第20話 リリスの約束

「どうどうっ……よし、お前達の名前はポチとジョンだ」

「「ヒヒ~ンッ」」

「何で犬みたいな名前を付けてるんですか。それにその馬達はギルドからの借りてるだけですからね」

「いいじゃん別に……じゃあ、運転はマカセタヨ」



リリスに運転を頼むとレアは馬車に乗り込み、荷物をおいて一休みしようとした。だが、慌ててリリスが乗り込んで尋ねてきた。



「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!何で普通に説明も無しに乗ってるんですか!!ちゃんとこの馬車の事を説明してくださいよ!?」

「えっ……馬が引く車でしょ?」

「誰が馬車の意味の説明をしろと言ったんですかっ!!そもそもあんな小さい金属の筒から木造製の馬車なんて錬金術師でも作れませんよ!!」



適当に誤魔化そうとしたが流石にリリスも納得できない様子であり、流石に誤魔化しきれないと判断したレアは彼女に能力の秘密を明かすことにした。



「実は……俺の能力は物体を別の物体に変換させる能力だけど、実は少し特別なんだ」

「それは見れば分かりますよ。馬車だけならともかく、生物を作り出す魔法なんて聞いた事がありません。少なくとも私が知っている錬金術師の職業の人間でも同じことは出来ませんからね」



リリスによれば錬金術師の扱う「物質変換」と呼ばれる能力がレアの使用する能力と酷似しているらしいが、それでも彼女の知識では物質変換の能力は基となった物体の同じ重量の物にしか変えられないと聞いている。


しかし、レアの場合は小さな弾丸(リリスからすれば金属製の筒にしか見えない)を大人数が乗れる程の馬車に変化させており、明らかに一流の錬金術師でも真似できない芸当だった。ここで下手な嘘を吐いたらリリスに怪しまれると判断したレアは正直に話す。



「俺の能力は物質変換とは少し違った能力なんだ。質量を無視して色々な物を作り出せるけど、基となる物体によって作り出せる物が限定されるんだ。だから本当に何でも作り出せる能力じゃない」

「限定?条件とかあるんですか?」

「うん、詳しく説明すると長くなるけど……ちなみに錬金術師は俺と同じことはできないの?」

「絶対に無理ですね。私の知っている錬金術師は金属は別の金属に変換するぐらいしかできません。レアさんのように色々な物を作り出せる人間が居たら噂にならないはずがありません」



レアの説明にリリスは矛盾が無い事を認め、それ以上の追及はしなかった。実際の所、レアが何者であろうと現在の彼女の命は彼に託していると言っても過言ではない状況であり、ここでレアの機嫌を損ねる訳には行かなかった。



「分かりました。今はその説明で納得しましょう……だけど、その能力を使えば無制限に食べ物や飲み水を確保できるんですか?」

「代わりとなる道具……いや、この場合は材料かな?それは大丈夫だと思うよ」

「そうですか、分かりました。でもレアさんの能力は他の人には内緒にした方がいいと思いますよ。もしも大勢の人間に知られたら、絶対にレアさんを利用しようとする輩も現れるでしょうからね」

「うん、分かってる。だからリリスにも他の人には秘密にして欲しい……もしも誰かに話したら、リリスが寝ている時に顔に蜘蛛を乗せるからね」

「止めてくださいよそんな地味な嫌がらせっ!?私、虫は大の苦手なんですからっ!!」

「ちょっと待って!!蜘蛛は節足動物だから虫じゃないよ!!」

「いや、突っ込むところはそこですか!?」



深刻な雰囲気になってきたのでレアは適当に冗談を交えて場を和ませようとすると、リリスは決して他の人間に彼の能力を喋らない事を約束する。



「分かりました。そういう事ならレアさんの能力は誰にも喋りません。一応は命の恩人ですし、それに私一人だと草原を抜ける事なんて出来ませんからね」

「ありがとう。魔物が現れた時は俺が何とかするから安心して」

「それは心強いですね。そういえば気になっていたんですけど、その武器はもしかして魔銃ですか?」

「魔銃?」



レアが装着しているホルスターに収納された拳銃をリリスが指差し、彼女の言葉を聞いたレアはこの世界にも拳銃のような武器が存在するのかと驚く。リリスの前でレアは拳銃を抜いて弾丸を抜き取った状態で渡すと、それを見たリリスは興奮する。



「あ、やっぱり魔銃じゃないですか!!少し変わった形をしていますけど、中々に格好いいですね!!」

「魔銃……?」

「ああ、そういえば記憶喪失と言ってましたね。魔銃というのは銃士ガンマンの職業の人間だけが扱える武器です。狩人や弓兵の職業の上級職ですね」

「上級職?」

「職業は一定のレベルを迎えると上の段階の職業に転職出来ます。私の場合は治癒魔導士の上級職の医療魔導士になれる可能性があります。こちらの職業になれば回復魔法で病気の治療も行えるようになるんです」

「へえ……」



上級職という新しい単語にレナは感心を抱くが、自分の職業が「無し」だと思い出してため息を吐く。

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