



「あ、あれ?ここはどこだ?」

「どうして俺はこんなところに……はっくしょんっ!!」

「い、いったい何が……」

「……どうやら正気に戻ったようだね」

「よし、作戦成功!!」



倒れた男達が目を覚ましたのを見てレアは作戦が上手く成功したことに心の中で安堵するが、喜んでばかりはいられなかった。街道の奥から異変に気付いて大量の男達が押し寄せる。




――がぁあああああっ!!




街道から一気に数十人の男達が駆けつけ、その中には兵士の格好をした者達も含まれていた。彼等の中には全身を鎧で覆った物や大きな盾を持つ者もおり、そんな相手にはただの水鉄砲は通じない。それを予測してレアはリリスに声をかける。



「リリス!!出番だよ!!」

「了解しました!!バッチリ操作は把握してますよ!!レアさんとバルさんも手伝ってください!!」

「よし、やっと出番だねっ!!」



リリスが乗り込んだ乗り物の正体は「消防車」であり、昨日の時点でレアが文字変換の能力で作り出していた。消防車のタンクには当然ながら聖水を補充しており、ホースを手にしたバルが迫りくる男達に目掛けて放射を行う。



「喰らいな!!」

「「「ぶほぉおおおっ!?」」」



水鉄砲の比ではない勢いで聖水が放出され、それらを浴びた兵士達は吹き飛ぶ。これだけの威力ならば盾や鎧で身を守っていようと防げず、聖水を浴びた者達は正気を取り戻していく。

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