追放されたけど別に復讐なんて考えてないのに勝手に国が自滅していく!?

カタナヅキ

プロローグ

第1話 巻き込まれ召喚

――この物語の主人公である「霧崎レア」は中学三年生であり、彼は間もなく高校受験を迎えようとしているため、学校が終了次第に家に戻って勉学に励むつもりだった。



「ううっ……寒い」



レアは両手をすり合わせながらも横断歩道が赤信号である事に気付いて足を止める。偶然にも近くの高校の生徒達の帰宅時間と重なったらしく、彼よりも1、2才程度年上の高校生の四人組が隣に立ち止まった。



「あ~……疲れた、今日は何処かに寄っていこうぜ?」

「そうだな。久しぶりにファミレスにでも行くか?」

「行く行く~!!」

「あんた達ね、来年に大学受験を控えているのよ?時間が余っているのなら勉学に励みなさいよ」



高校生達の会話から彼等も自分と同様に受験を控えている事を知る。そして横断歩道の信号が青に変わると、レアを先頭に高校生達も横断歩道を歩き始めた。その時に急に車道から法定速度を越えた速度で大型トラックが突っ込んできた。



「お、おい!?あれ、やばくないか!?」

「そこの君!!危ないぞ!!」

「えっ!?」



トラックに気付いた高校生の一人が先に歩いていたレアに声をかけ、ようやくレアはトラックの存在に気付いた時には目前まで迫っていた。もう駄目かと思われた時、高校生達の足元に異変が生じる。



「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「なんだ!?」

「ひゃんっ!?」

「うわぁっ!?」




唐突に地面に「魔法陣」のような紋様が浮き上がった瞬間、魔法陣から発する光によって五人の身体が包み込まれる。レアは奇妙な浮揚感に襲われ、トラックに轢かれる前に五人とも消えてしまった――








――レアが意識を取り戻すと視界に見知らぬ天井が映し出された。慌てて彼は起き上がると、自分の周りに先ほどの高校生達が倒れている事に気付く。彼等も遅れて意識を取り戻し、周囲の変化に戸惑う。




「いてててっ……な、何が起きたんだ?」

「いたたっ……あれ?ここ何処?」

「ど、どうなってるの?」

「君はさっきの……大丈夫かい?」

「あ、はい……」



全員が何が起きているのか理解できない中、唐突に灰色のローブを覆った集団が現れて取り囲む。いきなり現れた謎の男達に女性陣が悲鳴を上げた。



「きゃあぁっ!?」

「な、何よ!?貴方達は誰!?」

「おおっ……やったぞ!!成功した!!」

「まさか古文書に書かれている魔方陣を描いただけでこうも上手く行くとは……」

「しかし……人数がおかしいのではないか?伝承では召喚される勇者は4人だけだと聞いていたが……」



レア達を取り囲んでいるローブを着込んだ集団はお互いに顔を見合わせ、歓喜と困惑が入り混じった表情を浮かべる。その一方で突然現れた男達に対してレアと高校生達は警戒し、不安な表情を浮かべながら男子高生の一人が話しかける。



「貴方達は何者なんですか?ここは何処なんです?何か知っているなら教えてください!!」

「うう、大地君怖いよ」

「落ち着くんだ桃……」



大地と呼ばれた男子高生の隣に先ほど悲鳴をあげた女子高生が腕を組み、彼女の名前は「桃」というらしい。怯える彼女を大地は落ち着かせると、もう一人の男子が苛立った様子で男達に怒鳴り散らす。



「訳が分かんねえ……誰だお前等っ!!まさか俺達を誘拐したのか!?」

「落ち着きなさい、龍太……喧嘩腰は駄目よ」

「美香!!お前はなんでそんなに冷静なんだよ!!」



龍太と呼ばれた男子高生は最後に残った女子高生を「美香」と呼び、苛立つ龍太を美香が宥めて落ち着かせる。龍太は渋々と引き下がると、レア達を取り囲んでいた男達の中から老人が前に出る。



「おおっ!!これが本物の異界人か!!いやはや、失礼しました……わざわざ召喚に答えてくれた皆様に礼を欠いてしまったようだな」



レア達の前に出てきたのは中世の王様を想像させる恰好をした老人が現れ、白い髭を胸元まで伸ばした老人は歩み寄ると頭を下げる。唐突に見知らぬ老人から頭を下げられたレア達は動揺するが、老人は顔を上げると笑顔を浮かべる。



「初めまして異界人の方々、儂の名前はウサンという。このバルカン帝国の皇帝を勤めている者じゃ」

「こ、皇帝?何言ってんだこの爺さん……」

「貴様!!皇帝陛下になんて失礼な態度を!!」



自らを皇帝と名乗る老人にレア達は呆気にとられるが、そんな態度が気に入らなかったのか国王の隣にいる中年の禿げ頭の男性が注意する。



「ちょ、ちょっと待って下さい!!一体何の話をしてるんですか?」

「陛下、どうやら勇者の方達は混乱しているようですねな。ここは某が説明を……」

「おおっ、バルト将軍。では頼んだぞ」

「はっ!!」



中年男性の反対側の位置に立っていた筋骨隆々の大男が皇帝の前に移動し、皇帝から「将軍」と呼ばれた大男はレア達の前で堂々と宣言する。



「某はこの国の将軍を勤めるバルトだ!!君達はこの世界を救い出すために召喚されたのだ!!」

『ええっ!?』



バルトの発言に全員が驚愕し、彼は自分が質問される前に先にレア達に名前を問い質す。



「では詳しい説明を行う前に……皆様の名前を教えて下さらぬか?」

「は、はあ……因幡大地です」

「月島美香です……」

「桃山桃だよ~」

「……金木龍太だ」

「霧崎レア……です」



5人はバルトのあまりの迫力に素直に名前を告げると、バルトは現在の状況を説明する。



「では、早速説明を行いましょう!!この場所は……いや、正確にはこの世界とでも言えばいいのか?ここは貴方達が住んでいた世界ではない!!分かりやすく言えば異世界だ!!」

「はあっ!?」

「ここが……異世界?」



突拍子もないバルトの発言に全員が呆れるが、彼自身が真面目な表情で嘘を吐いている様には見えなかった。逆にそれがレア達を混乱させ、本当に自分達が別の場所に訪れたのかと考えてしまう。



「な、何を言ってんだ馬鹿馬鹿しい……漫画やゲームじゃあるまいし」

「でも……何かおかしいわ」

「確かに……実際、中世の城のような場所に移動しているな」

「それもだけど、私達の身体も少し変じゃない?」

「身体が?」

「おお、どうやらお気付かれたようですな。皆さんの身体の方もあちらの世界からこちらの世界に移動する際、多少の変化が訪れているはずだが……」

「変化って……別に体調は普通だけど……」

「いえ、違うわ。私達、明らかに若返っているわ」

「若返るって……嘘だろ?」



レアを除いた高校生達は自分の身体を確認すると、制服のサイズが合わない事に気付く。特に美香という女性は自分の胸元を確認して眉を顰め、違和感の正体を悟る。



「……今の私達は恐らく中学生、いえ、もしかしたら高校1年生ぐらいの年齢まで身体が若返っているんじゃないかしら?折角成長した私の胸が小さくなってるから……」

「いや、お前の胸は昔から小さいままだろ……あいたっ!?」



茶々をいれた龍太を美香が殴りつけ、レアも自分の服装を確認するが特に服が大きさなったてゃ感じず、違和感を抱いているのは大地達だけで彼自身は特に変化はなかった。だが、彼等の話を聞いたバルトは満足気に頷き、説明を再会する。



「うむ!!異世界から人間が召喚される際、この世界に適応するために身体に異変が起きると古文書に書き込まれていたが、恐らく勇者殿はこの世界に一番適合しやすい時期にまで肉体が変化したのだろう」

「あれ?だけどこの子は何も変わってないよ?」

「え、いや……」



バルトの発言を聞いて桃が不思議そうにレアに振り返り、全員の視線が彼に集中する。レアも身体の変化が起きていないことを認めるしかなかった。



「えっと……そうですね。別に俺は何も変わってませんけど……」

「む?おかしいな……まあ、君の場合は元々こちらの世界に適合しやすい年齢だったのかも知れないな」

「そんな事よりよぉっ!!さっきから気になってたけど、あんた等は俺達の世界のことを知っているのか?」

「うむ!!古文書に全て記されているからな!!」



龍太の質問にバルトは5人が住んでいた世界の事を知っている事を告げ、こちらの世界の名前は「マテラ」と呼ばれ、レア達が元々住んでいた世界の事をバルト達は「テラ」と呼んでいる事が発覚する。この二つの世界は鏡のように相反する存在らしく、テラの世界では「科学」が反映していたが、このマテラの世界で「魔法」と呼ばれる文化が発展している事を説明した。



「我々の世界では魔法によって成り立っているが、古文書によれば勇者殿の世界では魔法の代わりに「科学」と呼ばれる文化が発展しているのだろう?だが、生憎と我々の世界にはその科学とやらは存在しない」

「ほ、本当に魔法という非科学的な文化が存在するんですか?」

「存在する……というより、むしろ我々としては本当にテラでは魔法の文化が存在しないというのが信じられんな」

「嘘……本当に魔法なんて存在するなんて信じられません」

「では、実際に魔法を見てみるかな?」

『えっ?』



魔法が実在することが信じられないレア達の目の前でバルトは両の掌を重ね合わせ、彼等の目の前で一言唱える。



「ファイアボール」

『うわっ!?』



言葉を発した途端、バルトの掌に球体状の炎の塊が誕生した。それを間近で目撃した5人は驚愕し、その反応を見てバルトは自慢げに頷く。



「これが魔法だ。この程度の魔法ならば魔術師でなくともちょっとした道具を利用すれば簡単に扱えますからな。異界人の君達でも魔法を学べばすぐにできるだろう」

「ま、まさか私達も魔法が使えるようになるの!?」

「こちらの世界に召喚された時点で、皆様方はこの世界に適合する存在として認められているはず。ならば魔法など簡単に覚える事ができるはずだ。しっかりと我々が鍛えて皆様を勇者として育て上げよう!!」

「ゆ、勇者?それってどういう意味なんですか?」

「おおっ!!これはすまなかった。まずはそこから説明するべきだったな」



バルト将軍は皇帝に視線を向けると、彼は説明を許可するように頷いたのを確認し、説明を行う。



「マテラの世界には100年周期で勇者召喚と呼ばれる特別な儀式を行う伝統が残っていましてな。この儀式で召喚された勇者を手厚く保護を行い、勇者殿には国家の発展のために力を貸してもらっているのだ」

「ま、まさか……今回召喚された勇者というのは俺達の事なんですか?」

「うむ!!」

「おい、ふざけんなよ!!何で俺達がそんな事を……」



バルトの説明に5人は驚愕するが、それと同時にあまりにも理不尽な彼等の言い分に腹を立てる。どうして自分達を勝手に呼び寄せたのかと龍太が文句を告げようとした時、バルトが掌を差し出して彼を黙らせる。



「ちょっと待ってくれ……ふむ、やはり何度数え直して召喚された人間は五人いるな。これはどういう事だ?」

「え?えっと……どういう意味ですか?」

「いや、古文書によれば召喚される勇者の数は常に四人だけのはずなんだが……もしかしたら、間違えて召喚された人間がいるのではないか?」

「ええ~!?」



予想外のバルトの発言に五人は驚愕し、この中の一人が勇者ではなく、召喚に巻き込まれた一般人が紛れ込んでいるという話に驚きを隠せない。



「間違えたってどういうこと!?早く私達を元の世界に帰してください!!」

「家に帰りたいよ~!!」

「お、落ち着いて下され!!安心して欲しい!!元の世界に戻す方法はちゃんと存在するのだ!!」

「……本当ですか?」



漫画やゲームによくある展開では、元の世界に戻りたければ魔王を打ち倒す事を強要されたり、もしくは召喚しても元の世界に帰還する方法を知らないのではないかレアは思っていたが、バルトの話ではテラの世界に渡る方法はちゃんと存在するらしい。



「安心してくれ!!テラに帰還する方法はこの召喚魔法陣を使えば膨大な魔力と引き換えに元の世界に戻る事が出来る!!」

「魔力?」

「魔法を発動させる時に必要な力の事だ」

「MPみたいなもんか」

「その例えはどうかと思うけど……確かにしっくりくるわね」



元の世界に帰還する方法はこの世界に勇者が呼び出した「召喚魔法陣」と呼ばれる特別な魔法陣に膨大な魔力を送り込むだけで良いらしく、バルトの説明によるとすぐに勇者達を元の世界に戻すことは出来ないという。



「申し訳ないが、この召喚魔法陣を発動する際に予想外にも膨大な魔力を消費しましてな。もう一度発動する魔力を蓄積させるには、数日ほど待って貰わなければならん」

「え~!?」

「だが、我々としては勇者殿と協力し、魔王という存在を打ち倒す手助けを行って欲しい。無論、報酬は惜しまん」

「……報酬か。もちろん、あっちの世界に持ち込めるんだろうな?」

「その点は問題ないと断言できる!!過去の勇者達もこの世界の物資を持ち込んでテラに帰還したらしいからな」



報酬の話が出た途端に龍太の目つきが代わり、他の者達も思い悩むように顔を見合わせる。元の世界に帰れるというのであれば、ここは彼等の言葉を信じて行動するべきか悩む。



「でも、あんまりこっちの世界に長居していたら家族心配するんじゃ……出席日数も心配だし」

「その点も安心して下され。このマテラとテラの世界は時間の流れが違いましてな。こちらの一年がテラの世界では一日に相当すると聞いておりますぞ」

「ご都合設定だな……」



何とも都合がいい話であり、本当にバルトの言葉が全て真実である保証はないが、今は彼等の気分を損ねる訳には行かない。少なくとも三日後まではこの城に世話になる必要があり、機嫌を損なわせて城から追い出されるのは避けたい。



「では、勇者殿達にはこの世界の人間が扱える能力スキルの説明も兼ねて、簡単な検査を行いましょうかな」

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